日本最大級の雑誌数 定期購読者100万人以上!

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新文化2003年6月26日号
開設から半年…「富士山マガジンサービス」 西野伸一郎社長に聞く

開設から半年…「富士山マガジンサービス」 西野伸一郎社長に聞く
雑誌定期購読サイト 受注2倍に / 170社・600誌を販売

雑誌の定期購読を促進する国内初の専門サイト・富士山マガジンサービスの立上げから半年が経過した。現在は出版社一七〇社の約六〇〇誌を販売、開設当初から二倍以上の規模に成長している。「返品抑制」「効率販売」が求められる出版界で、同社の動きは「店頭一部売り」が主流の雑誌流通にどんな変化をもたらすのか。西野伸一郎社長に、現状と今後の展望をきいた。(本紙・石橋毅史)


■ 西野伸一郎(にしの・しんいちろう)氏は1964年生まれ。明治大学卒業後、NTTに入社。途中アメリカ留学などを経て、98年、(株)ネットエイジの設立に参加。同年、米国アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEOに日本法人立上げを提案し、ファウンダー(創設者)となる。アマゾンジャパンには書籍部門責任者として開設から参加。2002年7月に富士山マガジンサービスを設立、同年8月にアマゾンジャパンを退社。

―はじめに、サイト立上げの経緯を聞かせてください。構想が生まれたのはいつ頃ですか?

「去年の春、まだアマゾンジャパンにいた頃です。『フジサン・ドット・コム』(在米日本人向け通販サイト)の創業者と話していて、日本でも雑誌の定期購読サイトをやってはどうか、という提案があった」

―なぜそこに目をつけたのですか。

「アメリカでは雑誌の販売の八割以上が定期購読です。定期購読率は、イギリスは低い、ドイツは高いなど国ごとに違うが、ともかく日本には専門業者すらない。自分たちの専門であるeコマースならチャンスがあるのではないか、と」

―アマゾンの経験はこの構想と直接繋がっていますか。

「当時痛感したのは、出版業界の人たちがとにかく返品に困っている。その解決策の一つとして、流通の多様化が必要だと感じていました。多種多様な嗜好に応えられるのが出版メディアの特徴なのに、顧客に届けるための流通経路は限られている」

―これまで多くの出版社と折衝を重ねてきて、各社の反応はいかがでしたか。

「とにかく最初は『どこの馬の骨だ』と。これはアマゾンジャパンの立上げ準備でも経験したことです」

―半年余りでタイトル・出版社を二倍以上に増やした一方で、大手クラスの不参加が目立ちますが。

「大手出版社は自ら大掛かりな定期購読システムをもっている場合が多く、当社のシステムとつき合わせなど実務レベルの解決に時間がかかる。もちろん、理由はほかにもあると思いますが」

マージンは販売価格の35%原則

―定期購読に積極的でない出版社の理由は二つあるといわれます。まず、従来の販売ルートである取次会社と書店への配慮。もう一つは編集内容から販売まで、ずっと店頭一部売りの体制でやってきたので、割引サービスを含めた収益構造をいまさら変えることができないことがあります。

「前者については、(トーハンなどの)取次会社も定期購読の促進に動いていることが追い風になっています。新参者のウチが勧めるよりも浸透するし、事実、出版社側の対応が変わってきた。最近は、同ジャンルの競合出版社が参加すると『じゃあ、ウチも』という社も多い。契約出版社数の増加ペースは、どんどん上がっている状況です。後者については各社の問題としかいえないが、現状で30%かそれ以上の返品に苦しんでいるのなら、すでに抜本的な見直しを要しているということではないでしょうか」

―トーハンなどの取次会社も定期購読促進に向けて動いているなかで、出版社が貴社で販売するメリットはどこにありますか?

「当面は、書店ルートでは開拓できない顧客を当社が獲得します。それと、経営の効率化にも利用してほしい。自社サイトで定期購読を受ける出版社が増えているが、クレジットカード決済のシステムが増えているが、クレジットカード決済のシステムやカスタマーサービス、顧客管理にかかる費用は意外と大きい。『WEB本の雑誌』(本の雑誌社)などは、カード決済を希望する人を、富士山サイトへ誘導してくれている。そのほか商品管理や配送作業も、以来があれば低価格で請け負っています」

―マージン割合は。

「当社で販売価格の35%をいただくのが原則ですが、取扱量や個別の事情など、出版社によって違いはある。率はその都度、交渉しています」

書店とアフィリエイト契約も
割引サービス“お得感”は30%引

―割引サービスについては、どう考えていますか。

「基本的には出版社の判断にお任せしています。今のところは従来通り定価販売や一号分サービスから50%台の割引までと、出版社によって差がある。僕としては、顧客に“お得感”を与えるには30%は引いた方がいいと考えています」

―もう一つ、eコマースの特徴としてアフィリエイトがありますが、これはどの程度進んでいますか。

「ヤフー、グーグル、ライコスなどの検索エンジンや主要ポータルサイトとの提携はすでに網羅しました。ネット書店はbk1、復刊ドットコム。その他は交渉中です。ほかにも、たとえば『ベネフィット・ワン』という、福利厚生施設をもてない中小企業に、リゾート施設などに安く泊まれるサービスを提供する会社があって、その会員企業向け情報誌で富士山のシステムを紹介している。いま、ウチのユーザーは企業買いの割合が半々です。そのほか、出版社サイトや趣味系サイトなど合計1000サイトと契約していますが、今後はネットだけでなくリアル店舗とも繋がっていきたい」

―書店ともアフィリエイト契約をするということですか。

「実際、書店から『お客さんに聞かれたんだけど、こういう雑誌ある?』と電話があって、その場で売らせてもらったこともある。一回限りじゃお互いビジネスになりませんが、継続することで、外商部門の効率化に繋がると思います。各店とも、外商顧客にはAからCまでランクがあるはず。Aランクの顧客と関係は切りたくないが配送のたびにコストがかかって赤字だというような顧客は、力のかけ方に違いがあっていい。決済や配送はウチにお任せで、書店には売れる度に純利が入るような仕組みを提供したい。現在、一部の書店とは話し合いを進めています」

ノー返品3~4割で経営変わる

―わりと習慣的に買う雑誌であっても、いちおう毎号を店頭で手にとってから買うという人は多い。作り手にとっても、売れたり売れなかったりという“博打性”がモチベージョンになるという考え方もあります。実際のところ、定期購読はどこまで浸透すると思いますか。

「出版社のサービス、割引率への取組み方にもよるが、僕は雑誌販売の三、四割は定期購読になる可能性があると思う。現にABC交査のデータを見ても、定期購読に力を入れたビジネス誌などは、それ以上の定期購読比率になっている。売れたり売れなかったりという状態のまま出版業が続けられたのは昔の話で、いまは自分の作った雑誌を、読んで欲しい読者へ確実に届けるべきだ。

もちろん、定期購読にむかない雑誌もあるとは思いますが、当社の目標は、国内で販売できるすべての雑誌を扱うことです。ノー返品で確実に売れる部数が全体の三~四割あれば、出版社の経営は変わる。

当社は最終的に、そのうちのさらに10%、eコマースの部分を売り上げられれば成功だと考えています。もっとも当面は品揃えとサイトの販売力をもっと上げていくことですね」