3周にわたるデッドヒート。それは見る者の心を揺さぶった。
そのドラマを生んだのは、自らを"平凡"と称する男。
しかし奥の奥に"非凡"があるからこそ、その激戦は歴史に刻まれるものとなった。
2008年10月13日 丸亀
第55回全日本選手権 12R優勝戦
1)丸岡 正典(奈良)
2)今垣光太郎(石川)
3)瓜生 正義(福岡)
4)石田 政吾(石川)
5)松本 勝也(兵庫)
6)木村 光宏(香川)
SCENE(1)ターンミス
1マークまでは、はっきり覚えている。
インからトップスタートを切った丸岡正典は、思いきり握って旋回する、と心に決めていた。全速インモンキーで勝負。せっかくのSG優勝戦1号艇なのだ。下手に落とせば、キャビテーションや振り込みなどのリスクが増える。そんな、後味の悪すぎる悔恨だけは残したくなかった。
大丈夫、今節の回り足なら全速マイでも差されない。
それなりの自信もあった。このシリーズの丸岡の足は、サイドの掛かりが抜群だった。多少強引に握っても、今日の丸亀の静水面ならしっかり水を噛んでくれる。自慢の回り足が、優勝へと導いてくれる。そう己に言い聞かせていた。
1マークの手前、4カドから覗く瓜生正義の姿が視界に入った。節イチパワーの誉れ高い、福岡の天才レーサーの姿が。だが、戦法を決めた以上、相手が誰であっても関係ない。握ったまま、ターンマークを外さずに。
丸岡の背中を、戦慄が走り抜けた。ターンマークにぶつかりそうな自分かいた。
「やっちゃいましたね。早めにハンドルを切りすぎたのか、水面が良すぎたのか、サイドの掛かりが良すぎたのかうん、きっと、気持ちの問題。前がかりになりすぎたんだと思います。とにかく、ターンマークに接触しそうになって、慌ててハンドルを切りなおしたんですが」
接触を避けるためハンドルを戻してから、また入れなおす。これで全速インモンキーの威力は半減し、サイドの掛かり云々のレースではなくなった。虚しく、艇が流れる。
「切りなおしたとき、もう完全に覚悟しましたね。ああ、これは差されるな、って」
4カドからまくり差した瓜生の舶先が、当然のように丸岡の内を捉えていた。バックで2艇併走も、インサイドを制圧した瓜生が圧倒的優位に立った。そして、このあたりから丸岡正典の記憶が怪しくなる。というより、ほとんどレース内容は覚えていない。後世まで語り継がれるであろう稀代の名勝負は、勝者の潜在意識の中で創り出されてゆく。