第40回 ソトコト 編集長 小黒一三さん

- 日本の環境問題のシーンを大きく変えた環境マガジンの雄です。ここちよい暮らし、新しい生き方を知りたい人にも様々なヒントを与えてくれます。
…嫌なだけ。雑誌って、デザインとキーワードと写真を選ぶセンス、これだけだからね。だからデザインは大事。
「ソトコト」のアートディレクターは創刊時こそ奥村靫正(ゆきまさ)さんだったけど、2年目からはずっと本田晶大。元博報堂でいま電通のクリエーター。
中刷りやったりパッケージやったり広告的に目立つようなことを「ソトコト」ではよくやってるんですが、それは編集も広告も表現ということでは同じでしょって考えが僕にあるから。お金かかってるけど、広告クリエーターのトップに編集の表現をやってもらうことで垣根をとっぱらおうとしたのかな。
―キーワードも得意ですね。「スローフード」「LOHAS」ときて、「懐かしい未来」と。

おやつもいろいろとユニークです
なんか大貫妙子さんがラジオ番組のタイトルにしちゃってるけど。この言葉にいつだったかピンときて、お得意の商標登録をしようとしたんだけどできなかった(笑)。BS朝日では「懐かしい未来への旅」って番組やってますよ。
もともと僕が読んだ本のなかにあった言葉なんです。でもみんな使っているので、このごろ僕が言ってるのは「孫(まご)の力」。
―孫(そん)の力と読んでソフトバンクからいただき、と(笑)。
そうそう、いろんなところから(笑)。でもこれはもう登録しましたよ。いや雑誌の名前ですよ。季刊で出すんです。昔のいわゆる家族形態は崩壊してしまったけど、そのなかから今度は新しい未来を模索するんです。子供はもういいや。次は孫だよ。
―でも広告は厳しいですよね。
「ソトコト」でいえば2割くらい広告収入は落ちてますよ。ピーク時は年間6億以上ありましたけどね。でも今年になってまた少しずつ回復してる。やっぱり競合媒体がないからでしょうね。
それに企業のなかの人でもクリエイティブなことに参加したいって人は結構いるんです。そんな人たちがサポートしてくれるんですよ。不動産会社なんて常にこちらの動きを見ていますよ。次は何を打ち出してくるんだって。
―雑誌をとりまく環境をどうご覧になりますか。
紙がなくなってデジタルになってとか最近いろいろ言ってるけど、僕はあんまりどうでもいいんだな。要は、コンテンツっていうか、つくってるものに価値があるかどうかだけのことなんです。
ある考え方を提示して、そこに市場が立ち上がっていく。そのひとつの出口が雑誌であっただけで、面白い仕掛けでヨノナカに波風をたてるのが僕の仕事だから、表現は紙の雑誌でも、テレビでもラジオでも同じなんです。
でも「ソトコト」がなかったら日本の環境問題もここまで立ち上がってこなかったでしょうね。だからやる意味はあった。
この前、シー・シェパードをとりあげたのも、マスコミでは犯罪者扱いされているけどビル・ゲイツが資金提供しているような連中って何なんだ、ってことでやってみただけ。あんまりやるなって後から叱られたけど、ヨノナカとは違う角度で物事を切ることって、雑誌をやる以上は必要なことでね。
―編集部の構成はどうなっているのですか。

編集部の風景。入校で忙しい最中
指出(さしで)が副編集長だけど、実際彼が全部取り仕切ってる。僕は表紙を見たり、年に2回ほどちょっかい出すくらい。彼の下で男6人、女2人のチームで全部やってます。
でも近ごろの男の子は驚かせてくれないからつまらないな。女性のほうがいろんな意味で面白いし時代をつくっている感じがしますね。
編集部では「環境」「ファッション」「フード」「旅」の4つの柱で、新しい価値観を伝えられるかどうかを考えてつくっています。そこで新しい価値観が出せないなら、こんな雑誌やってる意味ないね。
―ネット社会になると、小黒さんのような強烈な個性が出にくい、フラットな社会になると言われますが。
小林愛(mana)ってヨガのインストラクターやってる子がいるの。銀座で働いたり苦労してる人なんだけど、彼女なんかも、パソコンがあったから自分の立ち位置をつくれたような人で、そんな人はネット社会の恩恵を受けたんだと思う。つまりネット社会っていままで社会的弱者だった人たちが、いろいろ物を言えるようになり、いままでの社会との関係をつくり始めたまだまだ創成期なんですよ。
いまはTwitterだとかMixiだとかいろいろ言っててブームなんだろうけど、みんなそのうち飽きるんじゃない?
やっぱりそれなりのことをしっかり言ってくれないとダメでね。ネット社会なんて、まだまだとにかくサルから歩き出したヒトって感じだな。
―編集者はいまのヨノナカに必要ですか。

広い打ち合わせスペースではお酒も飲める
編集者は必要ですよ。やっぱりいろいろ玉石混交だから、ちゃんと選べる人がいなきゃダメですよ。ちゃんと選べる人が偉いの。ネットでもみんなの中から選ばれる人っているじゃないですか。彼ら彼女たちもいわゆる編集者的な立ち位置になっていくんでしょうね。
―小黒さん、老後はどうします?
知らねえよ、そんなこと(笑)。
いまでも毎日飲んでるだけだからね。それが続くだけじゃないの。
もう遊ぶだけ遊んだら、あとはアフリカにでも行って木の下(「ソトコト」の意味)で死ぬよ。ライオンにでも食われりゃ本望だね(笑)。
(2010年7月)

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先日、小黒さんと久々に下町に遊び、おれも還暦だぜって聞かされて驚きました。「ブルータス」の名編集者として時代を確実にリードしてきた小黒さん。誰よりも面白いことを知っていて、誰よりも愉しく飲んで騒げるナイスな兄貴分でした。80年代、多くの人たちは彼の生き方やつくるものに憧れたのではないでしょうか。
彼がアフリカの大地に建てた素晴らしいホテルには私も宿泊させていただきましたが、そのあたりの話は伊集院静さんの小説「アフリカの王」に詳しいのでご一読を。
そんな小黒さんが12年前、環境マガジンを出すというので皆驚いたようですが、私はなんだかしっくりきました。その時代がもう来ていたのです。天性の優れた嗅覚を持つ小黒さんだから、どうあろうが形にするだろうな、と思っていたら流石ですね。「ソトコト」はいまや中国でも発売され、この世界をリードするブランドになっています。なんかいつも面白いこと新しいことやって周りを驚かせる。そして「やっぱりバカだね〜お前は」と大笑いしながら酒を飲む。それがこの人の原動力なのでしょう。本当にすごいクリエーターだと思います。
自虐系の借金ネタでいつも周りを笑わせながら、おれに割り勘などという言葉はない、と豪語してお金をばらまく人。しかし、人や時代やものを見る感性がこれだけ鋭く、優しく、かつ、でたらめでナイーブな人はみたことがありません。
最後に老後の話をふったのは、たぶんアフリカの話で落としてくれるだろうな、と思ったから。文明などに飽き飽きした詩人アルチュール・ランボオはテッポー持ってアフリカ行っちゃいましたからね。
というわけで、こんな諧謔的茶人が遊んでくれなくなったら私もおしまいかな、と思うこのごろ。

インタビュアー:小西克博
大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。
「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。







