―この雑誌は、もともと「プレジデント」誌の別冊でしたよね。

最初の2冊は「プレジデント」の別冊だった
ええ、別冊で2冊出しました。それから2006年に月刊化し、私が編集長をつとめています。私は1994年から「プレジデント」誌の編集に携わっておりました。
そこでよく「学力と学歴」とか「金持ち家族、貧乏家族」といった特集をしたのですが、これが人気が高かったんですね。ですからその部分を切り出して、独立してやっていこうということになったんです。この雑誌が生まれたのはそんな経緯なんです。
―仕事をする男たちの家庭観がちょうど変わるころだったのでしょうか。
そうですね、それまでは正直、家庭を顧みないスタイルが主流だったと思います。90年代に職場が結構世知辛くなって、家庭をもっと大切にしなきゃといった風潮が生まれました。仕事と家庭は両輪、家庭は仕事の基礎固めの場所として見直されるようになりました。
そんな風潮の中、地位も上がり責任も重くなった、年齢で言うと40歳くらいで、小中学生の子供がいるような男たちに、この雑誌はメッセージを送ることになったんです。
―家庭をとりあげながら、目線は男性なんですね。

今と変わらない創刊号のスタイル
ええ、基本は「プレジデント」読者ですね。その目線で家庭や教育を取り上げてみたということです。そうしたら結構反響が大きくて(笑)。やはり、この世代はみんな家庭のこと、子供のこと、教育のことが一番の関心ごとだったんですね。でもアンケート取ってみると読者の6~7割が女性だったんですよ。
―奥さんが買って旦那に読ませると。
そうですね。ですから、教育現場や様々なデータをしっかり見せて現状を把握してもらえるようなことにも気をつかっています。父親に分かりやすく、母親にも新鮮に、という配慮をしています。
―鈴木さんの考える「いいファミリー」というのは、どういう人になるのでしょう。
いいファミリーってなかなか一言では言えませんが、たとえば夫なら嫁さんの相談者になっているかどうか。これ重要だと思うんです。それをちゃんとするためには、常に自分の妻がどういう状況に置かれているかを気にかけていなければいけない。女性は往々にして共感を求めるものなので、それにちゃんと応えることが父の力で、これがないファミリーは難しいですよね。
また母親も、子供との距離をもっととるようにしないとまずいと思っています。やはりイライラしている母親って結構いるんです。雑誌でもイライラなどといった言葉を使うと反応が大きかったりします。父親もそれを感じていて、そんなタイトルの雑誌を母親に見せたがったりする。それで反響が大きくなるんです。
―鈴木さんの家庭はいかがなんですか。
私は修行の身ですから(笑)。自分の小さい頃を振り返って思うのは、母が教育ママで、テストで悪い点とったときに包丁持って追い回された記憶があるんです(笑)。こんなのはまずいだろうなって思うんですよ。
この前、東大生たちと話してて面白かったのは、彼らは間違いはラッキーだって言うんです。つまり間違うとそこで自分が何が分からなかったのかが分かると。だからそこを正していけばいいと。なるほどなって思って。で、同時に、そんな風に私も教育して欲しかったと思うんですよ(笑)。
間違ったら、じゃあどうしよう、どう解決していこう、といった発想につなげていけるような教育ができる家庭でありたいと思っていますね。
―いわゆる徳育などについては取り上げたりするんですか。
ええ、やりますよ。家庭教育の一環ですから。まあ定番は受験、教材もの、お金にまつわる話、食べ物の話などが中心で、基本すべて教育や受験といったものに結びついたもの。それなかで礼儀とか躾とかの問題も出てきますからね。「一流の家と二流の家の違い」といった特集なども人気が高かったですね。
―企画のヒントってどんなところにあるのでしょう。

