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『感情』と『経済』のかかわりを長年研究してきた
世界的社会学者エヴァ・イルーズ氏と気鋭の社会学者・山田陽子氏。
『感情資本主義』という概念から読み解く、現代社会が直面する難題とは。
Forbes JAPANで対談している記事をピックアップします。
『経済的行為のエモーショナリゼーション』と
『感情生活の経済化・合理化』
仕事では『怒りのコントロール』が必要とされ、恋愛では『コスパ』が求められる…
理性的・合理的な領域である『仕事』と、
感情的・非合理的な領域である『プライベート』の
区別がますます曖昧になる現代社会を読み解くうえで、大きな示唆を与えてくれる概念が『感情資本主義』です。
近代資本主義の発展を、
『経済的行為のエモーショナリゼーション』と『感情生活の経済化・合理化』が
同時に進行する動的プロセスとしてとらえるこの概念を提唱したのが、
イスラエル=フランスの社会学者エヴァ・イルーズ(ヘブライ大学教授、EHESS教授)。
2022年11月に邦訳が刊行された共著の『ハッピークラシー:「幸せ」願望に支配される日常』も、
『ウェルビーイング』が声高に叫ばれる現場に一石を投じるものでした。
個人の感情すらも、ビジネスに利用されるように
山田:あなたは、著書『Cold Intimacies: The Making of Emotional Capitalism』のなかで「感情資本主義」を「感情生活の合理化」と「経済的行為のエモーショナリゼーション」とが同時に進行するプロセスとして描き出しています。
現代社会をとらえるうえで、非常に重要な示唆を与えてくれる概念だと思いますが、まずはこれについて、あらためて教えていただけますか?
イルーズ:感情資本主義のいくつかの側面について説明しましょう。
そもそも20世紀には精神分析や臨床心理学などの『心の科学』が広まり、サイコロジスとと対話すれば自分の内面を知ることができ、人生で何らかの困難が生じた場合も感情や精神の状態を改善すれば対応できるという考えが普及しました。
それまでも精神的な苦しさや生きづらさは誰にでもあるものでしたが『個』という概念が希薄であった前近代社会では個人の内面に格別の注意を払うことはありませんでしたし、困難は宗教的な枠組みで解釈されてきました。
「心の科学」は20世紀の文化や政治に深く関わっています。メンタルヘルス、すなわち心理的に安定していることは『健全な国民』の条件であり、そうでない人は病院に収容されるというかたちで社会から隔離されることさえありました。
また、恥や罪の意識をもつことなく自分で目標を決めて実現できる…このような文化がアメリカ、少し遅れて西欧で大きな力をもつようになりました。
山田:自分の内面を見つめ、精神のバランスを取りつつ、自分自身で人生を選択して切り開いていくことが重要視されるようになったのです。
イルーズ:これを背景に1920~30年代には「職場の心理学化」が生じます。生産性を高めるためには、働く人の感情や対人関係を相応に整え、利用するのがよいと企業が気づいたのです。
理想のリーダー像もそれまでの権威ばった人物ではなく、「熱心で人柄がよく、従業員にもフレンドリーであるよう自己コントロールできる」人物へと変化しました。
そうしてアメリカでは1930年代以降、成功を説くビジネス書が、ポジティブ・トークや共感、熱意を重視するようになり、友好的で快活であれと強調してきました。
最近ではスピリチュアルなものやセラピー的なものがそこに含まれるようになっています。
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