――創刊6年目ですね。創刊当初と何か変わってきていることはありますか。
「サファリ」は創刊時は外部プロダクションで作っていました。ですからいまのスタイルとはかなり違いました。最初は特集主義で車や酒などにフォーカスした企画をやっていたんですよ。
「ペン」や「ブルータス」にちょっと近かったと思います。
でも特集主義でやると毎回部数に増減が見られるので、1年たったときに私が編集長に就任し、変更しました。編集も内部で行うようにしたんです。
ただ絶対に変えないのは「海」というコンセプト。「いくつになっても海が大好きな大人」をターゲットにしたライフスタイル誌というスタンスですね。
――海が大好きな大人といってもさまざまですよね。

編集部には自転車も
はい。単に海好きといっただけでは、釣り好きの人もいれば子供と海で潮干狩りするのが好きという人もいます。クルーザーやヨットが好きな人もいます。サーファーもいます。ですからこれをもう少し絞って考えました。
年齢は40歳前後、アラフォーですね。その年代で、カリフォルニアのマリブに代表されるようなLAのライフスタイルに憧れを抱いているような人たち、と定義したんです。
海が近くにあって、子供の頃からサーフィンをしていて、パーティが日常的に行われていて、ハリウッドも近いのでいわゆるセレブの友人もたくさんいて・・・みたいな環境から生み出されるカルチャーですね。そんなスタイルに憧れる人が結構いるんじゃないかと。そこにフォーカスしてみました。
ですから、記事も日本系のものはあえてやってないんです。LAの新しい店の紹介などでも、たとえいくら美味しくても日本料理店は外したりします。このへんは徹底していますね。
――競合する雑誌はあるのですか。
あえて挙げれば「レオン」「ウオモ」「オーシャンズ」といったところでしょうか。でも競合するというより各誌ちゃんと棲み分けされていると思います。
うちはサーフィンの記事があるからか、サーフィン誌と見られることもありますが、そういう立ち位置ではないですね。生活環境のなかで海が近くにあって、そこでのレジャースポーツとして自然にサーフィンがある、といった位置付けなんです。
また「サファリ」といったタイトルから、アフリカをイメージした冒険雑誌と勘違いされることもありますが、これは60~70年代のサーファーが好んで使った言葉からとっているんです。
当時「未知なる波を探し求める旅」という意味で“Surfin’Safari”という言葉が流行ったんですよ。そこから、新しい世界を読者の皆さんとともに探しに出かけたい、といった意味を込めました。
――アイテムとしてデニムが必ず出てきます。

撮影するアイテムを保管する部屋も併設
カジュアルウェアの代表といえば何と言ってもデニムですよね。特にうちのようにLAのライフスタイルを扱う場合は絶対欠かせません。
いわゆるセレブも、デニムにTシャツというスタイルが基本で、それにジャケットを羽織るというスタイルが中心です。
でも、そんなスタイルでも高い時計をしていたり、家がとてつもなく大きかったりするのがLAのアッパークラスの人々です。カリフォルニアのビーチ沿いに住むそんな人々にフォーカスしていて、そのライフスタイルを提案しています。
なので、トレンドファッションを扱う雑誌ではありませんから、モード的なアプローチはないです。
――リッチライフということになると「レオン」などとの共通点も感じますが。
そう思う方もいるかもしれません。ただ「レオン」のイメージはイタリアオヤジですよね。凝ったオシャレをして、パーティに出かけて、シガーなどをたしなむといったイメージ。
それに対してうちは同じお金持ちでもカリフォルニアのイージーゴーイングな雰囲気ということなんでしょうね。
トレンド最先端というより、昔から続いているものに少しだけトレンドを加えていく。ヴィンテージなども取り入れる。また、チャリティやオーガニックなどもしっかり扱っています。
雑誌のコンテンツとしてもそのほうが豊かだし、広告的にもいいんです。読者が憧れる部分をうまくすくい取れることが大切だと思います。
――男性誌が苦戦するなか、部数も広告も順調に伸びていますね。

