掲載記事
新文化 2010年03月25日号 (2010/03/25)
コラム「風信」:マガコマース、しませんか
街行く人の目をレーザスキャンして個人を特定し、街頭ビルボードにその人に合わせた広告が映る。将来の広告を描写した、映画「マイノリティレポート」のワンシーンだ。人々の趣味嗜好が多様化し、購買履歴などをデータとして蓄積・活用する技術が発展していく中、ニッチな層に絞り込んでアプローチするというニーズは、今後ますます高まっていく。
その観点から価値の高い媒体、それは他ならぬ「雑誌」だ。雑誌には濃い読者がいる。特定の雑誌をお金を払ってまで買う読者は、当然その雑誌の分野に強い関心を持っている。また、雑誌に対する一定の愛着・信頼を持ち、さらに購買力も備えている。「雑誌の購買」という無意識の消費行動に基づいた顧客リストは、意識的なアンケート調査の回答より価値が高い。絞込みの切り口が、従来の年齢・性別ではなく趣味嗜好である点は、雑誌の何よりの強みなのだ(最近は、男性でも手芸好きもいるし、ボクサーになりたい女性もいる)。
雑誌読者の特定ジャンルへの関心がいかに強いかは、富士山で配信するメルマガのコンバージョン率にも顕著に表れている。富士山では、雑誌それぞれの購入履歴に基づいてメール配信することにより、一般DMなどに比べて、その高さは10倍から100倍だ。これはビジネス上効率的なだけでなく、ユーザの求める情報を適切な形で提供できていることを意味する。PC購入を考えている人への「お得な最新パソコン情報」は貴重な情報だが、その他の人にとっては単なるジャンクメールでしかない。
そんなメディアを持つ出版社が、販売・広告以外の第三の収入として考えるべき分野、それが雑誌に掲載された商品が購入できる「マガコマース」だ。「雑誌」と「コマース」を掛け合わせた造語で、ファッション雑誌などでは普及しつつあるが、本来すべての雑誌が対象になる。僕らにとって商品である雑誌は、読者の手元に届いた瞬間に「メディア」となる。だから、雑誌を読んだ読者が次にとるアクションであろう、掲載アイテムやサービスの購入を可能にすることは必然とも言える。
釣り好きの人が釣り雑誌を読み、信頼を寄せる編集部が新しいルアーの情報を紹介していれば、それが欲しくなる。「購入はこちら」とその場で案内できれば、読者・メーカー・出版社ともにハッピーになれる。アドバトリアルの話ではない。魂を売ってしまっては、読者はついてこない。本当に記事にするべき事を書き様々なマガコマース機能を提供するのだ。何よりそれが読者の求めていることなのだから。