Vol.03 TAKUMI: Düsseldorf  「ドイツの豚は世界最高品質。だから最高に贅沢で、最高に美味しい豚骨ラーメンが作れるんです」|世界ラーメン屋繁盛期

Vol.03 TAKUMI: Düsseldorf  「ドイツの豚は世界最高品質。だから最高に贅沢で、最高に美味しい豚骨ラーメンが作れるんです」|世界ラーメン屋繁盛期

世界各地で活躍する日本人ラーメン店主の奮闘に迫る当連載。今月は、ドイツで8店舗を展開するアグレッシブな経営者を紹介します。
年内にドイツでさらに3店舗出店、米国進出も予定しており、まさに飛ぶ鳥落とす勢いです。

「ドイツ産の豚は品質が非常に高い。うちでは、店のすぐそばにある老舗の精肉店から新鮮な背脂と豚頭を仕入れ、特別にゲンコツも切り分けてもらっています。それを8時間煮込んでラーメンのだしを取っています」

思わず喉が鳴る。ドイツでは、アイスバインやソーセージなど豚料理が食文化の中心を占める。豚肉を生食する習慣もあるので、新鮮かつ高品質な豚が手に入るのだという。

佐伯春彦さんは1998年からデュッセルドルフを拠点とし、札幌ラーメンの店「麺処 匠」をはじめ、串焼きや鉄板焼きなどさまざまな業態の日本料理レストランを営んでいる。飲食店運営や食材卸売のコンサルティング事業も展開しており、いまやグループ全体で従業員130人を抱える。

オーナーの佐伯春彦さん(左)

オーナーの佐伯春彦さん(左)


物心ついた頃から飲食業界にいたという佐伯さんは、ビアホールや洋食店などで働き、10代で夢だったニューヨークに渡る。だが、志半ばで帰国することになり、いつかもう一度海外でチャレンジしたいという思いを温めていたという。

チャンスが訪れたのは26歳のとき。知人が経営するアムステルダムの焼き鳥店に誘われ、調理師として働くことになったのだ。その焼き鳥店がドイツに進出するにあたり、デュッセルドルフ店に異動。やがて店を任されるようになるが、同店が営業権を譲渡することになり独立を決意する。

最初に開業したのはカフェ。そこで深夜メニューとして提供していたのがラーメンだった。「手をかけたらかけた分だけ美味しくなる」ラーメンの奥深さに開眼し、2007年に専門店「麺処 匠」をオープンさせる。

デュッセルドルフはドイツで最も在留邦人の数が多く、日本食の激戦区として知られる。ラーメン店の競争も激しい。そこで佐伯さんがこだわったのが、冒頭のドイツ産の豚、そして麺選びである。

「パンチの効いた豚骨スープに負けない、個性的な味わいのある麺を求めていました。当時輸入可能だった生麺をすべて試した結果、いちばん好みに合ったのが西山製麺のものだったんです」

業界では有名な老舗製麺会社だ。佐伯さんは「そうとは知らずに選んだ」と恥ずかしそうに言うが、純粋に味で選ばれたことを、西山製麺側は今も喜んでくれているという。



SPEZIELLE RAMEN

SPEZIELLE RAMEN


匠特上味噌 13.8€(約1700円)
肉や野菜をラードで焼き炒める札幌スタイル。塩、醤油は12.8€
【麺】 札幌直送のオリジナル麺。独特のコシの強さと喉越しの良さが特徴。
【具】 豚バラと炒めたキャベツや玉ねぎなどの野菜に、もやし、ネギをトッピング。
【スープ】 羅臼昆布をベースに、豚骨や豚頭を8時間かけて丁寧に炊き込んでいる。

 

黄色く縮れた札幌ラーメンらしい中太麺。札幌で作りたてを即冷凍し、ドイツに空輸する。それを自然解凍し、3日間かけて熟成させる。

日本では、注文の際に麺の固さを指定できるラーメン店は珍しくないが、「匠」ではドイツ人客にも茹で加減の好みを訊いている。手間暇かけた麺を最大限に楽しんでもらいたい、美味しく食べてもらいたいとの思いからだ。

今では道産小麦の太麺や縮れ細麺、シンプルな味わいの中華麺、さらには全粒粉の麺も2種類取り入れ、メニューによって約10種もの麺を使い分けているという。

そんなこだわりが、味に厳しい日本人駐在員に圧倒的な支持を得てきた。当初はほとんどの客が日本人だったというが、近年はその比率が逆転し、ドイツの人たちが8割を占めるようになった。

ドイツ人客の多くがオーダーするのが、こってり甘辛い照り焼きチキンをのせた「鶏照り味噌ラーメン」。野菜のかき揚げをのせた、ベジタリアン対応の「ベジ味噌ラーメン」も注文の2~3割を占める人気メニューだ。

ドイツ人客に人気の「鶏照り味噌ラーメン」13.8€

ドイツ人客に人気の「鶏照り味噌ラーメン」13.8€




すっかり欧州に溶け込んでいるかに見える「匠」だが、ドイツで飲食店を経営するのは「今でも苦労の連続」だと佐伯さんは語る。市保健局の厳格な審査や、語学の壁。従業員の確保も容易ではない。日本語ができるドイツ人、中国人や韓国人も雇い入れているが、現状では日本人スタッフがほとんどだという。

こうした経験をもとに、佐伯さんは“ラーメンコンサルティング”も始めた。「匠」のラーメンを食べて感激した現地の人が、自分でも出店したいと相談しにくることがある。そんな人に、ラーメンの作りかたから食材の調達方法、開業のノウハウまで提供するのだ。

欧州の人だけでなく、日本人でも脱サラして欧州での開業を目指す人、独立を希望する人、日本食レストランからの業態変更や本格ラーメンのメニュー導入の相談など、幅広い要望に応えている。

「ドイツではこの3~4年でラーメン人気が高まり、競争も激化しています。デュッセルドルフには30年行列が絶えない店もあるし、新規参入の店もある。それぞれ個性を打ち出しているので、どこも繁盛していますよ。今後はますます品質勝負になっていくと思います」

競争によりラーメンのレベルが上がれば、現地在住の日本人にとっては嬉しいことだが、それが佐伯さんの目的ではない。

「美味しいラーメンが欧州中に広がることが僕の喜びなんです。もっともっとラーメン屋さんが増えて、欧州の人が普通にラーメンについて語り合うようになればいいですね」

2007年開業の「麺処 匠」1号店

2007年開業の「麺処 匠」1号店


TAKUMI Düsseldorfer Ramen
麺処 匠
Immermanstr. 28, 40210 Düsseldorf
brickny.com/takumi/
日本食レストランが軒を連ねるインマーマン通りにある。営業時間は月~金12:00~22:30、土11:45~21:45、日12:00~22:00。6月にベルリンの2店舗目、9月にミュンヘン・デュッセルドルフにそれぞれ2店舗目を出店予定。さらに米ニューヨークのウェストヴィレッジ店が11月にオープン予定。系列店に鶏そば「うまいもん」、串焼き居酒屋「串亭」、鉄板居酒屋「焼左衛門」、「カフェ・リラックス」がある。

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