―マガジンハウスでは久々の雑誌創刊ですが、どんな雑誌になるのでしょうか。

社の入口にも大きな垂幕が
「いちばん使える! リアルな大人カジュアル・マガジン」がコンセプトです。20代後半から30代前半の女性、いわゆるアラサー世代ですね、彼女たちをターゲットにした大人カジュアルの女性ファッション誌です。
この世代の女性たちは、10代後半から20代にかけてストリートファッションの洗練を受けていて、独特のセンスを持っています。モードだとかコンサバという大きなひとつのスタイルを超えた世界です。古着などをベースに自分に合った小物などを上手に取り入れていくのですが、それが30歳くらいになると安定してきて、ジャケットなどを上手に合わせたり。
そこにわれわれが、こういうのもありますよ、って感じで提案をしていく。
ですから6割くらいがファッションになりますね。2割がビューティ。スキンケアやメイクですね。
―読み物はどんな感じですか。
ページの割合でいうと2割くらいが読み物、カルチャーページになるわけですが、ここでは「大人女子」ということをうたおうと思っています。「大人の社会科見学」と題して、自分たちの好きなカバンはこうやって作られているんだ、といったシーンを見せたりします。
また、ライフスタイルをアップデートさせるためのヒントになる対談をやったり、週末の近場の楽しみといったページをつくってみたりするつもりです。
日常が少し豊かになればいいなといった気持ちでつくっていきます。
―Lips(リップス)というタイトルにした理由は何ですか。

ネタ入れ袋は編集長の机の後ろに
これは流行のソーシャルを意識して(笑)。つまり喋ったり、つぶやいたり、で広がる世界がいま重要ですよね。特にこの世代はそうだと思うんです。口がキーワードである、ということでその象徴としてLipsとつけました。
―いわゆる青文字雑誌(カジュアル)ですね。専属モデルや読モなどはいるんですか。
そうですね、赤文字雑誌(コンサバ)ではないです(笑)。専属モデルも基本的にはやりません。創刊の宣伝物ではモデルの宮本りえさんを起用していますが、彼女がちょうど読者から見てリアルな感じかなと。
ですが専属ではなく、読者層に年齢的にも近いモデルの方や、ウェブなどで募った読者などに登場してもらい、誌面参加してもらったりするなかで、もりあげていくつもりです。
―月刊誌ではなく年8回出すんですよね。
はい。偶数月と3月9月です。このスタイルはいまときどき見かけますね。月刊だとちょっとしんどいけど、隔月だと広告的にも難しい。3月、9月はファッション誌の立ち上がりでもありますので、ではそれを含んだ隔月ということで8回と。
男性ファッション誌になりますが、「Huge」(ヒュージ)が最初は年8回発行でした。
―森部さんは、もともとどちらの編集部だったんですか。

光の差し込む明るい編集部は第3別館にある

入校前にデザインの打ち合わせ
僕は「アンアン」の副編集長でした。といってももともと「Tarzan」から初めて、「anan」「Olive」「POPEYE」と男性誌も女性誌もやってきたものです。
ですから、トータルに見る立場が僕で、景山が主にファッションを見るということになります。
その下にファッションとビューティのエディターがいて、ライターがいるという感じです。社員は僕一人、あとは外部スタッフという構成になっています。
―「Lips」の併読誌は何ですか。また雑誌づくりで特に気をつけておられることは何ですか。
併読はやはり「InRed」「sweet」(宝島社)になるのかな。ちょうどこのあたりの読者は3冊くらい併読してくれるそうなんです。ですから彼女たちの3冊に食い込もうと(笑)。
雑誌づくりでは、とにかく情報を丁寧に扱うことを心がけています。単純なモノのページでもただのカタログにはしません。たとえば靴を撮影するにしてもヒールの高さが分かるように撮影したり、細部にこだわります。
でも、そうすることで、読者からのレスポンスが高まり、それをクライアントが評価してくれるという好循環につながるんです。そのあたりの努力は惜しんではいけないと自分にいいきかせています。
―この時期の創刊というのには理由があったのですか。

