2016年5月号

footballista(フットボリスタ)

文/西部謙司 構成/浅野賀一

ジダン・マドリーの危ういバランス

「思った以上によくやっている」というのが西部氏のジダン評だ。誰がやっても難しいレアル・マドリーの監督業をシーズン途中から引き受け、不安視された戦術面の調整でも適切な手を打っている。しかし、それでも先行きは不透明。強力過ぎるライバルを上回るウルトラCを見せなければ、成功とは評価されないからだ。

ジダン就任で何が変わった?

――スターを並べるレアル・マドリーは監督のカラーを出しにくいチームですが、ジダン色というものはありますか?

「それぞれの選手の個性をストレートに出すことを意識していますね。攻撃時に自由を保証する代わりに、守備時はルールを課しています。基本布陣は[4-3-3]、MFの構成はアンカーにクロース、右にモドリッチ、左にイスコがファーストチョイスでしょう。

ただし、攻撃時は各選手の個性を引き出すためにモドリッチはクロースと連係して深いスタートポジション、逆にイスコはFWに近づいてトップ下のようにプレーします。そして守備になった時は右からモドリッチ、クロース、イスコが3ボランチ化してポジションを埋めています。

つまり、イスコは攻撃時には自由を与えられていますが、守備の時に戻る場所が決められているわけです。イスコがそのままトップ下として残ってもいいのですが、それだとロナウドとベイルにサイドMFとして守備のタスクを課さないとバランスが取れません。

なので、3トップは残して、イスコを下げる選択になります。イスコが戻り切るまでにはタイムロスが生じますが、クロースとモドリッチの2枚を残すことでバイタルエリアをケアしています」

――BBCのカバーで、いつも誰かに負担がかかるのが悩みどころですよね。

「レアルの守備の問題はFWから始まっています。両ウイングのロナウドとベイルが攻め残る傾向があり、しかも両SBが高い位置を取るため、常にカウンターの危機にさらされています。

MFのモドリッチ、クロース、ハメス、イスコはいずれも10番タイプで、3トップをカバーできるほどの守備力はありません。

ジダンの解決策はバルセロナやバイエルンと同じくポゼッションを高めることで守備機会を減らすことですが、大きな違いは前線プレスの完成度です。チーム全体を圧縮するメカニズム、1人で2つのパスコースを消すポジショニングなど前線プレスを機能させるための組織的な振る舞いができていません」

――前任者のベニテスはそこを改善しようとしたのかもしれませんが......。

「戦術家のベニテスはその課題に取り組んでいるようでしたが、結局のところフロントの圧力に抵抗できなかったのか、11月のバルセロナとのクラシコではスターを並べて守備を犠牲にする信じられないほど愚かな作戦で臨んで粉砕され、その後に解任されました。

後任のジダンはカリスマ性があり、精神面ではチームの立て直しに成功したように見えます。BBCをはじめ、どの選手も気分良くプレーしており、レアルを率いるために一番大事なことをきちんと押さえています。

ただし、CLを勝ち抜くためには守備を強化しなければなりません。攻撃力は十分なので、得点以上にいかに失点しないかですね」

八方ふさがりの守備対策

――では、「守れないFW問題」はどう解決するべきでしょうか?

「国内リーグなら、バルセロナやアトレティコ・マドリー以外はそれほど大きな問題にはならないかもしれませんが、CLとなると致命的になりかねません。

さすがにジダン監督もラウンド16第2レグのローマ戦では動きがありました。まず、[4-3-3]のアンカーにカセミロを起用しています。さらに3トップもロナウドを中央に、ベイルを左、ハメスを右に置きました。悪くない処置だと思います。

ロナウドは本来左サイドが好みですが、守備を考えるとベイルの方がベターです。ベンゼマが使えなかったので、CFがロナウドしかいないという事情もあったとはいえ、守備を意識した並べ方でしょう。

左サイドからスピードを生かして縦に突破して左足のシュートやクロスというパターンを持つベイルは右よりも左で使うべき選手なので、ロナウドがCFか右ウイングを受け入れた方が攻守どちらの面でもトータルでベターです。

ジダンの守備対策は当面これぐらいで、あとはポゼッションを高めるしかないですね」

――レアル・マドリーがカウンター戦術をやるという選択肢はありませんか?

