―iPad版の電子雑誌のデモを見ましたが、すごいですね。これは動く雑誌というか・・・雑誌の概念自体が変わってしまうのかもしれません。

iPadではこんな動く雑誌になって登場
「GQ」5月号から皆さんにiPadで見ていただこうと用意してきましたが、残念ながらiPadの日本での発売が遅れてしまって・・・。でも、独自アプリは開発しています。いち早くこの世界に参入していろいろチャレンジしていこうと思っています。
雑誌の電子出版については、マガストアでの販売などを通じて早くから取り組んできました。でも単に紙を電子化してPDFをただペラペラ見るということでは、あまり意味がないと思っています。それは紙をPC上に置き換えるだけですから。動画を取り込んだり、斬新なデザインをしたりして、新しいデバイスに見合った雑誌の姿を見出していかないとダメだろうなと思っているんです。
雑誌のコンテンツは多角的に展開します。たとえば、商品紹介のページは、デジタルの画面上ではその別バージョンが見られたり、商品を別の角度から見られたり、音楽紹介ならその音楽そのものが聞けたり、映画紹介なら予告編が鑑賞できたり、雑誌内に検索機能を付けたり、ソーシャルメディアへのシェア機能を加えたり、・・・と。
とにかく紙の雑誌の平面の枠を超えた表現をこれから様々に模索していくことになりそうです。
―雑誌も紙に固定されたストックから動きのあるフローへと変わるんですね。
これからそうなっていくでしょうね。弊社はこの「GQ」が象徴的に示すように、旧来の出版社からトータル・メディア・カンパニーへ変わっていきます。そのための体制づくりを始めています。
編集部では、動画コンテンツや、デジタルならではの機能を加えた誌面づくりを推進するために、体制を整えている最中です。とにかく周りのスピードが速いので、それに即座に対応できる柔軟な組織にしていかねばと思っています。
―「R25」や「BLOGOS」を立ち上げた田端さんがライブドアから来られたり。
電子版事業を進めていくにあたっては、それ相応の知識やスキル、それに戦略が必要です。だから外部のいろんな人たちにも参入してもらおうと思っています。特に旧来の静止画コンテンツと動画コンテンツのつくりかた、見せ方などには人一倍気をつかっています。かっこよく見せなければならない。伝わらなければ意味がない。
前例がないので難しいですけれど、人に先んじてやる喜びはありますね。外部から来る人には、いままで我々が考えもつかなかったようなことを考えてもらいたいし、そこで我々もしっかりコラボしていけるようにしたいですね。
―そのへんの話はこの前、御社の社長からも聞きました。人に先んじてやるということは、とてもチャレンジングだしクリエイティブな行為です。本来、雑誌づくりの現場はそうあったはずなんですよね。最初はどこも前例なんかなかったわけですし。
おっしゃるとおりだと思います。われわれは雑誌づくりのそんな原点に立ち返ってやっていきたいと思っています。こういう状況なので、他の業界からも雑誌の世界へ人が流れてきています。そこで新しい表現方法が生まれてくるのだと思います。
だから、編集者は新しいことをやってることにプライドを持って突き進んで欲しい。われわれの動きが出版界のカンフル剤になれば有難いと思います。
そして、新しいビジネスモデルをつくっていきたいです。
―コンデナスト・ジャパンは米国のコンデナストの子会社になっているのですか?

世界中で出版されている「GQ」
米国コンデナストの子会社であり、米国以外の国を統轄する英国のコンデナスト・インターナショナルのブランチという位置付けです。ただiPad展開はアメリカの次は日本ですから、英国より進んでいます。
組織上では、私の上にアジア・パシフィックのエディトリアル・ディレクターがいて、彼は日本、中国、韓国、台湾、オーストラリアのクオリティ・コントロールをする立場です。月に一度香港からやってきて、「GQ」というもののスタイルをチェックする。
「GQ」って17カ国で出版されているのですが、基本は「GQ」DNAとでもいうべきものがあって、それをどうローカライズしていくのか、というつくりかたなんですよ。
―デザインもキャップさんで、以前のままですね。

