2015年5月号
footballista(フットボリスタ)
人口10万未満、スモールタウンクラブ奮闘中 残留なるか?エイバルの奇跡を目撃せよ!
3月エイバルを訪れる機会があった。人口2万7000人のスモールタウンを本拠地とするクラブである。ビルバオから40km、車なら30分ほどだが、山に囲まれた谷間にあるせいで山村という表現がぴったりだった。
木村浩嗣
編集者を経て94年からスペイン・サラマンカへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年に『footballista』を創刊後、08年からスペイン・セビージャに拠点を移し、特派員兼編集長となる。
エイバル市には平らな場所がほとんどなかった。小さな川の両脇の崖にへばり付くように広がった村。市役所からホームスタジアムのイプルアに向かうのに、2つの雨ざらしのエスカレーターを利用しなければならなかった。徒歩で10分の距離なのに数十mの高低差があるからだ。傾斜地に建つスタジアムから蹴り出されたボールは障害物がなければ谷底まで転がって行くに違いない。これではストリートサッカーどころではない。
そんな街を本拠地とするエイバルは、90年近いリーガの歴史でも最小のホームタウンを持つクラブである。イプルアの収容人数は5200人でこれも史上最小。そうして当然ながら予算規模も最小である。エイバルの14–15シーズン予算1600万ユーロ(約21億6000万円)は、スモールクラブのラジョ・バジェカーノの2900万ユーロやコルドバの2800万ユーロ、エルチェの2600万ユーロに比べても断トツの最下位だ。

マドリー戦の前の光景。駐車場がないのでチームバスもスタジアムに横づけするしかない。イプルアは増設中で、工事終了後は1200席ほど収容人数が増し、2部リーグのクラブに要求される水準6000人以上はクリアする
ボロは着てても心は錦
とはいえ、最貧クラブではない。ここ数年補強費ゼロのラジョ、サラリーキャップ制でペドロ・レオンを当初、選手登録できなかったヘタフェ(予算非公開)、粉飾決算の疑いで会長が活動停止処分を食らったエルチェ、移籍金の未払いで勝ち点3を剥奪されたアルメリアらが赤字にあえいでいるのに対し、エイバルは無借金の健全経営。今季は昨季予算の4倍という大盤振る舞いだが黒字が出る計算なので、万が一降格という事態になっても慌てなくて済む。降格即、消滅の危機というラジョやヘタフェ、エルチェ、アルメリアとは経営の堅実さが違うのだ。
節約の精神は徹底している。会長をはじめフロントのお偉方は無給で、駐車場がないため路上駐車で選手はスタジアム入りし、昨季までの練習グラウンドはフルコートではなく、ユニフォームは9着目から有料で給料天引き、宴会はクラブの食堂で開く。「大きな約束はできないが、約束したものは必ず払う」(アランサバル会長)が方針で給料の未払いもない。
街の小ささは親しみやすさである。
タクシーの運転手さんにレストランを紹介してくれと頼むと、いきなりガリターノ監督の父親に電話して尋ねてくれたり、そのレストランで定食を食べていると隣のテーブルのおじさんがユニフォームの胸スポンサーだったりと、取材中も何かと1部リーグのクラブとは思えない距離の近さを感じた。選手も全員この街に住んでいて、ファンとの交流も日常的なことだという。
2部B、3部が本来の居場所
ホームタウンが10万人未満で1部リーグを経験したことがあるのは7クラブしかない(左のデータ参照)。ビジャレアルの実績が目を引くが、これは会長が国内有数の陶器会社とスーパーマーケットチェーンのオーナーで、わずか8kmの距離に人口17万4000人のカステジョン・デ・ラ・プラナ市があるという特殊条件ゆえ。そんな特権に恵まれていない本物のスモールタウン勢で、1部返り咲きを現実的な夢として見ているのは08–09に2部に降格したヌマンシアだけだ。身の丈に合わないスタジアムを抱えたエストレマドゥーラは財政破綻で消滅。レアル・ウニオン(現在2部B)はリーガ創設時のメンバーとして1部に在籍しただけだし、アルコジャーノ(2部B)に奇跡が起きたのは60年以上前、ポンテベドラ(3部)の黄金期も50年近く前の話だ。
ホームタウンが小さいと観客動員は頭打ちで、地元企業以外のスポンサーが付かず、グッズなどの売り上げも見込めない。サッカークラブの3大収入源である入場料収入、広告収入、商業収入に物理的な限界があり、将来的にも改善しない。そんな絶望的な状況下でエイバルはグラウンド上の競争力だけで1部リーグに上り詰めて来た。給料未払いにもめげず奮闘する姿は美しいが、生まれながらのハンディを克服する姿もまた美しい。エイバルが残留すれば、小さな街の人たちは奇跡がまだサッカー界に残っていることを知るのだろう。
■ 12–13、13–14と2季連続昇格で1部に上がって来た
■ ガリターノ監督も借金嫌いで「ローンは一切ない」とのこと
■ 2部リーグでの18シーズン連続在籍はリーグ最多記録
■ 00–01にはシャビ・アロンソが、04–05にはシルバがプレー