「レアルというクラブでそれはあり得ません。そもそも攻撃的なタレントばかりを獲得しているのに、カウンターサッカーをやるのはチーム編成とまったく整合性が取れていません。

強い相手に対してもリトリートを繰り返して守るのは得策ではなく、いかに前線からのプレッシングを効果的に行うかが鍵になってきます。

レアルはもともと前進守備をベースにしてきたクラブですが、バルセロナに比べるとかなり曖昧で守備戦術が確立していない。1対1は強いのですが、プレッシングの効率が良くない。

もうこれはトレーニングが足りないとしかいいようがないです。組織的な連動性がないので前線プレスが機能せず、首尾良く囲い込みに成功しても敵のパスコースの出口を読んで封鎖できるブスケッツのような優れたアンカーのタレントもいません」

打倒バルセロナへの道

――じゃあ、どうしましょう?

「というわけで、ジダンにはあまり選択肢がないと思います(笑)。

その上でできることは、まずSBの上がりをある程度自重させる、そして上がった後のスペースをカバーできるカセミロをアンカーに置く、ウイングの守備意識を高める――ロナウドは無理なのでハメス、ベイルをサイドに使う、などでしょうか。

あとは中盤の運動量です。現在のレアルのプレッシングでは、どのみちリトリートを余儀なくされますから、頼みの綱は戦術の不備を根性でカバーする運動量という身も蓋もない結論になります。

もうここから平均的に頑張ってもリーガは獲れませんから、CLに専念してコンディションを完璧にするのが最善です。

個々の能力は圧倒的に高いので、彼らが本気になれば強いです。一発勝負でならバルセロナやバイエルンにも勝てる可能性はあります」

――具体的には、どういったゲームプランで臨むべきでしょうか?

「ジダン体制で注目すべきはクロスボールの増加です。『BBCがエリア内にそろっていればクロス』という意識がチーム内で統一されているので、サイドを駆け上がったSBの選択肢がクリアになったように見えます。

しかも単純な放り込みではなく、ペナルティエリアに近づいて精度の高いボールを入れている。この3トップは空中戦がかなり強いので、それであっさり決まります。ジダンのレアルは攻撃の形がきちんとあって、タレント力を生かした攻めは非常に強力なんです。

だから、頭から飛ばして行って先制攻撃で60分までにリードを奪い、疲労した選手を交代して逃げ切る。あとはアンチェロッティ方式の可変式[4-4-2]を採用して、一部カウンター戦術を取り入れる。

このレベルの試合ではさすがに1枚は守れる選手が必要なのでカセミロをマケレレ役にして、あとはスターも誰かが適宜に献身的に守る。いつも献身的は無理なので、適宜にやればいい。

そのバランスをデル・ボスケやアンチェロッティのように見張る。普通のチームの監督の仕事とはちょっと違うバランス感覚が必要ですが、逆に言えば監督経験がないジダンには案外向いているかもしれませんね」

◆やっぱりBBCを軸にした[4-3-3]
アンチェロッティ路線への回帰カンテラ組の台頭が注目ポイント

ベイルをトップ下に配置した[4-2-3-1]を採用するなどベニテス体制では迷走した前線の組み合わせだが、ジダン就任後は右からベイル、ベンゼマ、ロナウドが並ぶアンチェロッティ時代の[4-3-3]で落ち着いた。

不調のハメスは、現在ウイングの3番手という扱い。反対に、ここにきて評価を上げているのがCLローマ戦で独走ゴールを決めたウイングのヘセを筆頭としたカンテラ組で、同じくウイングのルーカス・バスケスやCFのマジョライが先発のチャンスを得ている。

