日本最大級の雑誌数 定期購読者100万人以上!

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出版社クラブだより No.494
4年目を迎えた『富士山マガジンサービス』
2002年12月19日、株式会社富士山マガジンサービスは、Webサイト「Fujisan.co.jp」をオープンし、「求められる雑誌を、求めている読者に!」をスローガンに事業を開始した。事業開始から4年目を向かえ、この3年間を振り返るとともに、今後のビジョンをここに記してみようと思う。

◆ 日本で最初の「雑誌定期購読エージェント」 2002年春、あるプロジェクトが立ち上がった。その名は「プロジェクトZ」。「Z」とは「Zasshi(雑誌)」の「Z」。相内遍理というカリフォルニア育ちの男(現副社長)が、私が取締役を務めるインターネット・インキュベーション事業を手がけるネットエイジ社にベンチャー事業のアイデアとして持ち込んで来たのだ。

当時、私はAmazon.co.jpを立ち上げ、書籍事業の責任者として順調に事業の拡大を進めていた。米国Amazon.comに憧れて、仲間と一緒に米国シアトルまで日本進出に関する提案に行ったのが1998年夏。それから約4年が経過していた。同じ出版業界で市場規模も書籍の1.5倍ある「雑誌」に関して、新しいネット事業の可能性があるのではないかと感じていた。

定期購読が市場の80%以上を占める米国では、「サブクリプション・エージェント」という定期購読雑誌を取りまとめて販売する会社がいくつも存在する。その事業モデルを日本版にアレンジし、日本で最初の「雑誌定期購読エージェント」をまず立ち上げようということになった。日本での雑誌ネット事業の参入に当たって、「定期購読」というのはまったくの空白地帯だった。

「富士山マガジンサービスという定期購読サイトができたことが『雑誌の定期便』立ち上げのきっかけだった」(2005年11月24日号の新文化の記事より)とトーハンの方がコメントしているように、その後トーハンが市場に参入し、それを追う形で日販もスタートした。また、大阪屋は我々と事業提携する形で、定期購読事業に参入した。

新しい種が生まれて来ない生物は進化が途絶えて絶滅してしまうように、ベンチャーが立ち上がらない業界はすでに終わっている業界だ。我々は新しい種の起源として環境に適した新しい業態を提案していきたいと考えている。「定期購読」という分野も、我々がきっかけとなって大手取次会社もこの分野に初めて参入したわけだが、まだまだ影響力が小さい。取次・書店各社にさらなる努力をしてもらう一方、出版社自身にこの分野を盛り上げていく必要があると感じている。出版業界が、衰退・絶滅してしまわないために。

◆ 定期購読に関する海外・日本の動向 さて、海外ではどのような状況なのかを少し見てみよう。少し古いデータ且つ欧米を中心にした調査になるが、「グラフ1」で分かるように、販売額における定期購読の比率は、米国で82%、ドイツは50%、英国では11%となっており、それぞれの国において様々な状況であることが分かる。各国数値の単純平均(2002年)は「42%」、1993年の数値は「38%」のなので、世界的にも定期購読比率は10年で上昇したと言える。

一方日本では、なかなか同様の調査レポートが見当たらないのだが、様々なデータから日本の定期購読の比率は、英国同様の10%-15%程度と推計している。ちなみに日本のABC協会に参加している雑誌の合計を集計してみると11.5%という数値になった。参加雑誌が全く同様ではないものの、時系列的にABC考査対象の雑誌の定期購読比率を見比べてみると、特に我々が事業スタートした2003年以降、微量ながら年々定期購読の比率が増加傾向にあることが分かる。

◆ 現状 スタート時に241誌(70社)だった取り扱い雑誌数は、その後順調に増え続け、現在は約2200誌(約500社)を取り扱うまでになった。また、販売チャネルに関しても様々に拡大し、定期購読だけではなく一冊単位での販売も始めた。Fujisan.co.jpのウェブサイトには月間の訪問者数が200万人を超えるまでに成長した。

取り扱い雑誌数と販売チャネルの拡大に伴って売上げも順調に拡大し、現在、TOP10圏内の雑誌で、1誌当たり月間200~400購読(冊数ベースに直すと月間3000~1万冊分)を受注するレベルの販売力を持つようになった。

販売力を築いている要因の一つは、販売パートナーの拡大だ。全国200万事業所を持つアスクルや大阪屋帳合いの書店経由での販売などが実現し、JALの会員やリロクラブ・JTBベネフィット等の企業の福利厚生代行会社の会員企業、各種クレジットカード会社会員へのプロモーション等もできるようになった。

