2016.9.5

ソトコト

photographs/Hiroshi Takaoka、Makoto Tsuchiya、Masaya Tanaka、Yurika Terashima、Hiroshi Ikeda、Yu Nakamura、MOTOKO text/SOTOKOTO、Yoshino Kokubo

おいしい地方のごはんとお酒、ケータリングの大特集!地元のごはん 最新ケータリング・ガイド

『地層食堂』が起こす、有機的なつながり。

ごはんをみんなで食べること。これほどシンプルで、それでいて、たくさんの人と幸せな気持ちを共有できるコミュニケーションはない。ましてや、そのときの料理や飲み物、それぞれの食材に、土地のよさを語ってくれるストーリーが詰まっていたら、なおさらだ。今号は、ごはんの特集。日本の各地の、おいしい時間をお届けします!

『地層食堂』が起こす、有機的なつながり。

長野県・野沢温泉村を拠点とするフードユニット『地層食堂』によるおいしいごはんの一例。彼女たちの活動に注目です!

新潟県境に近い、長野県・野沢温泉村の小さな集落。あるフードユニットがローカルな台所から届けるものは、おいしいだけのごはんではありませんでした。

『地層食堂』のアトリエ兼自宅。子どもたちが大勢滞在中!

食べもののストーリーを料理と一緒に伝えたい。

「こっちに来て地元のごはんを食べたとき、感動したんです。『„ちょうどいい“だけで、こんなにおいしいんだ!』って。料理上手な人は素材の扱い方や調味料の加減を知っていて、絶妙な味わいをつくりだせる。„おいしい“ってけっこう幅広い言葉だと思うんですけど、その中にある„ちょうどいい“のゾーンはすごくせまい。私、„ちょうどいい“料理が好きになりました」。

長野県・野沢温泉村にある元・民宿の台所で、稲見朋子さんはニコニコしながらそう話してくれた。稲見さんは、今25歳。東京で育った稲見さんは、大学卒業後に新潟県十日町市へ移住して暮らしていたが、約5か月前にここへ越してきた。

同じタイミングで引っ越し、今共に暮らしているのは、新潟県出身の須田恵さん。二人はお互いに十日町市で暮らしているときに出会った。「私たち、何もかも対称的ですよ」と口を揃えて笑う二人だけれど、考え方や方向性で意気投合し、フードユニット『地層食堂』として活動している。メニューの考案や料理を主に担当しているのは稲見さんで、須田さんは料理を手伝うほか、発信やコーディネートの担当だ。

夕食中の二人と子どもたち。食器に見立てた地元産の木材に、料理がよく映える。

『地層食堂』のアトリエで料理をする稲見さん。地域の子どもたちが手伝うことも多い。

農家の佐藤知也さんからバジルを購入する須田さん。

地元の新鮮な食材を使う『地層食堂』の料理は、味に不思議な存在感がある。田舎料理や家庭料理のあたたかさ、素朴さにあふれながら、食材の引き立て方がどこか洗練されているのだ。まさに„ちょうどいい“という言葉がしっくりくる。

鶏肉の和えもの/農家の吉越彰さんがつくった自家製コチュジャンや黒酢を使って、鶏肉とキュウリを和えた一品。旨みと辛みのバランスが絶妙!

ささげあん/地元で採れたささげを砂糖で煮て、冷やした豆料理。甘さ控えめでさっぱりとした味わい。デザートの代わりに。

夕顔と鶏肉の煮物/ウリ科の夕顔と鶏ひき肉を昆布出汁で煮た料理。大きめに切った夕顔の軟らかい食感にホッとする一品。青じそを添えて。

かぼちゃサラダ/ゆでたかぼちゃ、ヨーグルト、クミン、マヨネーズ、松の実を混ぜた、爽やかな一皿。クミンの後味がアクセントに。

ビシソワーズ/みんなで収穫したじゃがいもを使った、冷製クリームスープ。にんにくの風味があり、夏バテ予防にもオススメ。

ピーマンの肉炒め/収穫したばかりのピーマンを細かく刻み、豚肉とあわせて炒めた料理。ほどよい塩味で、白米のすすむおかず。

地元の白米/農家の吉越さんが持ってきてくれた絶品の白米。寒暖差のある村の天候やおいしい水により、旨みがある米に育つそう。

トマトのオムレツ/地元の農家からもらったトマトを湯むきして、知り合いの養蜂家のハチミツで和え、たっぷり卵を使ってオムレツに。

二人はなぜ食の活動を始め、このような料理をつくれるようになったのだろう? 「美大に通っていた頃、アートをやっていて寂しかったのは、作品を見た人から『すごいね。なんかよくわからないけど』と言われることでした。毎回『違うの、言いたいことがあってさ!』という気持ちだったんです」と、稲見さん。そこであるときつくったのが、お弁当の作品。食べものの背景にあるものとして、「その食材は何を食べて育ったのか」というレイヤーを重箱で表現した作品だったという。「東日本大震災や原発事故の後、個人の暮らしの『選択』について考えました。アートだと関係ない顔をする人でも、食のことであれば世界共通で、全員に関係がある」。手応えを得た稲見さんは学生のうちから、食のケータリング活動を一人で始める。

