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「生理が来なくなるまで練習してこそ一人前」
そんな指導者やアスリートの価値観を10年かけて変えてきたのが、
産婦人科医のスポーツドクター・能瀬さやかさん。
女性特有の生理について、まだまだ広がっていない知識をアスリート選手たちに教えたりもしています。
今号の日経ウーマンでのインタビューをピックアップします。
産婦人科医のスポーツドクターとしての必要性を
世に広める
能瀬さんは、人に話づらい生理について着目し、データを取って女性アスリートの実態を明らかにしました。
『スポーツドクター=整形外科医』だけでなく、産婦人科医のスポーツドクターとしての必要性を世に広めました。
産婦人科医の父親への憧れから同じ道に進んだ能瀬さんですが、
幼少期からバスケットボールに打ち込んだ経験から、スポーツに関わる仕事も諦めきれませんでした。
医学部5年生のとき『女性アスリートの三主徴』に関する記事を目にし、
産婦人科医がアスリートをサポートできる接点を発見。
スポーツと名のつく学会や研究会に片っ端から出席し、登壇した医者に手紙を書きました。
日本サッカー協会に電話し、サポートしたいとも伝えたそうです。
数年後、同協会から1本の電話が入りました。
13歳以下の女子チームの海外試合帯同の打診でした。
「うれしかった。でも継続的に大勢の選手を診る機会が産婦人科医にはなく、やっぱりスポーツに携わるのは難しいなと思った時期もありました」
アスリートの実態に驚愕
一人一人に説明する5年間
ターニングポイントは2012年。
国立スポーツ科学センターが内科医を公募していると耳にし、専門は異なりますが退路を断って応募。
採用後は産婦人科医の役割を果たそうと、683人の女性選手のデータを1年かけて収集。
約4割が無月経を含めた月経不順で、23歳で一度も生理が来ていない選手も。
約7割が低容量ピルで『月経移動』ができることを知らない結果にも驚愕したといいます。
『ピルは太る悪魔の薬』という誤った認識の指導者やトップ選手が多く
また、五輪本番で生理になり、力を発揮できず涙した選手もいました。
当時、日本にはアスリートの生理に関する治療のガイドラインはなく、
診察での選手の声を蓄積しながら、競技に合った治療法を模索。
ですが、低容量ピルを勧めても、指導者が「太るから」とNGを出し、治療が進まずもどかしさを覚えました。
納得できる化学的な情報を伝えることが必要だと考え、検診に訪れた選手が記入するメディカルチェックシートに、
生理に関する項目を作成。
チェックが入った選手をすぐさま別室に呼び、個別に生理やピルに関する知識を地道に伝えました。
また、『女性アスリート健康支援委員会』を設立し、4年かけて46都道府県を回って産婦人科医向け講習会も開催。
『ピルはドーピングではない』などの情報を発信しました。
5年の任期を経て2017年に東京大学医学部附属病院に移り、国立大学初の女性アスリート外来を設立しました。
今春から国立スポーツ科学センターに戻って、今まで手つかずだった部活動に励む学生や指導者への情報発信に力を入れ、
日本人や競技特性にマッチした治療法などのデータを蓄積しています。
大胆な行動力と地道な活動で道を切り開いてきた能瀬さんは
「何年も先の予定は立てない」といいます。
研修医2年目のときにくも膜下出血で倒れ、2011年には父親も脳出血で倒れた経験から、
「明日は生きているかわからない」が教訓だからです。
「今やれることはやっておきたい。それが私が行動する理由です」
本誌では能瀬さんが愛用しているアイテムやこれまでの活躍なども紹介されています。
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