――iPhoneでも記事が読めるようになりましたね。
ええ。雑誌のプロモーションの一環として、この2009年3月号からサービスを開始したのですが、2か月間やってみて、無料ダウンロードが3万ほど、有料が1000件ほどですね。まあまあ好調だと思います。5%の人が海外で見ていることも分かりました。
――フランスの「クーリエ・アンテルナショナル」との提携雑誌ということですが、どういう経緯で日本版を出すことになったのですか?

「クーリエ・アンテルナショナル」はフランスで
発行されている週刊誌だ
講談社の100周年記念で、オンリーワン・マガジンをつくろうと、その企画の社内公募があって、それにアイディアを応募したのがきっかけです。いままでにないコンセプトをもった国際ニュース誌をつくりたかった。
最初は「ジャナゲン(「ジャーナリストの現場」の略称)」 という名前のプロジェクト名でした。会社に企画を出して、それから取材でバグダッドにいってたときに 「新雑誌のダミーつくっていいよ」 というOKが出た。バグダッドのインターネットカフェで知ったんですよ。嬉しかった。それで、私がかつて「パリマッチ」誌で研修させてもらってた経緯もあり、 友人もいたフランスの「クーリエ・アンテルナショナル」と交渉したのです。
「クーリエ・アンテルナショナル」とは、厳密に言うと、コンセプト提携なんです。 あの雑誌はフランスでは25万部も出ている有名な週刊誌で、 世界中の新聞や雑誌の記事が読めるようになっている。 ただ、コンセプト提携ですので、フランス側に掲載されている記事 をそのまま翻訳してのせるということではありません。世界1500メディアの記事のなかから、クーリエ・ジャポンが独自に 記事を選び、個々にその媒体にあたり、版権交渉をしています。
――フランスに留学されていたのですか?
社の海外研修制度を利用して、フランスの出版社などで研修をしました。
ちょうどユーロが解禁になって、ヨーロッパの中心的役割がフランスでしたので。また、私は旅が好きなので、パリにいると、中東へもアフリカへも出やすいかな、と思って。フランス語は大の苦手だったのですが、フランス語の学校へ通って、一生懸命できるフリして(笑)、「パリマッチ」の編集長にレターを送って、自らパリに出向き、友人に電話してもらって、「パリマッチ」の編集部に潜り込んだんです。
――パリにはどのくらいおられたのですか?
1年です。家族も連れていきました。学ぶことが多かったし、楽しかったです。休日は自宅に子供の友人の家族を招いたりして、異文化交流会の日々です。
これらは「クーリエ・ジャポン」をやる上でおおいに役立ったと思います。それは、いろんなコネクションができた、ということに加え、「外から日本を見る視点」の必要性に気づいたということです。外国人が見る日本の姿は、いまの「クーリエ・ジャポン」にも反映されています。価値の多様性に気づかせてくれたのも、パリでの体験があったからだと思います。
――もとからジャーナリスト指向でした?

