<特別寄稿>
第42回UNHCR執行委員会高等弁務官の基調演説説・・・・・・・・・・・緒方貞子(2)
国連難民高等弁務官の仕事は,私たちが住む世界の鏡である。朝のニュースが,その日の仕事を決めるかに見えることもある。事件が起こってニュースとなるのか,ニュースがきっかけとなって事件が起こるのか,時に判然としない時代にあって,UNHCRのような機関は,周囲の世界における様々な変化に迅速に対処する能力をそなえると同時に,その意味合いを把握する力を持つことが重要である。本日は,根本的な変化を遂げさらに変わりつつあるこの世界で,UNHCRをどのように見るかについて,とりわけ,適切な政策立案機能によって UNHCRの活動能力がどのようにバランスを保つべきかについて,私の考えを若干申し述べたい。私の発言は,着任後8か月も経ずして行なうものだが,しかしその期間というのは,私よりもはるかに長く難民問題にかかわってきた数多くの人々が,多くの点において実に先例がなかったと認めている8か月であった。ペルシア湾岸では,私たちは,近年で最大かつ最も急激な難民流出を経験した。150万のイラク人が故郷を逃れ,5か月も経ずして,約7万人を残してすべて帰国した。自分たちの故郷に帰ることができた者も多いが,約50万人は,自国に戻ったとはいえ,今なお国内で避難民の状態となっている。急速で激しい流出は,同じように急速ではあるが不安定な帰国へと変わったのである。「アフリカの角」では,大規模な人道的活動が,より建設的な経済・社会の開発事業の代わりをしなければならなかった。打ち続く紛争,遅々とした民主化,力強さに欠ける平和努力のために,この地域は,希望と不安がない混ぜとなっている。ヨーロッパでは,最近まで東側の政治的変化の先駆けと見られていた人々の自由な移動が,今では,西側で深い憂慮と時には恐れの源となっている。増大する庇護希望者は,現行の法的手続きと運用に限界まで負担を加え,庇護の制度自体に大きな試練を与えている。その一方,東ヨーロッパでは,少し前まで,難民の発生源だった国々が今,難民を受け入れている。私は,この地域において,「終止条項」(cessation clause)の適用が可能であるはずだと考える。これらの諸国の多くが,このUNHCR執行委員会の活動に参加するようになったこと,1951年難民条約および1967年同議定書への加入ないし加入の意向を示していることを歓迎したい。こうした動きは,冷戦後においても難民条約が引き続き妥当性をもっていることを裏付けるものである。1991年は,難民の流出だけでなく,その帰還のための新たな機会が目立った年でもあった。先月,私は,南アフリカ共和国の政府との協定に署名したが,これは,南アにおける UNHCRの駐在と,亡命者たちの安全な帰国への道を開くものであった。また,今まさに,領土の将来に関する住民投票に参加できるよう,西サハラの難民を帰還させる準備をして,待機しているところでもある。カンボジアでは,自発的本国帰還のための中心的な機関として,私たちは,迅速かつ前向きの政治的な状況の進展と歩調を合わせるよう,準備作業を速めている。しかし,昨年,準備作業のために必要な3300万米ドルを UNHCR に代わって求めた国連事務総長のアピールに対して,十分な拠出がないため,一層の活動をすることが妨げられている。私は,この機会を借りて,各国政府に,即時かつ寛大な拠出を強く促したい。ほとんど注目を引かないまま進められている解決もある。たとえば,米では,地域的な和平努力とCIREFCA(中央アメリカ難民援助国際会議)の活動によって,数多くの難民が本国に帰還している。今月下旬の米への視察の間に,私は,コスタリカ国内に残された最後のニカラグア難民キャンプを閉鎖する予定になっている。UNHCRは,スーダンからの大がかりな難民帰還作業の第一弾として,エリトリアに駐在所を設置しているところである。アンゴラの和平協定により,来年初めの30万人の難民の帰国計画が現実的解決の(……続く)
<論説>
※平和的生存権論の生成と展開―その憲法的・国際法的側面の総合的考察―・・ 深頼忠一(7)
※国際人権の思想・・・・・・・・・・・・・・・・・ 宮崎繁樹(13)
<研究報告>
※人権諸条約の国内実施―この10年を振り返って―日本の裁判所と人権条約・・ 江橋 崇 (18)
※国際人権規約関係判例の報告・・・・・・・・・・・ 伊藤和夫 (23)
※性差別に関する条約の国内的効力をめぐって・・・・・・・・・・ 大脇雅子 (33)
*ヨーロッパ人権条約採択40周年記念*
拡大ヨーロッパにおける人権の展望・・・・・・・・・・・・ ピーター・ロイプレヒト(37)
ユーゴスラビアの人権状況・・・・・・・・・・・・・・・・・ クレシミール・サイコ(41)
ヨーロッパ人権裁判所の判例の動向――管轄権の側面を中心に・・・・・・・ 佐藤文夫(43)
<シンポジウム>
*刑事被拘禁者の人権をめぐって*
刑事被拘禁者の人権をめぐって――総論――・・・・・・・・・・・三井 誠 (48)
刑事法の側面から――逮捕・勾留を中心として・・・・・・・・・・・高田昭正(49)
刑事被拘禁者の人権――国際法の側面から・・・・・・・・・・・松田竹男(54)
未決被拘禁者の人権――とくに憲法論の立場から・・・・・・・・・・・内野正幸(58)
<国際人権機関の活動>
国連人権小委員会の活動(1990)・・・・・・・・・・・・・・・波多野里望(62)
「市民的及び政治的権利に関する国際規約」に基づく人権委員会・・・・・安藤仁介(66)
社会権規約委員会(CESCR)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 多谷千香子(70)
女子差別撤廃委員会(CEDAW)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・赤松良子(73)
その他主要機関の活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・斎藤恵彦編著(76)
<海外の研究動向>
第2回ヨーロッパ法アカデミーに参加して・・・・・・・・・・・・・・ 曽我英雄(78)
<書評>
※松井茂記著『司法審査と民主主義』・・・・・・・・・・・・・・・・・・棟居快行(82)
※Dominc Mcgoldrick著『The Human Rights Committee:Its Role in the Development of the International Covenant on Civil and Political Rights』・・・・・ 今井 直(84)
※Antonio Cassese著『Human Rights in a Changing World』・・・・・ 戸田五郎(86)
※United Nations Development Programme著『Human Development Report 1991』 秋月弘子(88)
※学会報 IHRLA REPORT ' 91・・・・・・・・・・・・・・・ 事務局(91)
設立趣意・会則・役員・編集後記
アートディレクション=アトリエ・イオス イラスト=松本圭以子
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