インターネット上での販売では、アフィリエイトプログラムという仕組みを活用することがとても大切だ。これは、我々のようなECサイトとブログ等を含む個人・企業のウェブページが連携し、お客様に商品等を紹介するマーケティング手法だ。この仕組みを活用することにより、アフィリエイトパートナーと呼ばれる個人・企業さまざまな販売代理店をネット上に沢山持つことができる。Fujisan.co.jpでは、このアフィリエイトパートナー数がすでに1万を超えている。これは、規模は小さいながらもネット上にすでに1万の富士山帳合いの書店ができたようなものだ。

インターネット以外でも、携帯、フリーダイヤル、FAXでの注文受付を24時間365日受け付ける体制となっている。これら4つの販売チャネルを一括して受け付けるサービスを、出版社には「富士山クワトロパック」としてパッケージ価格で提供している。さらに、大学や図書館・企業からの一括受付に関する対応、見積書や請求書の発行、図書館などからの年度に合わせた特別需要への対応なども個別対応している。

販売面以外では、「富士山定期購読バックエンドサービス」と称して、定期購読に関わる様々なバックエンド業務(定期購読者に対する雑誌配送および顧客管理等)を一括してアウトソースできるサービスも行なっている。特に個人情報保護法の施行に伴い、自社での読者情報管理のリスクを気にする出版社にとっては、そのリスクを大きく軽減するものとなる。

◆ 出版社にとっての富士山の利用価値、利用方法 つまり、読者や販売パートナーといったエンドユーザに対し小売を行い、商品情報の取りまとめを行なう一方で、「出版社が定期購読を行なうためのワンストップショッピング機能」と、「雑誌をネットで販売するための様々なツール」を富士山は出版社に提供しているのだ。特に、個別に出版社側で対応したり独自の仕組みを自社構築するケースでは、出版社にとってコスト高になる仕組みを代わって割安に提供している。さらには、ネット関連の技術などで高度なノウハウを必要とする機能を提供している。

例えば、インターネットでの販売にはクレジットカード決済は欠かせない決済手段だが、このための仕組みを自社で構築しようとするとそれなりのコストとノウハウが必要となる。そこで中小の出版社ではその機能のためにFujisan.co.jpのページにリンクを貼って効果を上げているところも多い。前出のアフィリエイトに関しては、自社でこの仕組みを作ることも、または1万に及ぶアフィリエイトパートナーとのネットワークを作ることも実質難しいので、富士山の仕組みをそのまま利用することは賢いチョイスだ。

インターネットだけでなく携帯での販売サイトを構築したり、24時間365日対応のコールセンターを自社で構築することも非常にコストの掛かることなので、インターネット、携帯、フリーダイヤル、FAXでの注文受付を安価にできる「富士山クワトロパック」を準備しということになる。

◆ 定期購読比率を高めよう 出版社は、発行している雑誌のタイプにもよるが、直間比率(定期購読比率)をもっと戦略的に構築するべきではないだろうか?

日本雑誌の定期購読比率が低い要因はいくつか考えられるが、そのひとつは歴史的に作り出された出版社の取次依存体質だと思う。戦後、日本の出版界は、非常に優れた流通システムを作った。全国津々浦々にこんなに安いコストで統制のとれた形で雑誌を配送できる仕組みは世界的に見ても稀だ。

しかし、このメカニズムがだんだん機能しなくなってきている。読者を「大衆」と捉え、同一商品を一気に配送し、全国の書店に並べるためにはとても効率的だった。しかし時代は「分衆」とか「ワントゥーワン・マーケティング」といった方向に進んでいった。つまりは、人々の趣味嗜好がどんどんと細分化され、雑誌も読者をよりピンポイントで見つけ届ける必要性が出てきた。それに加えて、全国で毎年1000店の書店が消えていき、雑誌を陳列する場所自体が減ってしまっている。つまりは、読者と雑誌のアンマッチの起こる確率が高くなってきてしまった。

そこで、ピンポイントで読者との関係を効率的に構築する手段の一つとして、定期購読は、とても有効なはずだ。また他にも、定期購読には出版社の経営的視点に立って、以下のようなメリットがある。

■前払い一括振込みによる財務改善 ■実質返品率「0%」 ■安定した継続購読率の向上 ■読者属性把握による編集内容への反映 ■読者ターゲットの明確化による広告収入増 ■顧客情報に基づく他のプロモーションへの活用(関連商品の販売)