写真家としても評価の高い編集長の著書
というより、旅が好きだったんですね。大学のときも、インドやチベットを放浪したり、カナダでスノーボードやったり・・・。
講談社に入りたかったのは「デイズ・ジャパン」をやりたかったから。グラフ・ジャーナリズムとでもいうべきものなのですが、でも、入ったらその雑誌がなくなっていた(笑)。同じような雑誌、たとえば「マルコポーロ」や「Bart」「Views」みんな休刊になってしまった。時代を感じますね。いまは「月刊プレイボーイ」までなくなってしまった・・・。
入社f後、私は「Friday」編集部に配属になり、オウム事件や、普賢岳事件を取材、写真で伝えることの面白さにめざめ、写真を撮り始めたのです。おかげさまで写真作品は木村伊兵衛賞の最終候補にまで残りました。
こんな体験も、いまの仕事に役立っているのだと思います。多くのすぐれた写真家と仕事ができましたから。
――いまやインターネット上では世界のニュースがほぼタダで読めますが、「クーリエ・ジャポン」のような雑誌にとって、これはどういう影響を与えるのでしょう?
ネット社会では膨大なナマの情報が氾濫していて、読者が単にキーワード検索をしても、正確な情報にたどり着けない恐れがあります。やはり、それぞれの情報には目利きである編集者が必要で、そういった編集者の目を通して、読者はしっかりした内容の情報を手に入れるのだと思います。こういった時代だからこそ編集者という仕事はもう一度見直されるべき だと考えます。
それと、やはり紙とネット上のデジタル記号の世界とでは信憑性、信頼性にまだまだ大きな差があると思います。紙はいったん刷られてしまえば訂正がききませんから、やはり信頼度が高いわけです。しかし、雑誌は読者のそういったニーズにしっかり応えられなければ、存在が危うくなるのかもしれません。
――愛読者の多くは「クーリエ・ジャポン」のクールな佇まいを褒めますが、つくる上で、気をつけておられることは?

社内でもひときわ広い編集部
持っていて、カッコいい雑誌でありたい、と。
中身は当然ですが、外見も大事です。デザインはもちろんですが、背表紙が見えるようにして、自宅の本棚に並べてもらえるような工夫をしたり、紙も特別なものをつかったりして、ちょっと日本の雑誌じゃないような見せ方をしています。
編集面では、さきほど言いましたが、多様性に配慮しています。アメリカ発の記事は、たしかにこなれていて面白いのですが、それが多くならないように、他の国発の記事にも気をつかっています。中東、アジア、東欧、アフリカ…。さまざまな角度からのニュースを取り上げるようにしています。そのため、編集者やスタッフには、語学に長けた人が多いです。この編集部だけで14言語がカバーできます。毎日、世界中から届く、新聞やニュースサービスを読み、気になったニュースはその媒体と交渉して使えるようにし、われわれ独自の視点で編集して読者に届けるようにしています。

編集部では世界中の新聞も読める

クーリエから生まれた本
ちょうど「Hope」というテーマで世界中の写真家に写真を撮ってもらって写真集を刊行、写真展を開催したのですが、「Hope」といったっていろんな視点があり、アングルがある。絶望的に見えるものを「Hope」として見せる写真家もいる。これぞ多様性で、面白いです。
――雑誌ジャーナリズムの危機が叫ばれて久しいですが。
既成の雑誌ジャーナリズムは、もうなくなってしまうかもしれませんね。現在の出版の構造を変えないと、存続は難しい。少数で人件費を落としてつくるか、雑誌の値段を上げるか・・・。
いずれにせよ、厳しい現実に直面していると思います。「クーリエ・ジャポン」は、定価以上の価値あるニュースを読者に提供する、ということでこの難局に立ち向かっています。今回のi-phoneへのニュース提供もそうですが、ネットとの共存を上手にやりながら、携帯電話などへの対応も積極的にやっていきます。
――休みの日は過ごされてますか?
スカッシュとスーパー銭湯です。(笑)
ちょうど、近くに有名なスーパー銭湯があるので、そこで次のテーマなどを考えるのです。スカッシュで売れなかった号のことを忘れ、温泉で次の企画を考えるって感じですね。
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1.The New York Times Magazine
ポピュリズムに左右されず、わが道を行く、なんとも羨ましい雑誌。内容もデザインもズバ抜けている。
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2.D Donna di La Repubblica
イタリアの女性週刊誌。ルポルタージュもある硬派な雑誌で、写真のクオリティがいい。
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3.ナンバー(文藝春秋)
手作り感がいい。写真の質やデザイン性も高い。
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4.Pen(阪急コミュニケーションズ)
隔週でワンテーマ。よくネタが続くと感心させられます。
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5.週刊新潮(新潮社)
あまり時流に迎合しない独自の”角度”がいい。最も週刊誌らしい週刊誌かな。
(2009年5月)