女子栄養大学出版部が挑んだ、“暮らしに寄り添う”会員サービスのかたち|「栄養と料理ぷらす」立ち上げと運用の舞台裏
紙とWebをどう使い分け、読者に寄り添うかたちにするか。女子栄養大学出版部が提供する会員サービス「栄養と料理 ぷらす」の構築・運用事例を紹介。ビジネスとしての導入メリットについて、女子栄養大学出版部の佐々木浩二様、浜岡さおり様にお話を伺いました。
女子栄養大学出版部 部長 佐々木 浩二様
どうすれば「信頼される栄養情報」を、時代に合ったかたちで届けられるのか?
長年にわたって紙媒体で発行されてきた雑誌『栄養と料理』。その信頼と専門性を活かし、2024年、女子栄養大学出版部では新たにWebメディア「栄養と料理 ぷらす」を立ち上げました。加速するデジタル化のなかで、紙とWebをどう共存させるか。「栄養と料理 ぷらす」が描く、これからのメディアのあり方に迫ります。
「やらなきゃ始まらない」危機感から芽生えた、新しいチャレンジ
── 「栄養と料理 ぷらす」を始めようと思ったきっかけは?
佐々木様:
紙の雑誌『栄養と料理』は長年にわたって多くの読者に親しまれてきましたが、近年は書店数の減少や読者層の変化もあり、「このまま紙だけでは届けられない時代が来るかもしれない」という危機感が強まっていました。
特に、美容室や公共施設ではすでにタブレットで雑誌を読む人が増えていて、「だったら私たちも、デジタルでの提供を本格的に始めよう」という気持ちが芽生えました。
以前から他社の電子書籍サービスへは一部コンテンツを提供していましたが、自分たちの手で発信の形を持ちたい、オリジナルのブランド力を活かしたWebメディアを構築したいと考えるようになりました。
編集部でも「読者の生活スタイルに合った、新しい読み方を提供すべき」という意見が多くなり、構想から約1年をかけて「栄養と料理 ぷらす」を立ち上げました。
このWebメディアは、単なる紙の代替ではなく、健康の悩みや食生活への疑問に“すぐアクセスできる確かな情報源”として、忙しい現代人に寄り添える存在を目指しています。
紙とWebの役割を明確に分担
── 紙の『栄養と料理』とWeb版「栄養と料理 ぷらす」、それぞれの役割分担の考え方は?
佐々木様:
Web版の立ち上げ当初、見た目や内容は紙の雑誌と大きく変わるものではありませんでしたが、私たちは「紙とWebは、読まれるタイミングも、求められる役割も異なる」と捉えていました。
紙の『栄養と料理』は、じっくりと読まれることが前提のメディアです。例えば、食卓でゆっくり雑誌を開いたり、休日の時間に活用されたりと、“静かに読み込む”場面で価値を発揮します。
一方で、Webでは読者との接点がもっとラフで日常的になります。通勤時間、仕事の休憩中、夜寝る前など、ふと「今日は何を作ろう?」「この症状、食事でケアできないかな?」と思ったとき、スマホを手にしてアクセスできる、そんな“身近なニーズにこたえる情報”を届けたいと考えました。
「栄養と料理 ぷらす」には、栄養成分値つきのレシピや医学監修つきの健康記事などが豊富な雑誌のバックナンバー、Web記事などを収載しています。最近では、「疲労回復」「作りおき」「高たんぱく」など、目的ごとに探せる検索機能も搭載され、読者が自分に必要な記事をすばやく見つけられるよう工夫しています。
紙には紙の良さがあり、WebにはWebの手軽さと柔軟性がある。大切なのは、どちらか一方に寄りすぎるのではなく、使ってくださる方の生活スタイルに合ったかたちで、質の高い情報を「届け続けること」だと思っています。
「栄養と料理 ぷらす」のサービスについて
雑誌『栄養と料理』の最新号やバックナンバーのほか、食や健康に関する書籍、web記事などが、いつでもスマホ・PCからご覧いただけます。書籍は、出版部90年の歴史の中で根強い人気があるシリーズの復刻版、栄養士のベストセラーであり利用機会の多い資料などデジタル版ならではの商品を選んでいます。
通勤中や家事の合間、ちょっとした空き時間にも見やすく、健康づくりや栄養指導にも役立つ内容を多数掲載しています。
会員サービス「栄養と料理 ぷらす」
CMS導入の決め手は、コスト・信頼・サポートのバランス
── CMSを導入するにあたり、選定のポイントや最終的な決定理由は?
佐々木様:
最初の壁は「どれくらいの費用がかかるのか」という点でした。
独自にCMSを開発しようとすると、初期費用だけでも数百万円から、場合によっては数千万円規模になることがあると分かりました。
私たちのように、まずは読者の反応や需要を見ながら段階的に展開していきたい出版社にとって、大きすぎる初期投資はリスク。スモールスタートで無理なく始められることが、第一条件でした。
その点、富士山マガジンサービスさんの提供するCMSは、コストを抑えながらも、必要な機能が揃っていて、すぐに使い始められる設計になっていた。それが非常に魅力的でした。
また、私たちはすでに雑誌の定期購読やデジタル版で富士山マガジンサービスさんと取引があり、実績という意味でも信頼がありました。
自社の編集フローや業務体制を理解してもらっているという安心感もあり、他のサービスとの比較検討をするよりも、「ここにお願いしよう」と最初から強く感じていました。
浜岡様:
実際に導入してみて感じたのは、サポートの対応力の高さです。
わからないことや改善したい点が出てきたときに、問い合わせればすぐに返信があり、しかも具体的な解決方法まで提案してくれる。こちらからの要望を前向きに検討してくださる姿勢もありがたいポイントでした。
CMS自体の使いやすさはもちろんですが、この“伴走してくれる安心感”が大きかったですね。運用中にトラブルの不安や行き詰まりを感じずにいられるのは、とても重要だと思います。
雑誌との連動で制作効率を向上
── Webの記事はどのような体制、作業手順で制作しているのですか?
