【一行だけで】作家・アーティストたちの対談「季語は俳句という小さな島の中でしか使えない魔法」

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言葉は誰かを傷つけるためにあるのではない。

明日への希望を、前を向く勇気を与えてくれるのが、言葉です。

その豊かな力に触れるには、たった一行だけでいい。

巧みな表現で無限の世界を描く、短歌や現代詩。

たった十七音で刹那を切り取る俳句や川柳。

語感とともにより身体的に訴えかけてくる歌詞。

強い説得力を持った誰かの発言や、映画や漫画の名セリフ。

 

この特集では、あらゆるジャンルで、心を揺さぶるたった一行の言葉を見つけに行きます。

あなたの明日のための言葉が、きっと見つかるはず。

 

一行の力って。

 

 

定型詩から散文詩、歌詞、名言まで。

さまざまな形式の「一行だけ」の言葉を扱う本編に入る前に、まずはその味わい方をいま一度考えたい。

各分野の一線で活躍し、新たな表現で未来を切り開く3名が、
それぞれの魅力、自身の一行、そして言葉との向き合い方について教えてくれました。

 

俳人・詩人 佐藤文香

歌人・木下龍也

シンガーソングライター・柴田聡子

 

短歌、俳句、歌詞
固有の魅力とは?

 

 

佐藤文香:柴田さんの新しいアルバムがとても好きなんですが、中でも『Synergy』の「ねずみ色の羊雲に染み込み 日差しになり代わり馴染むオレンジ」。「ねずみ/いろのひつじぐもにし/みこみ~」と、意味とは違うところで切って、「み」と「し」で韻を踏んでいる。気持ちが伝わるわけじゃないのに何かが伝わってきて、それが歌い出しということにも驚きます。歌詞だけでなく音楽全体が、私の思う詩だなと。「ねずみ」「羊」と動物の比喩が並ぶのも、テクニカルですよね。

 

柴田聡子:ありがとうございます。ねずみ色の羊雲は、たしかに見たんです。私は割と事実ベースで、そのまま書くことが多いです。

 

佐藤:写実的な書き方は、私も近いかなと。木下さんは逆のイメージがありますが、どうですか。

 

木下龍也:そうですね。どう読まれるかを意識します。そのまま出すのは怖くてできないです。今回、俳句や歌詞との違いが語れそうな短歌として選んだのは「ゴキブリは怖がられてて汚くて 私を大学に入れてくれた」。文芸誌で読者から投稿された短歌です。実は作者はゴキブリの研究が認められて、大学に入ることができた方で。短歌は31音しかないから、ものすごく省略している

 

佐藤:ゴキブリは換喩なのかと思いました。ゴキブリがいる古い一軒家のような家で育ててくれた、そんな家庭の象徴なのかと。

 

木下:そうなんです。親をゴキブリと呼んでいるのかなとか。削っているからこそ、驚くべき歌になっている。そこが面白い。

 

佐藤:ゴキブリが何かの暗喩じゃないかとか、書かれた言葉の奥の意味を見つけに行くのは現代詩も同じで。逆に、書かれたままに読めるのが俳句かなと。例えば「秋風の下にゐるのはほろほろ鳥」。ほろほろ鳥が何かの象徴で、秋風は今の時世を表している、わけではない。ただ秋風が吹いており、ただ鳥がいる。おお、いいな……みたいな。

 

柴田:面白い。初めて聞きました。

 

佐藤:でも、それで終わりというわけでもなくて。「秋風」というのは季語で、さまざまなイメージや歴史的背景を持っている。例えば「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」という歌がある。そう思うと、これは、ただの秋風じゃなくて、去年も、100年前も、1000年前も、吹いていた秋風の下に、リアルほろほろ鳥がいるという。ずんぐりした体や青い顔を思い起こしてそこにいることを想像します。季語に意味やイメージの蓄積があるから、鳥が輝くんです。

 

木下:その季語が使われてきた歴史の全部に頼れるんですね。

 

佐藤:魔法なんですよ。ただし、俳句という小さな島の中でしか使えない魔法で、それが俳句のとっつきにくいところでもある。

 


 

本誌では、3名の対談の続きをお読みいただけます。

 

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