日本最大級の雑誌数 定期購読者100万人以上!

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定期購読サイトは読者と雑誌社の出会いの場

ビジネススタジアム 2004 2月号
東京18の仕掛け人 ネットマガジンショップ

定期購読サイトは読者と雑誌社の出会いの場

巨大な卸会社がコントロールしている日本の出版業界。その雑誌流通にネットの双方向性を使い、定期購読を請け負うビジネスが登場してきた。読者とマッチングさせ、雑誌流通に風穴を開けることができるのか。

「将来は国内で発行されている雑誌のすべてを取り扱うことが目標なんですよ。」そう意気込みを語るのは、富士山マガジンサービス・西野伸一郎社長。西野さんは、インターネットの特性をいかした新しい書店ビジネスに挑んでいる。彼が目指しているのは、ネットを使った雑誌の定期購読業務。サイト上で個人や会社から、雑誌の定期購読を募るという、これまでに例がないビジネスだ。現在、国内の雑誌市場は約1・3倍にも及ぶ大市場だが、一体、西野さんに勝算はあるのか。「定期購読ビジネスでは、日本で先駆けになりますが、米国では古くから定期購読エージェンシーという雑誌を扱う業者が存在しています。米国の雑誌の約80%が定期購読で、日本では経済誌などの、いくつかの分野だけに限られており、わずか10%程度にすぎません。ここに、「ビジネスチャンスがあると思ったんですよ」

米国では当たり前のように行われている定期購読ビジネス。日本は独自の流通形態で、日販、トーハンなどの大手取次ぎ会社が介在して、雑誌・単行本の流通市場を取り仕切っている。このような独占欲的流通と、特異な商慣習が弊害となって、各出版社の販売戦略が立てにくい。この「ビジネススタジアム」も日販、トーハンを通さなければ読者の手元に届かないのだ。「以前、アマゾンにいた時に書籍の販売を手がけていましたので、その難しさはイヤというほど経験しています。しかし、書籍のみを扱っていたにもかかわらず、ユーザーからは当たり前のように雑誌の注文が届くんです。ユーザーはネットを使って、雑誌を購入しようと考えていたんですよ」

雑誌流通の多様化で返品問題も緩和

西野さんが痛感したのは、出版業界では、30%を超える〝返品〟が問題となっている点だ。「その解決策の1つに流通の多様化が必要だと実感しました。多種多様なニーズに応える雑誌が沢山作られているのに、顧客に届ける流通経路は限られています。書店に並んでいる本だけでは、読者のニーズに応じることはできません」サイトから直に販売し、またサイトから読者が必要とする雑誌情報を提供することで、読者のニーズにあった雑誌が販売できる。現在の流通システムでは、雑誌の返品率を下げるため、取次ぎは流通量を絞り込む傾向にある。その結果、必要な情報を掲載している雑誌が書店に並ばす、読者の手元に届かないといういびつな状況を作り出している。自ら雑誌が売れない状況を生み出す、悪循環に陥っている、というのだ。

それを打ち破るため、西野さんが築いた雑誌流通のシステムはいたって単純だ。富士山マガジンサービスが提供するサイト上で、雑誌の申し込みを受け、発注データを各出版社に流し、それを受けた出版社が発売日にあわせてユーザーに雑誌を発送するというもの。その対価として出版社から手数料を徴収する。手数料は原則35%だ。「現在、主な国内で定期的に出版されている雑誌は約3500.その内、1000種類の雑誌が申し込めます。」コンビになどでは200~300誌が流通しているが、この1000誌という数字は非常に大きい。しかし、出版社の対応は様々だ。取り引き出版社を増やすために営業活動に精を出す日々が続いているが、やはり新参者に対する業界の風当たりも強い。創業間もないころは、ある大手取次の幹部に呼び出され、「業界の秩序を乱すな」と意見されたり、営業に訪れた出版社からは「どこの馬の骨だ」と追い返されることもあった。

