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北京2022オリンピックの大逆転劇で、悲願の金メダルを獲得した平野歩夢さん。
その興奮が冷めやらぬ2022年3月某日、GQ JAPANにて
世界の頂点となり夢を叶えた23歳は、現在と未来について穏やかに語っています。
孤高の境地を目指すスノーボーダー

文・増田晶文
春一番の名残なのか、潮の香りを含んだ風が強い。
平野歩夢の肩にかかるドレッドヘアが揺れ、コートの裾もひるがえる。
撮影は東京ベイエリアの倉庫街で行われた。
堤防のむこうにスカイツリー、その上には早春らしい淡青の晴天がひろがっている。
薄絹のショールを投げかけたような雲の前をカモメが1羽、横切っていった。
カメラを向けられた平野は笑顔を浮かべた。
照れ笑いや作り笑いでもなく、苦笑いでもない。
ごくナチュラルで気負いのない笑いだった。
「こんな景色の中にオレがいるなんて不思議な感じです。スノボから離れたらすごくリラックスできる」
平野は独りごつと、髪をかきあげまた屈託なく笑った。
平野歩夢に逢うのは4年ぶりだ。
前回は、あと数日で彼が20歳になるという冬の日、本誌増刊号『ミレニアルズ・カタログ』の取材だった。
このインタビュー中、平野はたしかに笑みを浮かべている。
しかし、それはどこか翳りをおびていた。
彼の年齢、冬の人気スポーツ、2大会連続でオリンピック銀メダル……平野をめぐるあれこれからすれば、
華やかで朗らか、場合によってはハメを外した笑いがあって当然だったのに。
当時19歳だったトップアスリートは静謐を貫き、低い声で穏やかにこう語った。
「このところ、独りで考える時間がすごく増えました。意識的に日に2、3時間はそのために割くようにしています。頭のなかで、明日のこと、いや、もっともっと先のことをイメージしていくんです」
彼の態度に驕りや高慢は微塵も感じられない。
平野の佇まいには、武芸者や求道者もかくあるだろうというストイックさが漂います。
「独りになって真剣に考えていると、誰もやっていない技がひらめきます。以前はそこで終わっていたんですが、今は新技を実現させる練習方法、成功への最短距離など深いところまで掘り下げるようにしています」
もう『何のために』『誰のために』『どうして』などと質問する必要はなかった。
平野は2022年北京冬季オリンピックのことを見据え、深い思索に沈潜していたのだ。
彼は平昌オリンピックでの2位を総括した。
「やっぱり悔しかった。15歳で初めてのオリンピックだったソチでの銀メダルとはまったく意味が違います」
ソチでは「あれっ、メダルを獲れちゃった」と驚き、その結果を喜んだ。
しかし、平昌では一時トップに立ちながらも逆転負けしてしまった。
「僕が独りで考える時間を大事にするようになったのは、平昌での事実を受け入れつつ、それを次にどう発展させるかを探るためです。ショーン・ホワイトに敗れたという現実が残るだけじゃつまらない」
こういって、いったん息を継いでから、彼は悲壮な決意を語った。
「北京オリンピックまでに、どれだけ苦しみを重ねれば、金メダルという愉しみを手に入れられるか。心技体すべてが100点満点どころか120点の状態でないと優勝はできないと思っています」
小柄な19歳のスノーボーダーは孤高な境地を目指していた。
その姿が、私には雄々しく気高くみえてならなかった。
本誌では23歳になった平野さんへのインタビューをお読みいただけます。
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