浜岡様:
最初の壁は「どれくらいの費用がかかるのか」という点でした。
Web版の記事はまだそう多くないのですが、『栄養と料理』と書籍の企画をベースにしています。雑誌については編集会議にあがってきた企画の中から、Web向きのものを選んでいます。Web版専用の新規コンテンツを作るというよりは、紙との連動を考慮しながら、Webでも展開しているイメージです。
Web公開用のテンプレートがあるので、原稿データをCMSに流し込み、画像や小見出しを調整するだけでレイアウトを整えられるのが便利です。原稿量にもよりますが、一記事あたり30分~1時間程度あれば公開まで仕上げられるフローが確立されています。
こうした紙とWebの連携、再活用によって、制作フロー全体としての効率アップや、編集業務の軽減にもつながっており、担当者ひとりでもなんとか対応できる体制が構築できました。
Web制作のハードルが下がったことで、「スピーディに共有したい情報はWebで」という選択肢の広がりを感じています。
「検索性」や「テンプレ」が、日々の運用を支える基盤に
── 実際に運用してみて、「これは助かっている」と感じる機能は何ですか?
浜岡様:
なにより大きいのは「記事の検索機能」です。
CMS上でキーワード検索ができるようになったことで、必要なコンテンツにすぐアクセスできるようになりました。たとえば「主菜」「葉野菜」「貧血対策」といったキーワードを入力するだけで、該当する記事やレシピが一覧で表示されます。
この機能は、編集作業中の確認はもちろん、実際の読者である栄養士さんや教員、編集者などからも「探したい特集をすぐに見つけられて便利」と好評をいただいています。
また、ページ構成のテンプレート機能も非常に役立っています。一からレイアウトを設定する必要がなく、過去に作成したフォーマットを呼び出して、タイトルや内容を差し替えるだけである程度整った記事ページがすぐに公開できます。
この二つの機能、「検索性」と「テンプレート利用」は、日々の制作・運用の効率化に直結しており、少人数体制の編集部でクロスメディア展開するための強力な支えになっています。
「栄養と料理 ぷらす」の「雑誌・書籍検索」
紙で伝えきれない価値を、Webで補完
── Web化して感じた読者の反応や、“手ごたえ”があれば教えてください。
佐々木様:
この取り組みは、単なるデジタル化ではなく、『栄養と料理』という長年のブランドを、未来にどうつなげていくかというチャレンジでした。
雑誌が売られる場所や、紙に触れる機会は年々減っています。読者の視界から消えてしまうと、どれだけ良い情報でも届かない。それが一番の課題だと思っていました。
私たちの発信する内容、たとえば、医療関係者監修の信頼できる健康情報や、家庭の健康管理に活かせるレシピなどは、今でも高い価値があると感じています。だからこそ、その価値を紙だけで完結させるのではなく、Webで“いつでも、誰でも、すぐに使える”かたちで届けたいという想いが強くなりました。
「栄養と料理 ぷらす」を活用すれば、日々の生活や仕事の合間に、スマホやPCからすぐアクセス可能です。検索で「高たんぱく」「塩分控えめ」「不調改善」など自分が求めるテーマを見つけ、気になる記事をいつでも読める“頼れる情報源”になります。
雑誌が手に取られる機会が減った今、私たちが目指しているのは「生活の中で自然に使われるWebメディア」です。
健康や栄養のことが気になったときに、ふと思い出されて戻ってこられるような。“誰かの日常にそっと寄り添える場所”として、これからも育てていきたいと思っています。
浜岡様:
実際に、Web版を使ってくださる読者からは「やっとスマホでも読めるようになって助かっています」「職場の休憩中にチェックできて便利です」といった声も届いています。
特にIT系企業で働いている方や出張の多い方、訪問業務の管理栄養士など、電子資料の利点を感じやすいユーザー層には、自然に利用されていると実感しています。
ライフスタイルが多様化する今だからこそ、「必要なときにアクセスできる」「信頼できる情報がある」――その積み重ねが、ブランド価値を守ることにつながっているのだと感じます。
成功の鍵は「やってみること」
── 最後に、Webメディアの立ち上げやリニューアルを検討している出版社・団体の方へメッセージをお願いします。
佐々木様:
やってみないと分からないことが、本当にたくさんあります。
私たちも最初は不安でしたが、「完璧な準備が整ってから始めよう」と考えていたら、きっと今も動けていなかったと思います。
実際には、やりながら修正し、読者の声を受け取りながら改善を積み重ねていくことが、もっとも効果的な方法でした。どこかで小さく始めてみる。その一歩がすごく大きいんです。
Webメディアの立ち上げや、出版物のデジタル展開(いわゆるDX)には時間も手間もかかりますが、「伝えたい情報がある」「届けたい読者がいる」なら、その想いがいちばんの原動力になります。
私たちもまだ道半ばですが、だからこそ「同じようなチャレンジをしている人たち」と情報を共有して支え合えると、すごく心強いと思っています。
一歩踏み出そうとしている方にとって、私たちの経験が少しでも参考になれば幸いです。
取材・撮影協力:左から女子栄養大学出版部 橋本様、佐々木様、浜岡様、関様
取材日:2025年6月5日