現状の書店での1冊販売を否定しているわけでは決してない。むしろ出版社は、「書店での1冊販売」と「定期購読」を戦略的に組み合わせて販売することをもっと考えるべきだ。雑誌販売において、書店等の店頭で手にとってその雑誌を見てもらい、雑誌をより知ってもらえる価値は非常に高い。一方、その雑誌のファンになってくれた読者に安定的に雑誌を購読してもらい、定期購読比率を高める事により上記の様々なメリットを出版社として享受すべきである。

米国のように定期購読比率が80%を超えるべきと言っている訳でもない。その適性比率は30%、50%等、先述メリットを享受できる適正な定期購読比率があるはずだ。

◆ 戦略的プライシングの勧め これを実現するためのもっとも速攻性のある手段は、プライシングである。まだまだ多くの雑誌の定期購読価格は、単純に「一冊定価×冊数分(送料サービス)」というのが圧倒的に多い。これでは定期購読で購入しようと考える読者が多くなるはずはない。割引でもないのに前払いで定期購読を購入する個人は、余程、別の理由がある。

では、定期購読価格はどの程度の割引率で設定すれば良いのだろうか?これは、雑誌に限らず他の消費者商品のプライシングでも言えることだが、一つの目安は「30%」だ。もちろん割引率は大きいほど効果は高くなるのだが、「30%オフ」という数字は、読者の心を揺り動かす「魔法の%」だ。例えば一冊定価750円のその雑誌を買おうとした時、「結構この雑誌買ってるし、年間購読すれば9000円が6300円となって、2700円も得なのか・・・」と考えた途端に読者の心は大きく揺り動かされるはずだ。停滞している雑誌市場を活発にする意味でも、この読者の心を「揺り動かす」ということが必要なのだ。

とは言っても、そもそも「取次・書店流通」だけを前提にして一冊定価を決めていたため、コスト構造的に定期購読価格を30%オフにするのは難しいというケースもあるだろう。だからこそ、創刊時のプライシング戦略は重要だ。創刊当初から一定の定期購読比率を戦略的にも想定し、価格を決定する必要があるわけだ。またこれは、「販売料収入 vs. 広告料収入」の売上げ構成比率の再考も必要になるかも知れない。

また「割引」自体や取次・書店に対する配慮もあるかもしれないが、今や取次ぎ・書店各社にも定期購読販売の仕組みが導入されたわけで、出版社はより積極的に活用するべきだ。

◆ インターネット時代だからこそ また、昨今の雑誌販売の落ち込み原因としてインターネットが挙げられている。確かに読者の「時間」そのものを奪ってしまっているし、その原因の一つだろう。その事実は受け入れた上で、むしろ出版社は、積極的にインターネットを活用しいくべきだ。そして富士山は、そのためのツールを様々な形で提供している。

ネット上での定期購読者獲得の戦略として重要なのが、「まず一つ読んでもらう事」による定期購読の潜在読者の獲得だ。その戦略の重要性を把握している出版社と、Fujisan.co.jp上では、特に創刊号や創刊準備号などを1冊のみ送料無料で販売している。そして、それらを購入した読者に対して後日「定期購読のご案内」を差し上げて非常に高い確率でのお申し込みを頂いている。

米国では、創刊準備号などをネットを通じて無料で配布し、そこで溜まったリストを基に定期購読の促進を行なうマーケティングは一般的だ。メールアドレスでユーザを特定でき連絡コストも非常に安価なため、より高い効果で実現できるわけだ。

もともとその分野に興味があり、その情報のためにお金を払って一冊購入した読者をピンポイントで狙っているわけなので、この高い効果は当たり前と言えば当たり前だ。しかし、このように一冊販売を行ない、それを定期購読者の獲得につなげていくことができるのは、ネット販売会社では現在Fujisan.co.jpだけかもしれない。

創立以来、富士山マガジンサービス社は、特にインターネットで雑誌を販売するためのノウハウを貯めてきた。またそれを実現するための技術力も培ってきた。富士山のシステム部門の本拠地は米国カリフォルニアバークレーに位置し、いわゆるシリコンバレーの最先端の技術およびその最新トレンドをウォッチしている。

インターネットはまだ午前6時30分だ。今後まだまだ様々な形で拡大していくだろう。一般の人々は様々なコンテンツを配信していくインターネットの時代だからこそ、出版社は様々な情報を取りまとめて配信していく『プロ』として、その強みを発揮できるはずだ。そして富士山は、個別の雑誌を求めている読者を獲得する一方で、様々な情報を取りまとめて配信していくプロがそのコンテンツ作成に集中できるように、あらゆるツールを出版社に提供し、共にこの出版業界の荒波を乗り越えていくために努力していきたいと思っている。

(富士山マガジンサービス社社長)