マガジンハウスの雑誌、書籍の数々
2010年という年が、マガジンハウスの創立者である岩堀喜之助生誕百周年ということで、社内企画を公募したんです。そこで僕が出した企画がこの「Lips」でした。
もうひとつは事業プランで「クロスメディア事業局」。このふたつが採用されて、いまに至っているんです。
「Lips」を企画したのは、うちが持っていない雑誌で、マーケティング的にも受け入れられるものということで考えました。やはり元気で活況を呈しているということになると女性ファッション誌ですよね(笑)。
―読者世代の男性観というか、行動様式というか、分かりやすい例でいうとどんな感じになるのでしょう。
会社が終わって、新宿のルミネのお店なんかをチェックして、スタバでお茶して、また週末には伊勢丹なんかも見て、ヴィトンの店も見て・・・みたいな(笑)。
いわゆるOLって言葉は当てはまらないなと思います。会社員なんだけど、丸の内よりはちょっと緩い感じ。デニムで通勤OKみたいな。
それで結婚なんかもしてたり、考えてたり。でも男に媚びてなんかするといったタイプではなく、わりと自分のスタイルを持っていて、モテカワじゃない(笑)。
言葉にすると本当に難しいのですが、フラットな感覚というか空気感といったものを持った女子と僕は見ているんです。
―すごいですね。創刊PRなどはどうされますか。
通常の新聞の半五段、地下鉄の中刷などを使いながら、ファッションビルでのイベントをやったりアドバスを渋谷・原宿間で走らせたり、原宿駅の参道口をジャックして駅張りしたり・・・テレビなどもいまいろいろ検討中です。
3月23日創刊です。どうか皆様、「Lips」をよろしくお願いします。
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1.WWDジャパン(INFASパブリケーションズ)
必ず読みます。ファッションもビューティもよくできていて、リアルだし早いですね。
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2.週刊文春(文藝春秋)
つくりが丁寧だし、コラムなどの連載が面白いです。
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3.InRed(宝島社)
こういうところが読者にささるのか、と気になります。
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4.ジゼル(主婦の友社)
編集部の勢いを感じさせる雑誌です。面白いし、気になりますね。
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5.日経トレンディ(日経BP出版センター)
デジタル系ネタの扱いの参考などにいいんですよね。
(2011年2月)
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- 社員食堂という前近代的な響きが好きで、またそこで食事をするのも嫌いじゃない私としては、出版社によっていろいろ個性がある「社食」を1冊の本にするのもいいかもね、などと考えながら、お昼前に銀座のマガジンハウスを訪れました。
創刊前の編集部というのを私も3回経験しているので、泊まり明けが続くような苦労具合は知っているつもりなのですが、新しい編集部が別館にあるためか、比較的穏やかな気分のなかで、編集長の森部さんからいろいろ話を聞かせていただきました。
周年事業とはいえ、「外部スタッフ中心の前例がない構成の編集部でやる」「マス・ターゲットをねらった雑誌をつくる」、という2つの点で、「LIPS」はマガジンハウスのまったく新しい試みです。
いくら自分の企画とはいえ、編集長としては気の休まらない毎日だとは思います。そんななか時間をとってもらうのは悪いなと思っていたのですが、森部さんは辛そうな顔ひとつ見せず、始終穏やかにお話くださいました。そしてその話の中には確信犯めいた思いも篭っているような気がしました。
創刊の20万部がすでに予約でいっぱいという話になったときはさすがに嬉しそうで、雑誌で長年勝負してきた人だからそこ見せられる笑顔が出たような気がします。
寒さが緩んだ穏やかな冬の日差しのなか、私の好きな昔の気分を残した「マガハの社食」で金目鯛の煮付けを食べながら、やっぱり雑誌の創刊ってメデタイと、ま、ちょっとシャレてみたわけで。
インタビュアー:小西克博
大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。