壁にはバックナンバーがぎっしり貼られている

うずたかく積まれた資料の山
お蔭様でここ半年でも実売部数は前年比で130%以上をキープしています。広告収入は150%増です。男性誌が減ってきているからうちに出稿してもらえるといったラッキーな側面もあると思いますが(笑)。
でも、やはりターゲットを明確にしてブレなければ読者の共感は得られます。マス媒体でもないわけですからね。
雑誌というのはやはりその世界観に共鳴してくれる人たちによって支えられていくものだと思うんです。その枠組みのなかで我々としてはいかに読者が満足してくれるかということに力を注ぐんです。
――榊原編集長自身はどんなライフスタイルなんですか。サーフィンはされてますか。
サーフィンしてますよ(笑)。LAセレブのようなリッチライフではもちろんありませんが(笑)。
台風がくると頑張って早起きして出社前に海に入ったりもします。僕は茅ヶ崎に住んでいるので、すぐそばに海があるんです。
でもたいていの日はちゃんと10時に出社して仕事しています。僕は広告部に自分のスケジュールをほぼ渡しているんですよ。だから平日の昼間は広告スポンサー回りが多いですね。夜は酒席が週2,3回かなあ。
その間で会議をやったり、入稿、校了をやったりと。ですから、基本的に平日はほとんど海には行けてないですね。
実は、茅ヶ崎在住ではありますが、僕は子供の頃からサーフィンをしていたというわけではないんです。
この会社に入って、「ファイン」編集部に入ったときに皆に勧められて始めたんです。ボードやウエットスーツをもらったりして。でもやってみると結構はまりました。それが今の仕事に活かされているので、まあよかったと思っています。
――雑誌づくりで気をつけておられることは何ですか。

編集部のみなさんが笑顔でむかえてくれた

カリスマ・サーファー、ジェリー・ロペスのサイン
読者の共鳴、共感をどうしたら得ることができるか、これに尽きますね。編集部には僕以外に7人のスタッフがいますが、このことはしっかり頭に入れろと言ってます。
特に若い部員には「誰に向けて何を言いたいのかはっきりしろ」ということを言います。
でも、企画を考えてそれが当たったときの喜びは何物にも変えがたいものがあります。うちの場合は結果がはっきり見えるというか、要はその記事によって商品の売れ行きに直結するケースが多いんです。
ですから、取り上げた記事で商品が動き、問い合わせや注文が増えれば、これははっきり読者の要求している情報が出せたという証拠になりますよね。そのときは「やった!」という気持ちです。
LAでもこの「サファリ」は、特にレジェンドサーファーには知られつつあるんです。インタビュー時に、その雑誌知ってるよという人が多くなりました。うれしいですね。
――今後やりたい企画などありますか。
さっきも少し話しましたが、「サファリ」の裏テーマとして「未知なる波を探し求める旅」というものがあるんですね。
ですから今後は「旅」の要素をもっと入れていこうと思っています。ビーチリゾート、高級リゾートが中心にはなりますが、ここに力を入れていきたいです。年に1度は旅特集で世界中の高級リゾートをしっかり紹介していますが、それ以外にもラグジュアリーなサーフトリップを紹介したいです。
それと9月から通販サイトをはじめました。実験的に11月号(9月22日売り)から別冊綴じ込み形式の誌面で紹介した商品を買えるようにしています。これは来春から本格稼動させるつもりです。掲載商品とのコラボは積極的にやっていきたいです。
でも実はちょっと前から「ファインボーイズ」編集長も兼務することになりましたので、海に行く時間も少なくなってきて・・・(笑)。
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1.グライド(マリン企画)
サーフィンというフィールドで大人をターゲットにした切り口で、通常の専門誌にはない斬新なアプローチが好きです。
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2.AERA English(朝日新聞出版)
忘れかけてる英語の勉強になります。セレブ記事の邦訳とかに秀逸なものが多いです。
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3.CREA TRAVELLER(文藝春秋)
旅の突っ込んだ企画が素晴らしい。風景やホテルの写真の撮り方なども参考になります。
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4.Tarzan(マガジンハウス)
運動のメカニズムを科学的に分かりやすく説明してくれて重宝してます。
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5.ザ・サーファーズ・ジャーナル(ザ・サーファーズ・ジャーナル社)
海外に行くと必ず買ってます。現地の情報、写真など、いろいろ勉強になります。
(2009年8月)