編集部は整然とした新オフィス内にある

編集部の本棚には、受験や教育関係の本が目立つ
私の場合は自分の周りの家ではどんなことが話されているのかが大切ですね。やはりその場になって気づくことって多いと思うんです。高校受験を目の前にして、え~今ってそんなことになっているの~なんていっても、もう遅かったりします。やはり世間の常識というか、普通の人たちが日々話題にしているような話に聞き耳を立てて、よく観察するといろいろ見えてきますね。
そんな具合で、メインテーマは私が考えて、それを編集者に振って、編集とライターで取材をしていくというのが通常のスタイルです。9人体制の編集部で、年間12冊の雑誌と別冊6冊を出しています。
―取材を通じて出会われたユニークな家庭も多いでしょうね。
そうですね、ノートを使わないでホワイトボードで勉強してたり、国語辞典をあらゆる部屋に設置していつでも調べられる環境を用意してあったり・・・。医者志望の家で、リビングの壁にずっと解剖の映像を流している家もありましたよ(笑)。その家の子はめでたく医者になりましたけど。
―いろいろ子供に対して環境を整えてあげるんだけど、今の子って昔より学力が落ちているとも聞くんですが。
相対的に学力が劣っているというより、すごく出来る子と普通の子との格差が大きくなったんだと思います。一流校に進む子は確かに熾烈な受験戦争を勝ち残らねばならないので、必死にやりますが、普通の子はそこまでやらない。またやらなくても、今はいろんな選択肢があるのでそれでいいんですよね。工業高校を出てから、また東大の大学院に行ったりする子もいますし、このご時世に100%の就職率を誇る商業高校があったりもする。いろんな可能性があっていいんだと思います。
―我々の子供の頃と比べて、家庭ってどう変わったんでしょう。

こんなお洒落なカフェが編集部内に
私は、みんな内向きになりすぎてると思うんです。セキュリティーの問題に神経質になりすぎていて、厳重にカギをかけて狭い生活空間で暮らしてる。昔のようにもっとオープンにして近所付き合いもきっちりしたほうが安全に違いないんです。いじめの問題も内向きであるがゆえの問題ですよね。もっと暮らしをオープンにしたほうが、楽な気持ちで生活できると思います。
また、子供は大事な存在に決まっていますが、子供のために何でも、といったような考えを一度捨ててみることも重要かなって思うんです。子供への過度の優しさがかえって家庭を苦しめているという現実もあるようですから。
私の息子は野球をやってまして、休日、私は審判で参加してるんです。息子のポジションはピッチャーなんですが、彼が本当にやりたいのは審判。将来はプロ野球の主審をやりたいという。子供って本当に妙なことを言い出しますよね。かなえてやりたいって思っても、どうしたらなれるのかわからない。だから審判に関する本を与えてみたんですが、大人向けの本なのに食い入るように読んでいました。いったい息子はこれからどんな方向に進むのか見当がつきませんが、親はそれを見ているしかないんでしょうね。
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1.週刊文春(講談社)
ニュースに対する切り口が楽しみです。
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2.週刊新潮(新潮社)
これも同じくです。
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3.暮しの手帖(暮しの手帖社)
昔から花森安治的なつくり方はお手本でした。
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4.文藝春秋(文藝春秋)
企画の視点を参考にしています。
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5.アエラ(朝日新聞出版)
女性の視点というもののヒントになります。
(2010年10月)
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- プレジデント社の新しいオフィスに初めてお邪魔しました。皇居を目の前に見渡せる都内の一等地にあるオフィスの応接室で、編集長の鈴木さんから話を聞かせていただきました。皇居を見ながらということも手伝ったのでしょうか、鈴木さんの顔が皇室の方のお顔に似てるような印象も受けました。かといって、やんごとなき話をするわけにもいかず、リアルな家庭の話をいくつかきかせていただいたわけです。確かに「仕事」と「家庭」は両輪関係。ビジネスマンにはバランスが求められる時代です。
実はプレジデント社の元社長で作家で名編集者だった諸井薫こと本多光夫さんからは、何度かお話を伺ったことがあります。それも、そもそも編集者たるものは、といった濃い内容のものでした。何よりも男気や粋といったものを大事にされた諸井さんでしたが、生きておられたら現在の一般的「ファミリー」というものにどんなコメントをされるのか、ちょっとだけ聞いてみたい気にもなりました。
インタビュアー:小西克博
大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。
