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寛大さと思いやりに満ち、有言実行を貫く本物の市民…
偉大な芸術家の喪失を世界が感じています。
『MINAMATAーミナマター』のアンドリュー・レビタス監督もそのひとり。
今回は彼から坂本龍一さんへの追悼の言葉を紹介します。
マエストロ坂本は私のヒーローだった
坂本龍一は、私がアーティストになってからずっとヒーローだった。
彼の創作活動の優雅な輝きだけが理由ではない。
自分が最も信じる人々や理想を情熱的に支援するために、時間とエネルギーを使うことを彼が選択していたからだ。
有名人も政治家もソーシャルメディアに投稿する市民も、
世間体のために道徳的な振る舞いをするこの世界で、
口先だけでなく本当に実行する人はごく限られていることを、私は痛感している。
『マエストロ』こそ本物の市民であり、彼は信念を持って有言実行を貫いた。
映画『MINAMATAーミナマター』の編集初期のファーストカットが仕上がると、
私はニューヨークで龍一に見てもらう機会をつくった。
プロジェクトを立ち上げたときから、物語のニュアンスを立ち上げたときから、
物語のニュアンスやそこに住む人々について、この映画が地元や世界に与える影響について、
この映画が地元や世界に与える影響について、この映画が変えることのできる政策について、深く理解して責任を果たすことができる作曲家は坂本氏しかいないと、私は心から信じていた。
過去(と現在)の患者と被害者(と彼らの家族)に敬意を表し、水俣の物語を全く知らなかった人々にも感動を与え、行動を起こさせるような形で、心の奥底まで手を伸ばして揺さぶることができる作曲家が必要だった。
彼ほど偉大なアーティストに依頼する予算はなかったが、彼に映像を見てもらうまで作曲家は決めないことにした。
同じ精神を分かち合い、作品の価値を理解してくれることを願って……。
そしてあの日、私はニューヨークのコーヒーショップで彼の反応を待ちわびていた。
窓の外を眺めていると、優雅な着こなしの龍一が通りを渡って店に入ってきた。
そのまま私に歩み寄り、何のてらいもなく私を抱き締めて、
この映画を作っていることに静かに感謝を伝えてくれた。
私は安堵と感謝と喜びで涙が込み上げ、その瞬間、パートナーを得たと確信した。
影響力のある芸術がもたらす研ぎ澄まされた切れ味をマエストロほど理解していた人はいない。
龍一は映画を見ながら音楽が聴こえてきたと言って、後に『MINAMATA』のテーマ曲となる
最初の数小節を思慮深く口ずさんだ。
私は芸術同士の共鳴と天才的創意の素晴らしい瞬間を目の当たりにしていた。
その後の寛大さと思いやりに満ちた彼とのやりとりを、私は生涯心に刻んでいく。
坂本龍一の喪失を、世界の芸術界全体だけでなく、彼が応援した世界中の人々が感じている。
しかし、いつまでも残る彼の最高の遺産は、彼の作品に出会い刺激を受けた大勢の人々が立ち上がり、
彼のように自分の才能と情熱を良い方向に使っていくことだと、私は信じている。
坂本龍一さんの追悼の記事は本誌にてご覧いただけます。
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