趣味の雑誌も一発検索 読者の欲しい情報を配信 

ネットで雑誌を売ることは、必ずしも書店で雑誌を売ることとイコールではない。書店で売られる雑誌とネットで「売れる」雑誌とは微妙に違う。「『ハッピートリマー』(緑書房)という雑誌があるんです。トリマー(ペットの理髪師)志望者に人気があるコミュニティサイトと提携していることで、よく売れているのですが、あまり一般の人が知らないような雑誌でも、ネットでは充分にビジネスになるのです。」ネットで売れている雑誌は、富士山が当初から力を入れている有名ビジネス誌を筆頭に語学誌、趣味誌、店頭ではあまり見かけない専門誌などが目立つ。卓球やバドミントンなどプレーする人が読むタイプのスポーツ誌も人気がある。各誌の受注件数は非公開だが、トップクラスで月刊100~200冊台だという。定期購読が増えれば返品のリスクが減る。読者1人ひとりのニーズを把握することができるので、以後のビジネス展開に大きな武器となる。購読履歴をもとに顧客ニーズの把握が可能であるし、その嗜好から新たな雑誌を読者に勧めたりすることもできる。さらには、独自の戦略で販路を開くことができるだけでなく、クレジット決算サービスや顧客管理にかかるコストを富士山にアウトソーシングすることで、雑誌社の経費を節減できる。商品管理や配送作業なども富士山が請け負うという。

また、読者としてもメリットは大きい。キーワード検索など使い勝手を向上させていくことで、店頭ではお目にかかれない小規模出版社の専門性や趣味性の高い雑誌が簡単に見つけられる。富士山は、ここにきて「ブックワン」、「大阪屋」などの販売店、取次会社などと提携をした。時代の流れは大きく定期購読に移行しつつあり、大手出版社も定期購読を強化している。「05年には雑誌市場の約1%に当たる100億円を目指します。大手が本腰を入れたらひとたまりもないだろう、とよく言われるのですが、競合が増えれば市場も活性化し、パイも大きくなる。なによりも、出版社側の考え方が変わるきっかけになるので歓迎ですよ」まだ、提携しているのは新しいサービスに過ぎないが、出版社自体が、取り次ぎに頼らない流通を考え始めたとき、富士山の存在が注目されるのではないか。

これが仕掛けのツボだ!雑誌流通の活性化をどう認知させるか

出版業界が抱えている問題は返品問題だ。それを緩和させるためには流通改革が必要となる。新しい流通形態を提案していくことで、流通の革命を図る。出版社が流通を改革できない理由は大きく2つ。1つは従来の販売ルートの依存と、もう1つは書店への配慮にある。これらがネットを利用した流通や直販定期購読の障害となっている。これらを打破する方法として、まずは、従来の書店を通した販売ルートで成果が出ていない出版社の獲得を目指す。次の段階として、大手の書店、取り次ぎと提携をすることにより、業界全体を定期購読の重要性を認知させる。また、経営の効率化としてクレジットカードの決済システム、カスタマーサービス、顧客管理など提供することで付加価値を大きくする。

NTT時代、シリコンバレーのベンチャー企業とのM&Aに奔走した。今度は雑誌流通の改革に本腰を入れている

にしの・しんいちろう 1964年生まれ。明治大学卒業後、88年NTT入社。93年、米ニューヨーク大学に留学、経営学修士(MBA)を取得。98年、「ビットバレー」の提唱者、西川潔氏とネットエイジを設立。同年、アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEOに日本法人立ち上げを提案し、ファウンダー(創設者)となる。アマゾンジャパンでは書籍部門の責任者として開設から参加。02年、富士山マガジンサービスを設立。

企業データ 社名・富士山マガジンサービス 設立/2002年7月 業種/雑誌の定期購読エージェンシー URLhttp://www.fujisan.co.jp E-mail info@fujisan.co.jp
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