特集●糖尿病患者の救急医療・急性期医療
企画編集/亀井 望
<特集にあたって>
糖尿病患者数は増加を続けており,急性期病院の救急外来を受診する患者のなかに占める糖尿病患者の割合も同様に増えていると考えられる.意識障害や全身状態の悪化などで救急搬送される患者は,まず救急医や総合診療医,当直医などが診療することが多い.糖尿病を有していない救急患者とは異なり,糖尿病患者の救急診療においては特有の鑑別診断や初期治療があり,血糖管理にも注意を要する.糖尿病専門医のみならず,急性期医療にあたるすべての医師と医療従事者にこれらの注意すべきポイントについて知っていただきたいと考え,今回の特集を企画した.
糖尿病に特徴的な急性合併症や急性期病態として,高浸透圧高血糖状態(HHS),糖尿病性ケトアシドーシス(DKA),乳酸アシドーシスなどがある.高齢患者は感染や脱水などを契機として容易にHHSとなるため,適切に診断を行い早期に治療を開始する必要がある.また,SGLT2阻害薬による臓器保護作用にはケトン体の関与も考えられているが,一方でsick dayなどに適切な休薬がなされないと正常血糖ケトアシドーシス(euglycemic DKA)を引き起こすことがあり,救急の現場で診療する機会が増えている.euDKAは,これまでの1型糖尿病でみられたDKAとはやや異なる病態を示し,治療においても早期からブドウ糖投与を開始する必要があるなどのポイントがあり,知識をUpdateしたい.
2型糖尿病治療の中心が低血糖を起こしにくい薬剤へと変わりつつあること,1型糖尿病でも血糖モニタリング機器やインスリン製剤が進歩していることから,低血糖で救急搬送される患者数は今後減少していくことが期待される.しかし現時点では,低血糖による救急受診はまだまだ非常に多く,その対策と適切な治療は重要である.救急の現場では,低血糖はブドウ糖の静脈注射で容易に改善するものの,帰宅後に再度意識障害を起こすなどの事例もあり,注意を要する.
糖尿病に特有の病態ではないが,その経過に糖尿病と血糖管理が大きく影響する疾患もあり,糖尿病専門医による治療介入が重要である.心血管疾患・心不全は糖尿病患者において特徴的な病態を示し,また近年の治療の進歩も目覚ましい領域である.同様に急性腎障害や慢性腎障害患者の病態悪化にも対応できる臨床力が求められる.
糖尿病患者には易感染性があることが知られており,感染症は糖尿病で非常に多い急性併存症である.糖尿病に特有の感染症もあり,診断が困難であることも多い.治療においても糖尿病患者における抗菌薬使用の方法を十分理解しておきたい.また,COVID-19 感染症は血糖コントロール不良の糖尿病患者において予後が悪いことが示され,糖尿病専門医が積極的に治療に関与すべき病態である.
急性期病院の糖尿病専門医は,外傷や周術期および悪性腫瘍治療に関する血糖管理に多くの時間を割いている.外科手術において血糖管理が不十分であると創部感染などの術後感染症のリスクが高まり,予後の悪化や入院日数の延長につながる.悪性腫瘍の治療においてもステロイドによる高血糖や免疫チェックポイント阻害薬による1型糖尿病発症リスクなど,糖尿病専門医がいないと高度な医療ができない時代になっている.しかし,これらの病態に対する専門的な血糖管理には現時点で加算がない.これは非常に大きな問題であり,保健医療制度のなかできちんと評価されるべきであると考える.日本糖尿病学会は,糖尿病専門医による適切な急性期の全身管理は術後合併症などを減らし医療費の抑制につながることを厚生労働省に訴えており,重症度や医療・看護必要度の項目に糖尿病専門医によるインスリン管理を加えることを要望している.
本特集では,慢性の管理や合併症・併存症が注目されることの多い糖尿病診療において,救急や急性期医療の重要性にスポットライトを当てた.エキスパートの先生方に最新の知見をわかりやすく解説いただいており,実践的な内容になっているため,明日からの診療にすぐに役立つことと思う.本特集が日本における糖尿病患者の救急・急性期医療のレベルアップにつながり,多くの糖尿病患者の生命予後が改善することを願っている.
亀井 望(広島赤十字・原爆病院 内分泌・代謝内科 部長)
<目次>
1. 意識障害・救急搬送/岩岡秀明
2. 1型糖尿病/山本あかね,齋藤修一郎,廣田勇士
3. 高浸透圧高血糖状態/角谷佳則,森岡与明
4. 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)/佐藤大介,久米真司
5. 乳酸アシドーシス/牟田芳実,川浪大治
6. 低血糖/志熊淳平,鈴木 亮
7. 心血管疾患・心不全/佐藤達也,古橋眞人
8. 腎障害/山尾有加,金﨑啓造
9. 感染症/山本たける,細川直登
10. COVID-19/大杉 満
11. 外傷・周術期/細井雅之,藥師寺洋介
12. 悪性腫瘍/北澤 公
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