第23回 サイゾー 編集長 揖斐憲さん

- マスコミが報じない出来事の裏側がよくわかる月刊誌として、独自の立ち位置を獲得している雑誌です。ヨノナカの一辺倒な流れに疑問を感じたら、この雑誌が標榜するように、視点をリニューアルしてみるといいのかもしれません。
…完全に嫌われているし、今は研音もスターダストもダメかな(笑)。大きいところはネタにする機会も多いので嫌がられてますね。
でも大マスコミでは考えられないでしょうが、「サイゾー」のようなニッチな媒体だと、逆に嫌われることで存在価値が出るんです。
「サイゾー」は創刊からずっとそうなんですが、世の中の一辺倒な流れに対してアンチテーゼを出すということがスタンスなんです。「視点をリニューアルする情報誌」と表紙にも謳っています。ですから、立ち位置としては、それでいいんです。
視点をリニューアルするって大事なことで、人間関係もひいては国際関係も、みなそうあればいいと思うんです。つまり相手の視点に
立つ、自分とは異なる立場に立つ、というスタンスで、一度は物事を考えてみようってことですよね。
でも、それを説教臭くやっではダメなんですね。オピニオン雑誌じゃないですから。むしろオピニオンはいっぱいあるよ、ということを見せたいんですね。
―その意味でのニッチな立ち位置は、ネット社会との親和性が高いでしょうね。

奥が編集部、手前がwebチーム
そうですね。創刊当初からネット的な媒体だったのかもしれません。ただ現実のネットの世界の読者の嗜好は紙媒体の世界とかけ離れていて、ネットで「サイゾー」の定期購読キャンペーンを力を入れてやったりしてもあまり刺さらないんですよ。読者がもともと違うんですね。
「サイゾー」の読者はだいたい20代半ば〜30代前半の男性中心なんですが、ネットとなるとMixiからサイトに入ってくる人が多くて、たいてい10代ですよね。紙と比べてひと世代若いって印象です。
「サイゾー」が展開するウェブメディアは「日刊サイゾー」(http://www.cyzo.com/)といって、当初は本誌でこぼれたネタを中心に展開していたのですが、これだけでビジネスになりそうということになって、いまはwebで3媒体(「雑誌サイゾー」「メンズサイゾー」「サイゾーウーマン」)、携帯で1媒体(「サイゾー裏チャンネル」)の運営をしています。
「日刊サイゾー」はいま月に1000万のPVがあります。先ほども言いましたが、この「日刊サイゾー」の読者を、雑誌である「サイゾー」の読者にすることは難しい。彼らは、ネットで完結したいのでしょう。そういう読者向けに、「サイゾー」に載せた記事を、有料化してウェブで提供し、実売が落ちていくであろう雑誌の穴埋めと考えています。Twitterもやってます。
今後は有料サイトでしかつぶやけないようなことも発信していきたいですね(笑)。
―特集のテーマは編集長が決めるのですが。

「サイゾー」から生まれた本も評判に
だいたいそうですね。僕や副編集長の提案をもとに各編集者がライターとともに下調べをしてから、企画を固めていきます。
編集は僕を含む5人しかいませんから、ひとりが扱う仕事の量は多いですが、みんなよくやってくれています。今は社長としての業務も多いので、実務面は副編集長が仕切ってくれていますね。
いやがらせが多いのでは、とよく心配されるのですが、そうでもないんですよ。このくらいの媒体だと相手にされてないというか(笑)。
ジャニーズなんかネットで変なこと書くと、ファンから電話でクレームが入ってきたりするのですが、雑誌の読者はもう少し大人しいですね。状況を理解した上で判断してくれる。企業や芸能プロから内容証明をもらうこともありますが、ほとんどが話し合えば解決します。宗教が一番やっかいですね。これまでも話し合いの余地なく、いきなり訴訟に出てくるというケースがいくつかありました。
―雑誌ジャーナリズムの凋落ぶりがよく語られますが、どう見ておられますか。

「サイゾー」初代編集長の著書も机上に
僕は週刊誌に頑張ってもらいたい。あれだけ優秀な人材を抱え、取材力もある媒体って他にないと思うんです。適度にミーハーだし、遊び心もある。こんな人たちが「サイゾー」と同じコンセプトで雑誌をつくったら、すごいものができるし、われわれはすぐに吹っ飛んじゃいますよ。
でも大手がやる以上、やれ20万部切ったからもうダメだとか、言われるわけですよね。コスト構造を変えて、5万部でもオーケーなものにできれば、まだまだ存続するし、させるべきだと思うんですよ。
編集の人が営業的センスで動く部分も増やすとか、エロをもっとうまく取り込むとか。
自分は編集しかやらない、私は年収800万円以上じゃないと納得しない、といった贅沢な体制ではなく、裏も表も理解した上で、清濁合わせ呑むくらいの度量とバランス感覚が求められていきますよね。
「サイゾー」は部数が落ちても価格を上げて、それでも買ってもらえるような媒体にしなければと思っています。やはり雑誌は嗜好品になっていくと思うんですよ。読者のニーズに応じて、300円のものから、たとえば1万円のものがあってもいい。ワインや葉巻と同じ。ここでしか得られない価値を提供できれば、常にニーズはあるものだと思っています。
(2009年10月)

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「サイゾー」を創刊したコバヘンこと小林弘人さんは私の古い友人です。彼はいまや次世代メディアのトップランナーですが、ほとんど独学であらゆる編集術を獲得した人で、その才能には昔から一種の狂気が潜んでいました。それは、ニッチな立ち位置、誰もいないところに自分だけ平然と立ち尽くすパイオニア精神と言えるのかもしれません。
そのコバヘンをして「最終的には彼に引き受けてもらいたかった」と言わしめた「サイゾー」の揖斐さん。柔らかな語り口のなかに、師匠ゆずりの独特なジャーナリスト魂とエンタテイナーとしての才能が見え隠れします。
大きな流れには乗らない。人とは違った角度で物を見る。おもしろいことには忠実に。こんなノリでつくられる「サイゾー」。編集の原点のような素朴さゆえか、どこも同じものしか流さないマスコミの報道に飽き飽きしたときなど、ちょっとしたオアシスになってくれるのです。

インタビュアー:小西克博
大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。
「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。









