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地方にある宿泊施設を備えたレストラン、オーベルジュ。
地方の食材に運命的に出会い、移住を決めたシェフや、
地元の食材を生かすためオーベルジュという形態を選んだシェフ。
それぞれに、作り出された味わいと同じ数だけ、深い物語が重なり合い、
日本のオーベルジュは今、さらん進化しているように思えます。
料理王国では、7店のオーベルジュを紹介。
それぞれのストーリーは地元愛に溢れていました。
今回はその中から岩手県にある『とおの屋 要』を紹介します。
食材・田んぼ・土や米…
遠野から日本全国、世界へと発信し続ける

見た目はシンプルですが、その中にさまざまなストーリーが幾重にも折りたたまれています。
『とおの屋 要』を営む佐々木要太郎さんの料理にはこんな表現がしっくりきます。
「柳田國男の『遠野物語』に象徴されるように、遠野は静かで不思議で、どこか暗いイメージがつきまとう。それと同じく僕の料理も決して明るい色彩ではないし、複雑さもある。でも、それが遠野らしさというか、僕はそれでいいと思っています」
しかし、全体的に落ち着いた色合いのお皿だからこそ、自生のミントの緑が際立ちます。
しかもそのミントの圧倒的な清涼感、強い香りに驚かされます。
「抽象的な言い方ですが、僕が料理を通して伝えたいのは、このミントのような個性と言うか、食材の喜怒哀楽。たとえば遠野でとれるウドとほかの土地のものを比べた場合、風味が同じであるはずがない。
遠野のウドが喜びに満ちていたらいいのですが、もしかしたら何かに憂いているかもしれない。おいしさとともに、そうした食材の声や表情を伝えるのも僕の務めと思っています」
なかでも伝えたいのが、『土』に関する情報だそう。
現在、佐々木さんが借り受けている田んぼは約3ヘクタール。
当初は農薬まみれで「死にかけていた」と振り返ります。
「今でも農薬や肥料なしに米は育たないと思っている農家さんは多いです」

誤った固定概念を崩すべく、佐々木さんはていねいに土を耕し、無農薬・無肥料で米を育てています。
畔がフカフカになるには約20年を要しましたが、実った米の味が土の蘇りを伝えます。
さらにその米で造ったどぶろくはエレガントな味わいで、
スペインの一流店『ムガリッツ』を訪れるグルメをも唸らせています。
農作物やどぶろく造りもあって、『とおの屋 要』の宿泊客は1日1組(6名まで)に限定されますが、
それでも宿泊業を続けるのは「お客様と、若い料理人にも、僕たちが地方で土にこだわる理由をわかってほしいから。土を健康にするには、次代を担う人の理解と協力が絶対に必要なんです」とのこと。
特に「将来、地方で独立したい」という人は、
絶対に土のことを学び、生涯現場を自らの足で歩く必要があると佐々木さんは協調します。
「それが地方に求められる独自性につながると僕は思います。不思議なもので、その人の料理を食べると、生産現場を知る人か知らない人かがわかる。知らない人の料理には味の領域に狭さを感じてしまうんです」
自身の料理の独自性について佐々木さんは、
「食材の個性と個性をぶつけ合うことで生まれる新しい調和」と分析します。
ですが、無茶なぶつけ方はしません。
土の再生に尽力して米を育み、酒を醸す日常がそのさじ加減を教えてくれるのです。
「自然から学ことはたくさんありますが、40歳を超え、それを後輩に伝えていく立場にもなってきました」
そう語る佐々木さんにとって、『とおの屋 要』は貴重な情報発信の場でもあります。
本誌では、『とおの屋 要』の料理はもちろん、他にも6店のオーベルジュのこだわりが紹介されています。
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