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情報の洪水と効率化に追い詰められた現代人。
自分らしく生きるためには、あれもこれもやらなければいけないのでしょうか?
知らず知らずのうちに心身ともに疲弊した私たちには今、過剰にがんばらない心が必要かもしれません。
エル・ジャポンでは、今日からできるマインドセット法や自分軸で生きる人の言葉、
何もしない旅などを紹介しています。
あきらめではない、怠けるわけでもない、私が私らしくいるための心の取捨選択とは。
膨大な情報と要求に疲弊
脳と心が悲鳴をあげている
文:PATRICK WILLIAMS
今、アメリカではピックルボールがブームだ。
テニスと卓球とバドミントンを掛け合わせたようなスポーツで、テニスをしのぐ人気にまで成長している。
このスポーツが急速に広まったのはなぜか?
それは、「簡単で、疲れなくて、長い練習が必要ないから」。
一見関係ないように思われるこのエピソードは、実は現代社会における本質的なある傾向を反映している。
私たちが、疲れ果て、やる気を失い、努力は最小限に抑えたいと感じているということだ。
フランスのシルクタンク、ジャン・ジョレス財団の共同ディレクター、
ジェレミー・ペルティエは、昨年発表した研究でこう説明する。
「職場での“静かな辞職”(仕事の手を抜くこと)、宅配サービス(アマゾンやデリバリー、ウーバーイーツなど)、短い動画で情報を得る人々(文章を読む精神力がない!?)、簡単にお金を稼ぐことを宣伝するYouTuberやインフルエンサーたち……。今世の中には“怠惰”があふれています。若者の間では、TikTokで“ベッドロッティング(ベッドで腐る)”減少が爆発的に広がり、ベッドの中でボーッと過ごすことが流行。
また、犬の散歩や庭仕事、雲を見ることなど、リタイアした人の静かで穏やかな生活がSNSで賞賛を浴びています。みんながイーロン・マスクのようなエネルギーを持っているわけではないのです」
2023年に出版されたフランスの法哲学者ローラン・ド・スッターによる著書『Superfaible(スーパー弱者)』では、
何十年もの間、人は超強力で超効率的であろうと努力してきたが、その結果、疲れ果て、行き詰まり、
誰もが内に持つ弱さを受け入れる時期にきていると説明。
また、哲学者ダニエル・ミロは今年刊行の著書『La survie des médiocres(凡人の生存)』で、
競争は資本主義の『美徳』でも、社会の唯一の原動力でもなく、
「退屈で怠惰な人間にも居場所がある」と述べている。
デジタル時代の消費者の新しい行動様式やトレンドの予測を行うコンサルタントのアレクサンドラ・ジュベは言う。
「配信サービス、宅配アプリ、ビデオ会議アプリなど、自己中心的な行動を促すサービスや技術革新がほぼ同時に登場しました。コロナ禍は私たちの翼を切り落としたのでしょうか?私たちが普通の生活に戻ったと信じている間、実際にはポストコロナのトラウマの真っただ中にいるのではないかと思います。ロックダウンが習慣や生活様式を消し去ったのです。若い世代はパーティーをする機会を持たず、それを始めることもなかった。そして外出していた人たちも、もはや頻繁に外出しなくなりました」
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