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鮨は美しい。
その一言に凝縮された、今号のあまから手帖は鮨特集。
鮨には食べる者を幸せにする力があります。
今回は淡路島の『藤森』の記事をピックアップ。
藤森/淡路島
文:船井香緒里
つけ場を囲むよう設えた劇場型カウンターに腰を据える。
目に飛び込むのは、どこまでも続く大海原を切り取ったかのような土壁。
淡路島出身の名左官職人・久住有生さんの作品だ。
淡路島・東浦ICを降り南下すること15分。
曲がりくねった急な山道を進んだその先、大阪湾を臨む高台に『藤森』という別天地がある。
藤森康博さん・のり子さん夫妻の存在を知る鮨好きもいるだろう。
西麻布『すし 藤森』を約16年営み、主人による江戸前の仕事と、
日本料理『かんだ』で煮方を務めた女将による季節の品々が、食べ込んだ客を魅了し続けてきた。
順風満帆な二人が、淡路島へ移転!?とざわついたのは今年2月のこと。
“どうしてそんな遠くに行くの?”って涙する常連もいたそうだが藤森さん、なぜ淡路島へ?
「地方移住願望は一切なかったんですけど。由良など産地との付き合いは前からあったし、女将の地元は鳴門でね。島に遊びに来るたびに“気がいい場所”だなって引き寄せられた感じです」
移転するなら大胆に動きたい。
神奈川出身、江戸前仕事が染み付いた主人は、50歳を目前に大きく舵を切った。
所変われど、変えないことがある。
それはにぎりと逸品料理が1~2品ずつ交互に出てくる、夫婦のタッグが奏でるおまかせのカタチ。
「つまみが続くと、ついお酒が進むでしょ。にぎりが始まる頃には、お客さんは酔ってる……なんてことが主人は寂しかったみたいで」
と微笑むのり子さん。
決まって最初は、鮨一貫を出すのが『藤森』の流儀。
中トロの澄んだ脂と、赤酢を仄かに利かせた温シャリのまるい酸味が交われば、
口の中がスッと引き締まる。
続くカワハギの肝和えなど地物のつまみに杯が進み、
近くの仮屋漁港で挙がったボウゼ(エボ鯛)のにぎりは、
酢橘の搾り汁と米酢で〆た身の、繊細な旨みが花開く。
お次は金目鯛と松茸の煮物椀が登場。
その割烹然とした凛々しさに瞠目するが
「あくまでも鮨屋の一品。心がけているのは“勝ちすぎない味”です」とのり子さん。
利尻昆布と本枯節のだしの澄んだ旨みと深まる秋の香りが、じんわり身体に広がった。
続く二尾重ねの車海老も、西麻布の時代から変わらない一貫。
「独立したての頃、家内の師匠である『かんだ』の親父に“小さい海老は甘みが強いのに、なぜ鮨屋はにぎりにしない?”と言われてね」
湯がきたてを一呼吸置いた頃合いゆえ甘みは一層強く、二尾を重ねることでシャリと見事な均衡を保つ。
これぞ名作!
「小さい車海老は、関西では入手が難しくて。神戸の市場の魚屋が頑張ってくれています」と藤森さんの頬が緩んだ。
一方で、この地へ移り江戸前と“淡路前”の壁に直面した。
たとえば南あわじ・灘揚がりのサヨリは鮮度がよく肉厚で、1週間寝かせても張りが良すぎて握れない。
豊洲のネタではありえなかったことだ。
何より関西は白身文化であり、島の内湾と外湾では、同じ魚種でも良質が違うため、
寝かす温度や日数など、セオリーを捨てて実践した。
シャリも同様に、「なるべく地の食材を」と秋田産から南あわじ産・華越前の古米に変えたが
「関西のコメは甘みが強く、シャリが勝ちすぎる」と酢加減も見直すことに。
ヨコ井(横井醸造)の赤酢と米須2種をブレンドし、米須をやや多めにして淡路の藻塩を少々。
赤須の酸が立ちすぎない味にシフトした。
店名から「鮨」を外したのも、淡路ビーフなど、質の高い地物に出合っ他ら取り入れたいという思いから。
「固定概念は捨てる。大変ですけど楽しいですよ」
いつだって藤森さんはしなやかだ。
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