―井川遥さんがずっと表紙を飾っておられます。

名だたる雑誌の並ぶ光文社
はい、もう3年半お願いしています。「VERY」の読者の方々って、結婚して出産してから読み始めたという人が結構多いんですが、そんな読者たちにとって、小さなお子さんを抱えて活躍する井川さんは半歩先の憧れの対象なんです。結婚してからますます美しく充実してるね、と言われる彼女はなんといっても目標になる。30代の主婦で、子供が0歳~小学校低学年というのが「VERY」のコアな読者像ですが、いまは子供を育てる年代の幅が広がりました。ですから20代でも40代でも、小さな子供を育てていらっしゃる方々にはよく読まれています。
―「VERY」といえばシロガネーゼといった流行語を生んだように「ブランド」イメージが強いのですが、近ごろはいわゆる「ブランド」志向ではないような気がします。
読者の多くが都市型で、高学歴、優等生的気質であることには変わりはないと思います。
でも、彼女たちは一昔前のように、何が何でもブランド品を持たねばといった人たちではないですね。むしろ横並びでない選択ができることに価値を置く人たちなので、自分の表現でファッションの一部に上手にブランドを取り込んだりはしています。創刊16年目に入っていますが、私以前の編集長は全員男性でした。そのことも以前の「VERY」とはちょっと違う感じになっている理由なのかもしれませんね。
―社会派ネタといえばオーバーかもしれませんが、しっかりした読み物もあります。

「VERY」から生まれた本
結婚して、さて新たな人生をスタートさせる、といった人のマインドって、社会ともつながっていたいし、子供も育てたいんですね。また子供を育てながら生きていく覚悟について気づく世代でもあります。問題に直面したときどう乗り越えていくか。その部分を応援したいんです。「幸せママの雑誌」とも言われています。
ときに周囲に弱音が吐けなかったり、自分自身で抱え込んでしまう世代でもあると思うので、誰だっていろいろあるよ、とか、次のアクションにはこんなことだってあるじゃん、とか言ってあげられる雑誌でいたいです。ですから、そんな記事もしっかり押さえていこうと思っています。
―桐野夏生さんが連載されているのが少し驚きでした。

キーワードは忘れないように壁に貼られている
綺麗な顔してドロドロしているような世界(笑)。でもこれ女性だったらすごく共感するテーマだと思います。すごい反響です。もちろん会社として桐野さんの本を出版したいという思いはありましたが、編集部としてもわれわれの思いを桐野さんにしっかり説明させていただきました。ご理解いただいて作品に反映していただいていると思っています。
―そんなある種のギャップのある表現が「VERY」のひとつの魅力なのかもしれませんね。
はい。たとえばセックスレスというテーマはどこでもよく扱われます。私たちはそんなテーマでも「仲良しなのにセックスレス」というふうに、同世代の共感を得られるような言葉を添えるようにしています。感度の高い方が多いので、おしつけがましいことはダメです。
逆にちょっと大人のおふざけのようなウィットにとんだものは受けがいいです。「母さん、夏の終わりにヒョウになる」といった特集タイトルをつけたときは、非常に受けました。秋にヒョウ柄のファッションに着替えるということなんですが、そういったひねり方が響くようです。
ネガティブなことはあまりやらないで、背中押されて元気もらいました~みたいなことをやっていきたいです。
―近ごろはとくにナチュラルな企画も多いです。

編集長デスクから見た編集部の風景
オーガニックとかエコとかには関心高いですね。でもあんまりストイックな感じのエコとかはやりません。やはり都市型でナチュラル志向なものを積極的に紹介しています。そういうライフスタイルがお洒落ですし、共感を呼びます。
「ハンサムウーマンを応援します」「基盤のある女性は、強く、優しく、美しい」といった言葉を「VERY」のコピーにしています。
―モデルさんの生き方に共鳴する人とかも多いですね。
ええ。堂珍(敦子)さんなんかこれだけ綺麗で素敵な方が4人の子持ちに見えないですよね(笑)。そんなモデルさんの生活写真を見せるだけで、読者の皆さんは励まされる。4人の子供をしっかり育てながら、ちゃんと家事も自分磨きもできるじゃない。なんかそんな前向きな生き方が素敵だなと思うんです。
読者モデルの方も同じです。私たちは街でときどき声をかけるんです。うちの読者モデルになりませんかって。
読者のナマの声を聞きたいということもありますし、なにより私が朝から晩まで仕事ずくしで「VERY」的な生活ができてない場合もありますので(笑)。
―今尾さんはどんな生活サイクルなんですか。

