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新文化 2009年12月3日号 (2009/12/3)
コラム「風信」:デジタル時代の『廻し読み』

デジタル時代の『廻し読み』...僕はこれまで、日本の出版業界が「ネット鎖国状態」にあると唱え続けてきた。ネットを使った情報収集が当たり前になったいま、検索して見つからなけ れば、その情報は存在しないも同然だ。にも関わらず、雑誌の中身は売り物であるとの理由で、意図的に見つからないようにしている鎖国状態。ここ最近になっ て、やっとグーグルやアマゾンなどの“黒船”に開放を迫られているのが実情だ…。

開国のためのキーワード――それは「2つのS」にある。 〈サーチ〉=検索と〈シェア〉=共有。今回はとくに〈共有〉に着目したい。雑誌における〈共有〉は、いわゆる「廻し読み」に当たる。昔から「廻し読み」は 雑誌の文化だった。買ったファッション誌をクラスの友達と一緒に見たり、仕事に役立つ記事をコピーして職場で配ったり。広告営業では「販売部数は○です が、実際に読んでる人の数は△です」と閲覧率なる指標も耳にする。この「廻し読み文化」の活用は雑誌ビジネスにおける大きな鍵だ。直接的な販売につながら ずとも、それが間接的な購入へのきっかけになり、さらに雑誌の長期的なブランド構築にも貢献するからだ。

しかし、未知の領域であるネットでの情報開示に関して、出版社はただひたすら〈ノー〉と拒否し続けている。これでは「話題にしてもらってナ ンボ」の雑誌が話題にのぼる機会すらない。当然、デジタル時代の何よりの判断材料といわれる口コミになることだって少なくなる。本来、デジタル時代ならで はの「廻し読み」があるはずだ。

例えば、購入者が知合いへ記事を転送する回数を制限したり、読める範囲を一部制限した期間限定の「袋綴じ」販売など。適度なコントロールを施すことで、ネ ガティブ要素を払拭し、さらに書店販売を含む販促効果、広告のリーチ増、また潜在読者の獲得などのプラス効果が期待できる。

雑誌業界の現状を車の運転に例えるなら、正面の崖っぷちを前にして、右にも左にもハンドルを切らずただブレーキを踏んでいるだけの状態。実 証実験などには積極的に参加すべきだ。ただ同時に実際のマーケットで試しながらいち早くハンドルを切っていかないと手遅れになる。大した成功事例がまだな いなか、それでもデジタルの特性を活かした策を打ち出していかなければならない。その一歩として、「廻し読み」などの販促アイディアをぜひ一緒に実践した い。個々に作ればコストのかかるシステムは僕らが作る。雑誌の未来を見据えた志の高い同士が集まれば、そこには前進するしか道は残されていない。