―2010年12月号で創刊20周年になるわけですね。

20周年記念号の表紙が出来上がってきた
お陰さまで。
ですから、12月号は「創刊20周年の結論。いま本当に食べたいもの、行きたい店」という特集を組みました。ちょうど表紙が刷り上ってきたところです。
―創刊以来「ダンチュウ」はこの世界をリードしてきたと思いますが、料理の世界ってその間に飛躍的加速的に進化したんじゃないのかなと思うんです。20年前だったらたとえば、“アルデンテ”という概念をどのくらいの人が意識できていたか、とか。
確かにおっしゃるとおりですね。この20年の進化というのはすごいと思います。みんな口が肥えましたね。
でも外食やお取り寄せなどの世界ではそうであったかもしれませんが、逆に退化した部分もあるなと思うんです。たとえば普通に母親の手作りの料理をちゃんと食べられる人がいまどのくらいいるでしょう。そういったふつうの食卓の風景は退化しているのかもしれません。
―「「ダンチュウ」ってユニークなネーミングですが、この由来は。

市場を特集していた創刊号
その頃弊社社長だった本多(作家・諸井薫氏)が名付け親です。「男子厨房に入るべからず」をもじってるんです。男も積極的に厨房に入って料理に参加するのがある意味ブームでもありましたし、まぁ、おいしいものを求める気持ちは男も女も同じですからね、どんどんやってほしいといった気持ちも込められているんでしょうね。
ビジネス書中心の会社でしたから、何か遊びの要素のあるものをつくりたかったんです。ビジネスマンの遊びって食べ物かゴルフか(笑)、限られてますよね。それに「食」は難しいといわれてもいたんですが、ほんとお陰様でここまでやってこられたって感じです。
そんなに背伸びしないところのネタをやってきたつもりなんです。創刊号なんか市場の案内ですから(笑)。でも、本音で取材して書いてきましたから、その志は評価をいただけたのだと思っています。
―特にどういったところに気をつけてつくってこられたんですか。

午前中はまだ人がいない編集部
編集者は愚直にネタやお店を探して歩こう、ということでしょうか。これが基本です。足で探して食べることを積み重ねていく。そのうち、ここでは何を伝えたら面白いかが見えてくる。上から目線ではなく、あくまで自分の経験の積み重ねから記事をつくっていく。そんなスタンスで仕事をするということでしょうか。
もちろん企画段階でネットの情報を使ったり、ネット上で評価の高い店をロケハンしたりはします。ネットの世界は双方向ですし、情報は満載ですが、でもその評価は当てにしません。あくまでわれわれは自分たちの独自の視点でお店の評価をします。逆にネットの評価とは違いのある視点がユニークだと評価をいただいているのだと思います。
―取材はライターと編集が一緒に動くスタイルですか。
そうですね。それとカメラですが、通常30人くらいライターさんがいますので、その人たちとうちの編集者が共同で取材するスタイルです。
うちの場合は編集は編集、ライターはライターと仕事を分けています。やはりそのほうがいい記事になりますね。編集は写真の見せ方や取材先のケアなどいろいろやることがありますから。
―売れる特集ってだいたい決まっているものなんですか。

好評の復刻版「餃子万歳」

好評の復刻版「カレー大全」
やはり「カレー」ですかね(笑)。それに「餃子」、「パスタ」なども売れます。やはり身近でおいしいものに皆の関心が集まるってことだと思います。
「カレー」といっても中味やバリエーションはこの20年ですごく変化しているんですが、本音で食べたいものって変化してないのかもしれません。
―読者の方は40歳くらいですか。
ええ、40代で男女比は半々くらいです。基本的に都市部で売れる雑誌ですね。
―「いい店」と「悪い店」を選ぶときの基準はあるのですか。
基準というか、やはり、「いい店」って値段に見合ったおいしさがあるかどうかだと思うんです。感じがいいこと、清潔であること、接客がちゃんとできていることなども基本ですよね。
おいしさって、つきつめると、やはり作り手の顔が見えること、伝統的なものをベースにしていること、素材がいいことといったところに行き着くんです。農薬を大量に使っていたりするものなどは、やはりおいしくない。なにも贅沢である必要はない。そうではなくとも、いま言ったみたいなちゃんとしたおいしさを知っている人がやってる店は「いい店」ですよね。
―でもこの不景気ですから、激安レストランがブームで、それがイコール「いい店」になっちゃたりしてますよね。
まぁこの風潮には・・・(笑)。いや、私なども日々コンビニ弁当食べたり(笑)。高い店と安い店って二極化してますよね。だから、ハレとケといった具合に、普段はコンビニ弁当でも週末はちょっと気取ってちゃんとしたところで食べようと。プチ贅沢をしましょうと。そういった使い分けでいいと思うんですよ。
それと、安い素材でも工夫次第でおいしく出来ますよね。ちょっとしたチャーハンひとつとっても、いくらでも工夫できる。そこがおもしろいと思うんですよね。われわれの雑誌ではそんな提案もしているつもりなんですよ。
―近ごろ感動された食事って何ですか。
11月号でも取り上げたのですが、中勢以という精肉店のお肉ですね。熟成させた牛肉なのですが、感動的な旨さです。少し値段は高めですが、肉の脂を感じさせないのでいくらでも食べられる感じのものです。職人さんの見事な技ですね。
和牛でいえば、宮崎の尾崎牛というブランド牛も素晴らしいです。噛んでいるうち清らかな水を飲んでいるような感じが残る。見事でしたね。
―お腹がすいてきた(笑)。そういえば食のトレンドなどには配慮されるのですか。

別冊もユニークな企画で好評だ
カレー鍋やトマト鍋が流行ったので次は・・・みたいにいろいろ聞いたり聞かれたりするのですが、流行の仕掛け的なものにはあまりのらないようにしています。
基本はおいしさと健康。これが一番ですよね。
そのテーマで別冊を出したりしています。「酒飲みダイエット」「満腹ダイエット」などよく売れています。こういうのは欲望のツボみたいなものですが、あまり背伸びせず、このあたりを押さえていくのがやはり基本かと思っているんです。
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1.料理通信(角川春樹事務所)
料理人の顔がたくさん掲載されていて、先端の人が誰かよく分かるんです。
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2.週刊プロレス(ベースボール・マガジン社)
昔から読んでます。レスラーの生きざまに迫っているところがいいですね。
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3.ザ・フナイ(船井メディア)
ある意味、世の中のわけのわからない世界の最先端という感じがします。
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4.プレジデント(プレジデント社)
管理職になるとこの雑誌からいろいろ学べます。
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5.オレンジページ(オレンジページ)
一般的な読者がどのようなものに関心があるのか、ということがよく分かります。
(2010年10月)
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- ちょうどお昼前に編集部に伺ったためか、おいしそうな表紙写真を前に、これまたおいしそうな取材の話を訊くのは、お腹の虫には少し気の毒でした。
この20年、食の世界をリードしてきた「ダンチュウ」の編集長なので、さぞや目線の高いところから語られるのでは思っていましたが、町田さんにはそんなそぶりはまったく感じられず、むしろ普通以上に庶民目線を大切にされている方でした。
この編集長インタビューでは、毎回登場していただく編集長に愛読雑誌を選んでもらっているのですが、「ダンチュウ」ほど多くの編集長に読まれている雑誌もないかもしれません。食はそれだけみんなの高い関心を集めているということですが、その世界を常に一歩リードして牽引していかねばならない立場は想像以上に大変だと思います。
取材をまとめながらページを眺めていると、またお腹がすいてくるのでした。
インタビュアー:小西克博
大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。