中盤はモドリッチ、イスコ、クロースのテクニシャン3枚の同時起用から、アンカーに守備の防波堤としてカセミロを置く形に移行しつつある。クロアチアの新星コバチッチはインサイドMFの4番手という位置づけだ。

ケガやターンオーバーの影響もあり、DFラインの人選は流動的。右SBはカルバハルとダニーロが交互に出場を続け、左SBはマルセロが鉄板だが、負傷した際はダニーロやナチョ、アルベロア(左右SBのバックアッパー)が穴を埋める。

レギュラー級3枚を抱えるCBはセルヒオ・ラモスとペペ、あるいはバランがコンビを組む。ナチョは本職のCBでは4番手だ。GKは驚異的なPK阻止率を誇るケイラー・ナバスが君臨し、カシージャが第2GKを務める。

攻撃時にはトップ下のポジションを与えられているイスコに象徴されるように、ジダンは選手の特長を引き出そうとしている。その代わり、守備時は決められた約束事を守るというシンプルなルールでスター軍団を統率している

◆実はやり手?ジダン監督の戦術的工夫

▲ポイント1:クロスの距離を近づける

ジダン監督になってからのRマドリーは、比較的シンプルにハイクロスを入れている。CFのベンゼマはもちろん、ウイングのロナウドとベイルがゴール前に入ると強力なターゲットマンとして機能するからだが、クロスを上げるポイントをペナルティエリアに近づける工夫をしている。

距離が縮まれば、それだけクロスの精度を上げられるからだ。バイエルンも行っている方法で、技術と高さの融合とも言える攻撃パターンだ。

放り込みではなく、技術を生かしたピンポイントクロス
Step1 サイドでボールを受けたマルセロが中央に向かってドリブル。ペナルティエリア近くから左足で狙い澄ましたクロスを入れる。

Step2 ゴール前に高さとパワーを兼ね備えたBBCが陣取り、DFとの競り合いを制してフィニッシュに持ち込む。

▲ポイント2:イスコに与えられた自由と義務

攻撃は個々の特長を発揮できるように多くの選手に自由を与えており、10番タイプのイスコはトップ下に近い場所でプレーする。ただし、守備は最低限の役割を決めており、イスコは[4-3-3]の左MFの位置まで戻る。

手順としては、モドリッチとクロースが中央でブロックを作り敵のカウンターを遅らせ、その間にイスコが長い距離を帰陣する。選手を規律で縛るのではなく、自由にするための義務を課すのがジダン流だ。

攻撃時はトップ下、守備時は左インサイドMF
Step1 攻撃時はイスコがトップ下、モドリッチが深めに位置し、守備に切り替わったら、まず2ボランチ化して時間を稼ぐ。

Step2 その間にイスコがトップ下の位置から3ボランチの左にまで戻って来てスペースを埋める。

◆キャラまるかぶりの不思議な名コンビスターとスターが共存する条件

「ヒールキックだけでやってみようか?」

もう優勝が決まった後の試合で、ディ・ステファノとプスカシュが相談して、わりとその通りにやったという話を聞いたことがある。アルフレッド・ディ・ステファノはレアル・マドリーのクラブ史上最大のスターだ。

フェレンツ・プスカシュは50年代のスーパースター、レアルに入ったのはベテランになってからだったが、現在で言えばメッシとロナウドの競演みたいなものだ。

サッカー史に残る比類なきタンデム

ともにゲームを作り、ゴールを決めるタイプ。キャラがまるかぶりしているスターを獲得してくるのは、現在のレアルと何ら変わらない。

実際、レイモン・コパやジジは、ディ・ステファノと重なり過ぎていてレアルではあまり活躍できなかった。しかし、プスカシュはディ・ステファノと比類のないタンデムを組んでいる。

ゴールゲッターからプレーメイカーにシフトしつつあったディ・ステファノに合わせて、プスカシュはゴールゲッターに比重を置いてプレーした。最初のシーズン終盤に絶好のゴールチャンスでディ・ステファノにアシストし、得点王を譲ったという経緯もあった。

