日本最大級の雑誌数 定期購読者100万人以上!

掲載記事

新文化 2007年02月22日号
紙・PC併用の時代 へ…4社の取組から
昨年はコミックの電子配信が急拡大した年であったのに対し、今年2007年は「デジタル雑誌元年」となるようだ。版元、小売などから有料・無料問わず各種 のサービスがスタートしており、すべてが日進月歩の世界である。そのビジネスモデルの概要について、四社の事例を中心にライターの小沢真樹がレポートす る。(編集部) 「有料配信」も今春登場 富士山マガジン、主婦の友社ら パソコン上で、紙の雑誌をぱらぱらめくれる感覚で記事を読み進めることができるツールをたびたび目にするようになった。これらの「ページめくりビューア」 は、現在数十種類以上があると言われている。2年ほど前までは制作費がページあたり1万円などといわれ、高価な存在だったが、昨今では紙面のPDFデータ さえ用意してあれば、ページ数百円という低コストでデジタル雑誌化ができるようになった。

当初は無料のカタログ雑誌などで用いられるケースが多かったが、制作費の縮小化やブロードバンドの普及にともない、さまざまな雑誌のホームページで立ち読 み用として採用されるようになっている。昨年夏には雑誌の「ちょい読み」ができる「マガボン」のようなサービスも登場しており、雑誌閲覧ツールとして完全 に普及してきたといえよう。

また、昨年から今年にかけて、デジタルフリーペーパーというべき存在の媒体も登場している。アンカー・パブリッシングが手がける無料雑誌ポータルサイト 「Flib」なども登場し、これらのサービスの拡大も注目される。 デジタルならではの機能も さらに今後は、有料配信サービスの開始が重なるようだ。そのひとつが「富士山デジタル」。現在約2400タイトルにおよぶ雑誌の定期購読をオンライン販売 する富士山マガジンサービスが新たに手がける、「雑誌のデジタル版をダウンロード販売するサービス」だ。

「アメリカのデジタル雑誌販売会社最大手であるZINIO(ジニオ)社と提携し、同社の技術を日本の雑誌用にローカライズしています」(同社・西野伸一郎 社長)出版社側は紙面のPDFデータを用意するだけ。富士山がデジタル製本を行い、販売・流通までをすべて請け負うというビジネスモデルである。これによ り、読者は紙の雑誌と同じものがPCで読めるのはもちろん、URLがあればクリックしてホームページに直接アクセスできたり、キーワード検索で目的のくじ を探したりという、デジタルならではの機能が付加される。

当初の参加タイトルは約20誌。定価は雑誌によって異なるが、「紙媒体の販売に配慮し、紙と同じ定価にするところが多いのでは」(西野氏)という。

いっぽう、ネコ・パブリッシングが自社単体で「デジマグ」というデジタル雑誌有料販売サービスを昨年11月から開始しているのは、すでに本紙も報じたとお りだ。現在は無料で閲覧できるフリーペーパーやカタログを含めると、約60種類の雑誌を閲覧することができる。「1月末までのダウンロード数が600冊程 度ですが、海外からの購入、お問合わせが多く、市場の拡大につながっていると感じます」(同社ホビダス事業本部・秋元一利取締役)。同社は「ホビダス」と いう趣味のポータルサイトを05年6月から開始し、EC事業では近く黒字化を達成できそうな勢いだという。「デジマグ」はデジタル事業の一環として位置づ けているが、「紙の雑誌の価値を高めることができ、販売収入もかえってくる」と強調する。 広告媒体としての認知も オリジナルのデジタル誌を有料でスタートさせる出版社もある。主婦の友社は、今年2月25日から女性向けファッション誌「デジタルef」を有料化するサー ビスを開始する。 "めくる感覚"必要か 拡大するシニア層に注目 そもそも、パソコン上でわざわざ「紙をめくるように」見せることに意味があるのか、という疑問を抱く声もある。パソコン上で読むことを想定しているのであ れば、パソコンにあわせたレイアウトがあるのでは、という指摘はもっともだろう。モニタ上で再現された雑誌のページは文字が小さく、読むにはいちいち拡大 して表示しなければならない。そのひと手間が非常につらいと感じる人も多いようだ。

これにはもちろん、紙の雑誌を二次利用できるという、出版社側の都合も大きい。たとえ同じ写真と原稿を使ったとしても、ウェブ用にデザインを組み替えるに は別途、制作費が発生する。これが誌面のデータをそのまま載せるだけであれば、校正の手間すらいらないというメリットは、作り手側としては非常に大きいだ ろう。

小学館ネット・メディア・センターの岩本敏執行役員「ページをめくる感覚は、たとえバーチャルなものであっても有効だと思う」と、デジタル雑誌ビューアの 利点を語る。 「とくに、団塊の世代が大量に退職する07年以降は、インターネットにつながるシニア層が急拡大すると思われます。彼らに対して違和感のないものを作って いきたい。そのときに、感覚的なものですが私は『縦書きの記事をどう自然に読ませるか』がカギになってくると思っているんです」 岩本氏はかつて「サライ」「駱駝」などの編集長職を経て同職にいたる。現在は、デジタルのみのオリジナルのライフスタイル雑誌「Sook」の創刊を6月に 控え、テスト版の制作を進めている。「プライドをもって紙の雑誌を作ってきた」同氏が、どのようなコンテンツを売りだしていくのか。