入校真っ只中の編集部は忙しそうだ
会社に出てくるのは昼過ぎか夕方が多いです。それまでは取材があったり、展示会をまわったり、結構外でやらねばならないことが多いです。ひとりで出来る仕事は週末に回したりすることもあります。毎日やりがいがあるというか、発見があるし、伝えなきゃと思えることがあるし、充実させてもらっています。オフといえば、夫の世話をしているときでしょうか(笑)。なんかそれが別世界の出来事のように感じるんです。
―最初から「VERY」の編集者だったのですか。
いえ、私、「CLASSY」でフリーライターをしていたのがきっかけで光文社に中途採用され、「VERY」、「STORY」などを経験しました。編集長は3年前からです。
―編集部は何人体制ですか。
私を入れて8人の編集者がいます。副編集長、デスクもいますが、いまは直に私と担当とで企画を進めています。それに外部の人たちが加わって、少ない人数ながらも、ものすごく強いチームです。
―webサイトも広告も充実しています。

ママチャリ・プロジェクトついに完成
webサイトは編集部主導でつくっています。デザインは外注ですが、そのほうが機動力がある。でも編集者には、まず本誌に注力するように言っています。webは本誌とはまったく違う役割ですから。最近増えているのは、本誌とwebとがワンセットになった広告タイアップなどがありますね。広告もお蔭様で順調に入っています。この雑誌はレスポンスが高いので、クライアントの皆様にはいい評価をいただいています。
新たな企画のひとつでは、「VERY」ブランドの自転車をつくろうということになって、ブリヂストンさんとコラボして今度「HYDEE.B」という名前の自転車を出します。
単なるママチャリではなく、幼稚園にパパが子供を連れて行くときだってかっこよく乗れるお洒落なママチャリ(笑)。「VERY」読者にはぴったりの自転車ですので、ぜひ一度試乗してみてください。
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1.Hanako(マガジンハウス)
単純に写真が綺麗だし、昔から好きです。街のイマが知れますしね。
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2.I LOVE mama(アイラブママ)(インフォレスト)
こっちはコンサバなのでタイプは違えど対抗誌です。テーマの追求度合いはすごいと思います。
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3.STORY(光文社)
「VERY」を卒業したらコレですよ~(笑)
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4.旬がまるごと(ポプラ社)
この間はレタスの種が付いてました。
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5.Domani(ドマーニ)(小学館)
熱気を感じる!
(2011年4月)
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- ゴールデンウィーク直前の忙しいときに、たぶんもっと忙しかったはずの「VERY」編集部にお邪魔して、編集長の今尾さんからお話を聞かせていただきました。
30代のハンサムウーマンのための雑誌ということで、<近ごろ五十肩が辛くてオヤジ>ではいけないと思い、ちょっと気を引き締めて臨みました。そのまま表紙のモデルに登場されても大丈夫な感じの今尾さんでしたが、忙しいことなどおくびにも出さず始終穏やかに丁寧に対応してくださり、あ、こういうのがいまの「VERY」っぽいのかなと思いました。
仕事も家事も子育てもスマートにこなしながらも、決して肩肘をはることなくがんばって、できるだけナチュラルに生きる。登場されるモデルさんのライフスタイルもきっとそんな感じなのでしょうか。女性たちがかくもしなやかに成熟している反面、30代男性はどうなんだろうと、ちょっと気になってしまいましたね。
インタビュアー:小西克博
大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。