その後、プスカシュはディ・ステファノを供給源にして2シーズン連続で得点王を獲り、その後にも2回獲っている。「損して得とれ」とはよく言ったものだ。

有名なキンタ・デル・ブイトレの時代は、エミリオ・ブトラゲーニョを中心とした編成ながら、メキシコ人のウーゴ・サンチェスを加えてスケールアップした。

ブトラゲーニョとサンチェスもかなりキャラがかぶっているのだが、どちらかと言うとブトラゲーニョがアシスト役に回ることが多く、サンチェスは5回も得点王に輝いている。

ダボール・シュケルとプレドラク・ミヤトビッチの旧ユーゴスラビアの2トップもコンビネーションは良かった。2トップは役割分担が成功のポイントなのだが、シュケル&ミヤトビッチ、ブトラゲーニョ&サンチェスはいずれも万能型のコンビである。

うまいし速いし点が取れる2人。それでも相乗効果を出していたのは、むしろ2人とも何でもできたからだろうか。

銀河系の時代になるとキャラかぶり問題が再燃。ロナウド獲得でラウールと名コンビだったフェルナンド・モリエンテスは出番を失い、CL獲得の原動力だったスティーブ・マクマナマンは後から加入したデイビッド・ベッカムにポジションを奪われた。

同じハンサムな英国人というキャラまで一緒だったから、被害の度合いはより大きかったかもしれない。

それでもこの時期のレアルが強かったのは間違いない。左サイドのジダンとロベルト・カルロス、左右に分かれていたフィーゴとジダンの連係も見事だった。しかし、スター軍団を支えていたのは何と言ってもクロード・マケレレだろう。

ロナウド、ラウール、フィーゴ、ジダン、さらにほぼ左ウイングのロベルト・カルロスの背後を一手にカバーしたマケレレこそ、銀河系の隠れたキーマンだ。マケレレが退団すると、レアルはタイトルから遠ざかることになった。

クリスティアーノ・ロナウドとメスト・エジルは近年の名コンビだろう。トップ下のエジルは、右寄りから左足で左サイドのロナウドへ丁寧なパスを通した。ナチュラルに相性のいい関係だった。

リーガの最多アシストを2回も記録していたエジルをアーセナルへ放出したのはレアルらしい。エジル退団後にラ・デシマ(CL10冠目)の立役者となったアンヘル・ディ・マリアについても、当時のカルロ・アンチェロッティ監督が「彼だけは出すな」と言い置いてオフに入っていたのに、シーズンが始まると放出してしまった。

いつも誰かが我慢している

現在、レアルの誇るBBCのコンビネーションは悪くない。リヨン時代のカリム・ベンゼマは完全な個人プレーヤーだったが、今では万能型のCFとしてロナウドとうまく協調できている。

ロナウドとキャラかぶりのギャレス・ベイルはロナウドを立てながら居場所を模索中といったところか。ベンゼマ、ベイルの特長が100%発揮されているかと言えば疑問もあるが、偉大なロナウドと共存しなければならない以上、多少割を食うのは仕方がない。

ネイマールやルイス・スアレスもリオネル・メッシを立てながら共存している。

本来、ロナウドに必要な(つまりレアルにとって必要な)補強とは、ロナウドに高質のラストパスを供給してくれる選手であるはずだ。エジルはうってつけで、ディ・マリアも最高の相棒だった。

しかし、レアルの補強とはそういうものではない。補強というよりコレクションに近く、伝統的にそうで、それで20世紀最高のクラブになった。キャラがかぶろうが何だろうが、高価なスターを並べて結果を出してきた。

ある意味、そこにこの巨大クラブの醍醐味がある。選手にとっては試練かもしれないし、監督にとっては罰ゲームみたいなものだが、夢があるのは確かである。

ウニとイクラがあったら、ウニ・イクラ丼にしないでいられようか。結果はうすうすわかっていても、だ。

西部謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテⅢ「ポスト・バルセロナ」の新たな潮流』(小社刊)が発売中。

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