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今号のあまから手帖では、奈良に行きたくなる『奈良特集』を掲載。
今回は様々な奈良を紹介する記事の中から、奈良県の法隆寺西にある手打ちそば『旅木』を紹介します。
お昼3時間だけ開く手打ちそば店『旅木』

斑鳩の地で昼3時間だけ開く店。
手打ち蕎麦とそばがき、ときどきプリンがあります。
ネット上には、ほとんど情報がありません。
他人の評価に頼りがちな現代において、手さぐりで謎めいた店ののれんをくぐります。
清廉な店内で清廉な蕎麦が迎えてくれました。

「旅木」には「ない」ものが多い。
最寄駅がない。
営業は昼のみで、夜の部がない。
開店当初は営業日が四日しかありませんでしたが、今は週休二日に。
酒類の置き場がないので、酒なし、当然肴もありません。
そもそも品書きが少ない。
SNSの発信はなし。
店内撮影はお断りしています。
ということは、SNSに『旅木』が浮上することはほぼありません。
「もうちょっとお客様が来てくれるといいんだけど。一日二桁はいきたいかな」
店の主・松島誠司さんがぼやきます。
開業から5年。
今の時代にどうやって集客するか、その桁はわかっています。
それでも店のあり方を変えるつもりはないそう。
『旅木』の屋号には「農と陶と手打ちそば」のキャッチがつきます。
つまりは「畑、器、蕎麦」が誠司さんと妻の由香さんの生業で、『旅木』はその三つを味わう場です。
畑仕事には養蜂と鶏も含まれ、自分たちで消費するもの以外の収穫物は、瓶詰として販売。
その製造加工は由香さんの担当です。
器は誠司さん。
20代からの趣味で、家族が使うための作陶のはずが、展示販売をするまでに。
現在は店で使う什器をあつらえ、同業者からの注文もときどき入るそう。
誠司さん曰く、「休みが二日ないと、畑と器がしんどくなる」とのことで、
結果、店を開けるのは昼3時間だけの週5日となりました。
営業日の14時。
店を閉めた誠司さんは自転車で畑に向かいます。
法隆寺、法起寺、法輪寺を結ぶこの界隈は、専業農家の果樹園が広がります。
その一方で、耕作放棄地も目立ちます。
畑は誠司さんの父の余暇活動のひとつで、父亡き後、引き継ぎました。
そのうちに畑の後継者不足に悩む人々からの依頼で畑は拡張。
20数年前、ニホンミツバチを育て始めた誠司さんは、ハチが蜜を集めやすいように花木を植えることにしました。
梅、桜、アカシカ、桂、柑橘類、ベリー類、栗……
80本におよぶ木々が、風を受けてそよぎます。
「少しでも自分の暮らす町の景観がよくなれば。それが目的になると続けるのがつらいし、ひとりではどうにもならんけど」
畑について着いてまず世話をするのは、鶏。
ケージから飛び出した鶏たちは、野山を駆け巡ります。
えさは『旅木』から出た野菜くずなど。
「店を始めるにあたって、ごみを出したくなかったんです。一度、鶏の腹をくぐらせてから、土に還せたら」
との思いがありきの養鶏なので、4羽で十分。
副産物の卵は由香さんの手でプリンにかわり、数少ない品書きを彩っています。
別の畑では野菜や「そばがき」用の蕎麦の実を栽培中。
日が暮れれば家に戻り、1日を終えます。
畑でやるべきことは、自然の摂理に従うのみで、その導きで一年が過ぎていきます。
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