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誰にでも大切に持ち続けている一冊があります。
それはセーフティネットのようであり、疲れた心を鼓舞するものでもあります。
ときには数秒で情報を得られるスマホを置いて、ただ読むことにひたってみましょう。
人気作家の心を掴んだ読書体験、指揮者たちの選書リスト、
個性的な書店の棚から、心に留まったタイトルを選んでみてください。
進化する最新『夢見小説』に注目!
二見文庫がアツい

作家、柚木麻子さんは1981年、東京生まれ。
2008年、短編『フォーゲットミー、ノット ブルー』で第88回オール謮物新人賞受賞。
2015年、『ナイルパーチの女子会』で第28回山本周五郎賞受賞。
最新作『オール・ノット』も話題となっています。
書評時「今すぐ」「絶対」「読むべき」
という表現を使うのは避けるように
出産したばかりの頃、積ん読がたまっていくのが怖くて仕方がなかった。
書店にいく暇さえなくても、各版元から献本が届く。
評価が高い話題の新刊ばかりで、今なら非常にありがたい。
でも、乳腺炎と不眠と慣れない育児で頭がぼんやりしてすぐに読めないとなると、
家事や仕事と同じ箱に入ってしまう。
こうしている間にも、次々に新しい価値観の本が出版され、『ドラえもん』の宇宙に捨てられた栗まんじゅうのように読むべき本が増え続け、私はどんどん古い人間になっていく。
焦りでおかしくなっていた時期を経たため、
「今すぐ」「絶対」「読むべき」という表現の書評のときに使うのは避けるようになった。
みんな生活が大事でお金も時間も使い方もそれぞれだ。
文化人が早く読め、早く観ろとせきたてるせいで、
取り残されたように感じても、その人の価値は1ミリも変わらない。
最近即買うのは、二見書房から出ている海外翻訳の文庫
前置きが長くなったが、そんな私がここ最近、自ら進んで目についたら即買っているのが、
二見書房から出ている海外翻訳の文庫である。
文庫といっても、新刊なのに千円以上するのが特徴だ。
欧米圏でここ数年のうちベストセラーになった、女性が主人公のミステリーやラブコメディが中心で、
あとがきを読むと豪華キャストによる映像化が決定していることが多い。
1990年代後半~2000年代前半は、こうした本がまず単行本として、
本国とそこまで変わらないペースで刊行され、カラフルな装丁が書店の平台を埋め尽くしていた。
大手版元はもちろんのこと、ヴィレッジブックスのような独自のレーベルも立ち上がっていた。
私はそういった本を片っ端から読んだ。
『ブリジット・ジョーンズの日記』も『プラダを着た悪魔』も、まず原作を単行本で読み、
かなり時間が経ってからハリウッドの実写化のニュースを見て、
それからまた時を経て、劇場に足を運んだ人間だ。
ちなみに『キューティ・ブロンド』も『クリスティーナの好きなコト』も
『お買いもの中毒な私!』(小説は『レベッカのお買い物日記』)も、映画より早く紙で読んでいる。
SNSの情報よりギリギリ紙のほうが早かった時代の最後かもしれない。
『夢見小説』という表現が一番ぴったり
女性の書き手による、ヒロインが恋に仕事に大忙しのこのジャンルは
『中間小説』とか『チック・リット』と振り分けられるようだが、
その名称は、ちょっとだけバカにしている雰囲気が漂っているから、好きではない。
田辺聖子さんが自身の作品を指した『夢見小説』という表現が私には一番ぴったりくる。
主人公の成長以外もないがしろにしないのが夢見小説の良さだ。
登場人物たちが生きることそのものを楽しむようなコージーな雰囲気に満ちている。
美味しそうな食事があり、可愛いインテリアがあり、
まだ日本に上陸していないブランドやカルチャーの固有名詞がちりばめられ、
読者が知っている大前提での古典からの引用、
そして女性が居心地の良い最高の環境をつかみとることへの肯定にあふれている。
二十代の私はそんな豊かさが好きだった。
かたっぱしから夢を食い漁って、みずからの養分にしてきた。
二見文庫新刊をこうして目の前に並べているだけでも、記憶がどんどん蘇るくらいだから、
けっこうな間、『夢見』から遠ざかっていたことがよくわかる。
本誌では、柚木麻子さんによる『夢見小説』の紹介記事他、
作家の方たちが大切にする書籍を紹介しています。
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