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愛をテーマにした『ニューヨーク・タイムズ』の人気コラム『モダン・ラブ』。
今回は白人の男の子のベビーシッターを務めることになった黒人男性、ケヴィン・レンさんのコラムです。
小さな子どもとの日々のなか、時に泣き、時に笑い、彼が決めたこととは…?
コラムから抜粋して紹介します。
ベビーシッターになることを決意
僕は24歳、ニューヨークに来てしばらく経っていた。
昼は好きでもない仕事をして、夜はウェイターをして、時間を見つけては部屋で脚本を書いている。
金銭的にはきつい。
ジーンズもきつくなってきた。
ウェイターの業務を終えると、高カロリーの酒肴を平らげていたからだ。
選択肢はそれほどない。
だから堅実だと思って、ある仕事に駆けることにした。
ベビーシッターだ。
ハグで出迎えてくれた4歳のルーカス

僕が育ったインディアナ州、ニュー・アルバニーでの仕事のほとんどは、子どもに関わるものだった。
地元のYMCAで『子どもキャンプ』のカウンセラーとして、夏にはティーチング・アーティストとして7年間働いた。
貧乏なアーティストにとって、ベビーシッターは最高の仕事の一つだと誰もが言っていた。
ごっこ遊びをしたり、子どもの想像力に深入りしたり、笑いもあれば楽しみもある。
子どもが空腹になり、不機嫌になり、そして怒りだすまでの話だが。
ここで問題なのは、僕自身が良いベビーシッターかどうかなのではない。
身長が6フィート(約183センチ)以上ある黒人の僕に任せる人がいるのか、ということだった。
ルーカスの両親は僕に任せてくれた。
初日に彼らのアパートに入ると、髪を束ね、満面の笑みを浮かべた小さな4歳の白人の少年が、予期せぬハグで僕を出迎えてくれた。
彼の両親、ジョンとマークは50代前半で、痩せていてタトゥーがあり(一人はスリーブタトゥー)、
どちらもSOHOの美容師で(一人はカラーリング専門、一人はスタイリスト)、
彼らは1日をカットとカラーに費やし、OL、金持ちの主婦、ハリウッド俳優などの髪とエゴを撫で付け、満足させていた。
彼らはクールでヒップで、僕もいつか金持ちになれると思わせてくれたものだ。
パートナーを持とうというよりも、子どもを持とうということはいつも考えていた。
大人になってからこれまで(6年間ずっと!)、僕はずっと独り身だった。
愛する相手を探す努力もせず、マッチングアプリを使うことはあっても、
それは恋愛というよりも芸術的な協力者を見つけるためだった。
やれるもんなら、やってみろ
ルーカスとはまるで一緒に成長しているかのように感じていた。
パンデミックによって日常が崩れるまでの2年間、僕は毎日同じペースで彼の世話をしたものだ。
学校へのお迎えをしたら、宿題を手伝い、スナックを食べさせ、公園に連れて行き、
テコンドーをして、ディナーにお風呂、そして眠るまで。
いつも順調だったわけではない。
遊び場を離れようとしていた時、ルーカスが「悪魔の発作」を起こして泣き始め、僕を追いやろうとしたことがある。
人々は僕らに注目し、とりわけ、ある白人中年女性は介入してこようとしてきた。
僕は彼のベビーシッターであることと、慣れていることなので大丈夫だと、彼女に冷静に説明した。
しかし彼女は引き下がらない。
僕を誘拐犯か何かのように扱った。
そして言った。
「警察を呼ぶわよ」
彼女の脅迫、おさまらないルーカスの泣き声、集まる群衆。
この状況に僕は冷静さを失い、言い放った。
「やれるもんならやってみろよ」
みんな固まっているなか、僕はルーカスを連れてその場を離れた。涙をこらえて。
ー
本誌では、この後また同じような状況になった際にルーカスがとった言動について述べられています。
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