岩本氏に限らず、ページめくりで読ませる行為への期待感をあげる声は大きい。

「デジタルefをはじめるにあたり当社で行った『こういうデジタル雑誌があったらおカネを払ってでも読む』と答えた人が全体で7割を占めました。html で組まれたいわゆるウェブページには、無料で見るものというイメージが強すぎる。雑誌の形をしていると、有料でも抵抗がないと考える人が多いのではないか と思います」(主婦の友社・渡部氏)

「ウェブで大量の文章を読むのはけっこう疲れるものです。これが雑誌ビューアの形式であれば、紙の雑誌を読む感覚で、けっこうな分量の文章でも目を通して もらえるようです」(ネコ・パブリッシング、秋元氏)
雑誌デジタル化の問題 とはいえ、たとえ「紙の雑誌をネットで同じように見せる」だけであったとしても、現実にはいくつかの問題があるようだ。 そのひとつは、雑誌の誌面をデータ化する際に生じる手間の問題である。すべてのページがDTPで制作されていたとしても、簡単な話ではない。デジタル入稿 体制を徹底するネコ・パブリッシングも、デジタル雑誌を作るにあたっては自社のデータを使わず、印刷所から最終データを引き上げ、購入しているという。

「校了までのデータは確かに編集部で管理していますが、たとえば急に追加訂正が入った場合、電話やFAXでやりとりして印刷所の現場で対応しらもてうこと があります。そういう修正を確実に反映させようと考えるのであれば、やはり印刷所から『刷る直前』のデータをいただいたほうがよいのではないかと判断しま した」(秋元氏)。

また、編集ページをすべてデジタル入稿していたとしても、広告ページは別進行という媒体も多い。結局、すべてのページをまとめているのは印刷所、という ケースも多いそうだ。

取材を進めるうえで、「印刷所からデジタル雑誌に対応できるデータを入手するコスト」が意外とばかにならないことを筆者は知った。ページ当り数百円から数 千円まで、出版社に提示されている単価もまちまちであるという。ある程度普及が進めば、統一化されていくとは思われるが。

そしてもうひとつは、デジタル化に伴う、著作権処理の問題である。タレントやモデルの事務所の中にはウェブ上での写真使用を厳しく制限す るところがある。もし雑誌をデジタル化しようとしたら、掲載をすべて拒否されたり、多額の二次使用料を請求されたりする可能性がある。もちろん、記事を作 成するカメラマンやライターなどにも同様の権利が発生するため、デジタル雑誌を始める時点で、スタッフ側への許諾が必要となるだろう。「権利処理にかかる 人権費は、デジタル化する費用の数倍かかる」(岩本氏)というから、これまた軽くは見られない。

前出の西野氏は、「富士山デジタルのサービスは、『紙の雑誌とまったく同じものをデジタル化しただけ』なので二次使用には当たらない、という米国の見解を もとに展開していくモデルである」という。だがこれも、現状の日本の著作権法上で照らし合わせて考えていくと、やはり許諾は取ったほうが無難なようだ。 「紙媒体はなくならない」 "変化の波"に晒される雑誌 さらに、本読者には、もっと気になる点があるだろう。そう、雑誌のデジタル化が進行すれば、紙の雑誌が売れなくなってしまうのではないかという懸念であ る。すでに、デジタル雑誌販売について、一部の書店や販売会社からは不安の声が上がっている。 今年1月、大手出版社16社を中心に発足した「デジタル出版研究会」が日本雑誌協会の中から生まれたというのも、これらと無関係ではないだろう。今後は同 研究会が、販売会社や書店などとの交渉窓口になると期待されている。

ただし、デジタル雑誌の担い手たちは、全員が口をそろえて「紙の雑誌がなくなるわけではない」という。

「デジタル雑誌は、紙の雑誌を今まで買わなかった読者に対してマーケットを広げる役割があると思います」(主婦の友社・渡部氏)

「紙の雑誌の保存性を高めるためのサービスの一環と位置づけています。将来的には、紙の雑誌を購入した人にデジタル版を低価格で提供するなど、連動した サービスを考えていきたい」(ネコ・パブリッシング、笹本健次社長)。

それぞれの出版社に共通するのは、「雑誌を守るためにほかの販路を模索しなければならない」という点である。出版科学研究所が先にまとめた2006年度の 雑誌販売金額(推定)は前年比4.4%ダウンとなっている。さらに、雑誌のもうひとつの収益源である広告収入についても、今年はインターネット広告費が雑 誌広告費を抜くのが確実視されている。雑誌というビジネスモデルが明らかに厳しい中で、「もはや、雑誌や書籍を出すにあたって、インターネットという存在 は無視できない。あれもだめ、これもだめで、結局その雑誌がつぶれてしまっては意味がない」(小学館・岩本氏)。

コンテンツ制作から流通まで、雑誌が急激な変化の波にさらされるのは間違いない。

デジタル雑誌が今春から本格的に読者の目に留まるようになると、次には「広告媒体として収益を上げられるのか」が課題になってくる。これについては機会を 改めてお伝えしたい。