《復興の書店》石川県珠洲市・いろは書店 「書店はそこにあるだけで何かの役割を果たす」

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能登半島地震から1年、阪神・淡路大震災から30年が経ちます。

多くの犠牲者を出し、自宅も崩壊、食料品にも事欠く状況で、『本』は必要とされるのでしょうか。

 

そんな葛藤と向き合った2つの書店の物語を、週刊ポストでは、著書『復興の書店』からノンフィクションライター・稲泉連氏が語ります。

 

石川県珠洲市『いろは書店』
「書店はそこにあるだけで何かの役割を果たす」

 

 

被災の翌日から書店の再開を考えた

 

能登半島の先端に位置する珠洲市に、「いろは書店」という小さな書店があります。

店主の八木久さんと息子の淳成さんたち家族が切り盛りする『街の本屋さん』です。

 

昨年1月1日に発生した能登半島地震から1年。

地域の人たちから「いろはさん」と呼ばれて親しまれるこの店を訪れると、二人はいつものように明るい笑顔で接客していました。

 

地震で店が全壊したいろは書店が、もとはタクシーの配車場だった建物を使って仮店舗での営業を始めたのは、地震からわずか2ヶ月のことでした。

 

「最初は学校の教科書を責任持って配らなければならない、という思いだったんです」と店主の久さんはいいます。

 

中学校や高校の教材の販売は、町の書店にとっての使命だー

そんな思いがあったからです。

 

その様子を間近に見ていた淳成さんは、「父は本当にすごいと思いましたね」と振り返ります。

 

「あれだけの地震があって、自宅も潰れてしまって……。少しは休んでもよかったのに、被災した翌日から書店の再開を考えていたわけですから」

 

そして、父親の書店再開への思いをつなぎ、DIYで元配車場を「本屋」に変えたのが淳成さんでした。

 

以後、仮店舗で再開したいろは書店の存在は、珠洲市の商店街の復興のシンボルとなり、多くのメディアでも紹介されてきました。

店には人気コミック『スキップとローファー』や『暗号学園のいろは』など、珠洲市と縁のある作家が寄せたイラストやメッセージも綴られています。

 

親子が一緒に遊べる場所に

 

1月4日、雪の降る寒さのなか、書店にはひっきりなしにお客が訪れていました。

「マンガを買ってあげようと思って」と孫を連れてきた常連の女性、お正月の帰省で珠洲市に来た人……。

お目当てのコミックを手にして、中学生の女の子が嬉しそうにしています。

そのたびに誰もが久さんや淳成さんとちょっとした会話を交わし、店内は常に賑やかでした。

 

久さん「去年はどうなるか不安でしたが、本屋をやってよかったと思います。書店は町の『花』のようなもの。そこにあるだけで、何かの役割を果たしていると思うんです」

 

今年、いろは書店には大きな目標があります。

それは夏を目処に新しい店舗をもとの土地に建てることです。

仮店舗のDIYを担当した淳成さんが意気込みます。

 

「カフェスペースを増やして、子供たちが遊べるキッズスペースも作ろうと思っています。滑り台やブランコ、ハンモックなんかを置いたりしてね。いま、この町には親子が一緒に遊べる場所がないので、それができる場所を作りたいんですよ」

 

震災から1年、新しい店舗への構想を、淳成さんは熱く語りました。

 

この町で長く書店を続けてきた父親の久さんは、「こころのオアシス」という言葉をいろは書店のキャッチフレーズにしてきました。

その思いは淳成さんにも受け継がれ、町の人々が集う場所としての書店づくりがこれからも続いていきます。

 


 

本誌では、兵庫県神戸市のジュンク堂書店の記事も掲載されています。

 

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