ページ構成はボードに磁石で貼って考える

編集部員は取材で外出中です
ええ、デザイナーの方々には編集部にデスクを持ってもらっていて、そこで作業をお願いしています。iPadのデザインも考えていかねばならないので、大変でしょうが、楽しんでやってくれているようです。
日本の雑誌って、特徴があるとしたら、「特集」の見せ方でしょうかね。あんなに何ページも特集が組まれる雑誌って欧米ではまず見ないですよ。それに右開きで縦組みの文字(笑)。
左から開いて横組みの文字があたりまえの他国の事情とは比べると日本は本当に特殊な環境にあるのだと思いますね。ですからデザインにも特別なセンスが必要ですよね。
―竹内さんはいままでどんな雑誌で仕事をしてこられたのですか。
「GQ」に来る前に僕は「Esquire日本版」で7年仕事をしました。この雑誌のスタイルにプライドを持っていました。高級ライフスタイル誌には、やはりスタイルが必要ですね。「GQ」よりはカルチャーよりで、エッジが利いている媒体でしたが。
「GQ」はもっとメジャーで、メンズ誌では断トツナンバー1、オンリー1の雑誌だと思っています。また、そうあらねばなりません。このブランド、スタイルを正しく伝えていくのが僕の使命です。
中心になる読者は30代後半の感度の高いビジネスマンですが、常に新しく、スタイリッシュな内容のものを、提案していかねばと思っています。
ですので、彼らのいろんな興味にも対応できるように、これからは小特集をもっとさまざまに幅広くつくっていきたいと思っています。
―読者の幅をあまり広げるのはこの手の雑誌だとなかなか難しいところがありますよね。少数でも優良なコミュニティが担保されることに広告価値もうまれるのでしょうし。
まさにそうです。ただ単にいろんな読者に迎合しようということではないのです。読者との接点をもっと増やそうと思っているのだけなのです。そのためには「GQ」というものの認知度がもっと上がらねばなりません。
iPad展開にしても、コンテンツをデジタル化して見せることで紙の媒体との相乗効果を期待してのことです。いまは消費者にメディアが近づかないとその良さが生きてこない時代です。いい本をつくっても、ただそれだけじゃ売れないですよね。だから間口を広げて多くの人に見てもらってチョイスしてもらえばいいと。
―雑誌の内容については、今後どんな方向に行きそうですか。

「WIRED」は研究材料として重要に
僕自身、編集者としてのスタートが「FINEBOYS」(日之出出版)なんです。以来ずっとファッションは担当してきました。もともとファッション好きの人間だったんですよ。「ポパイ」(マガジンハウス)や「ホットドッグ・プレス」(講談社・休刊)を読んで育った人間ですから。
日之出出版に入ったのもファッションをやりたかったからなんです。ずっと培ってきたファッションへの理解度やスキルに基づく、独自の視点をもっと入れていきたいです。秋にはファッションの特別号を出す予定です。
―逆に、やりたくないことって何ですか。
「日本沈没」とか「底」とか、最近の週刊誌に多いネガティブ・キャンペーンみたいなのは嫌ですね。こういう時代だからこそ、ビジネスのヒントになるような読者に希望を抱かせるポジティブなコンテンツをたくさん提供して、日本の社会に勢いを与えていければいいなと思っています。
コンテンツでは、紙とデジタルを全部まとめて雑誌です、って外部には言ってまして、それで取材や広告を進めているのですが、まだスタンダードがないので、毎回説得に時間を要します。でもそのスタンダードを協力者と一緒につくりあげていく。WEB世代の考えをちゃんと取り入れて、世の中の時流を捉えてフレキシブルに対応できる組織で、他誌が見本にしたいと思えるようなチームができればいいなと思っています。
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1.GQ(コンデナスト)
世界17カ国で出版されている「GQ」。質の高い誌面、独自の取材方法などは、やはりこの仕事上一番役にたっています。
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2.WIRED(コンデナスト)
いまこそ必要とされている雑誌ではないでしょうか。ビジネスヒントなども満載です。
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3.VANITY FAIR(コンデナスト)
セレブリティの世界を独自の表現で紹介。日本ではなかなかできないような質の高い記事は、「GQ」をつくる上で大変参考になります。
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4.AERA(朝日新聞出版)
読みやすい。他の週刊誌と比較して、ネガティブな論調が少なく、独自の方法でムーブメントをつくるやり方は編集のお手本です。
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5.Touchdown(タッチダウン)
アメフトの雑誌なのですが、戦力分析なども含めて読んで考えています。メンタルには私もスポーツマンです。
(2010年4月)
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- 「GQ JAPAN」の創刊に私が参画したのは、いまから20年近くも前のこと。創刊編集部はたった3人でした。当時「マリクレール」の黄金時代をつくったヤスケンこと安原顕さんにも声がかかったそうですが、彼は「オレにゃこんな雑誌はできねえ~」と米国版のページをめくりながらつぶやいてましたっけ。で、結局、編集長が「新潮45」のデスクだった中さん、「週刊プレイボーイ」「エスクァイア日本版」などで編集者をしていた木下さん、それとほぼ海外プー状態だった私ということになりました。 周りに大勢のコントリビュータがいたとはいえ、なんとも心もとない船出でした。当時は「GQ」なんたって誰も知らないし、交渉先が外国人だし(笑)。そのときのバカみたいな苦労を、なんとなく懐かしく思い出しながら、竹内さんから近況を聞かせていただきました。
電子書籍、電子雑誌の議論がかまびすしい昨今ですが、技術やビジネスサイドからの理屈が多いような気がします。それは間違いではないのですが、編集サイドから言うと本質論ではない。雑誌や本が好きな人、編集することが3度のメシより好きだという人は、世間がどう言おうが、自分なりに闘いながらやっていくことになるのでしょう。
新しいことをやる、前例のないことをやる。これがまさに雑誌づくりの原点だと思います。竹内さんは、それをしようとされています。しんどいでしょうが、がんばってください。時間はかかるでしょうが、そのうち周りがついてくるでしょう。応援しています。
インタビュアー:小西克博
大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。