だからこそ、食の活動をすればするほど、ある想いが強くなっていった。「スーパーで食材を見ていて思ったんです。„この先“があるよなって。食べものの背景には、育てた人、収穫した人、切り分けた人、包装した人、運ぶ人などもいるんですよね。そんな生産地に少しでも近いところで生きていこうと決めました」。稲見さんは、十日町市へ移住した。

一方、地方育ちである須田さんにとっては、稲見さんが地元のごはんや台所に強い興味を持っていることがかえって新鮮だったという。二人が出会った頃、稲見さんは十日町市の集落に住み、地域のおばあさんたちから料理の手ほどきを受けていた。須田さんは「昔おばあさんたちはどの家でも味噌をつくっていて、家庭によって味が違うのが魅力だったのに、いろいろな理由から味がだんだん統一され、個性的な味が消えかかっているんです」と話す。

2015年12月、それを寂しいと感じた稲見さんが味噌づくりのワークショップを考案し、須田さんが賛同して、一緒に活動するようになったのだとか。『地層食堂』という名前には、「食べものが手元にくるまでのストーリーや、関わりがある一人ひとりのことを伝えたい」という想いが詰まっている。

夏休みで大勢来ていた子どもたちと一緒に、じゃがいも収穫!

男爵いもやメークインなどを収穫。

二人が住む野沢温泉村の七ケ巻(なながまき)という集落には、美しい田園風景が広がっている。

町に住んでいる子どもたちが畑で土をいじる姿を見守る農家の吉越彰さん。

「二人が来てくれて地域が活気づいた」と吉越さん。

繊細さと大胆さを備えた地元仕込みの腕前。

稲見さんは地域で農家や飲食店を営む人、おばあさんたちと出会って、発見があったそうだ。「食材や道具の扱い方がていねいで、その食材にとっていいように扱うとはどういう姿勢なんだろう、と考えさせられました。例えば、野菜の切り方をちょっと変えるだけで食感や味が変わる。デリケートであることを汲むやり方を学びました。でも、その繊細さとは別に大胆さもあるんですよ。例えば大きなモクズガニをいただいて、

だし生きたままで出汁をとらないといけなくて、カニを鍋に入れ、私が地獄の釜の番人のように(笑)、カニが外へ出ようとするのを沈めたことがありました。そういうことがとても新鮮で、生きもの感があります」。地域の人々は、いつも食べものを生きものとして扱い、性質などにも精通しているという。「地元には丸ごとの、自然のままがあるもんね」と須田さん。「うん、それを扱える強さがある」と、稲見さんは言う。

現在、長野県や新潟県のほか、都内でもケータリング活動をしている『地層食堂』の二人。稲見さんは「地方には、その土地に脈々と息づいてきたものをふまえた食文化が、都会より残っていると感じます。言い伝えとかが、味で残っている。土地のレイヤーが見えたとき、すごく楽しいし、ちら見えすると胸キュンです(笑)」と地元のごはんの魅力を語る。「土地の記憶を食がつないで、その土地で味が出来上がっている。味の記憶みたいな」と須田さん。二人は、食べもの単品の背景やつながりだけでなく、地元の食文化や歴史という„地層“も掘っているのだ。

「私たちは地域おこしがしたいのではないんです。自分がやりたいこと、楽しいと思うことをしているだけ」と稲見さん。須田さんも「自分が本当に好きなもので満たすかどうかなんです。食事も、生き方も」と話す。私たちは、あと何回食事をするのだろう。一食のうち、つながりを知っているのは何品なのだろう。二人のつくるごはんは、„ちょうどいい“おいしさの向こう側で、食べ方と生き方を考えさせてくれる。

山椒塩で炒めたじゃがいもの千切りなど、おいしそうなおかずが並ぶ。

元・民宿というだけあり、台所が広い。「ここは臨時で借りていて、いずれ自分のキッチンを持つかもしれません」と稲見さん。

湯むきしたトマト。新鮮なのでツヤとハリがある。

吉越さんがなすを調理!

理学療法士でキャリアカウンセラーでもある須田さん(写真右)と、個人でも活動する料理作家・稲見さん(写真左)。

■編集部もケータリングを依頼!
ケータリングはイベントや個人宅で行っている。問い合わせは下記URLから。
http://chiso-shokudou.tumblr.com

Q:地層食堂にとって、地元のごはんって?
A:雑ではなく、食べものをていねいに扱ったごはん。その土地の記憶が語り継がれている装置。

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