「僕は信州の出身で釣りは渓流釣りから始まりました。少年時代に始めて中学生くらいまで熱中してました。その後はフライフィッシング、ヘラブナ釣りと10年単位で違う釣りにハマっていましたね。プライベートでは今でもヘラブナ釣りが好きです。『つり丸』沖釣り専門誌なのに、実は僕は船酔いがヒドくて(笑)。編集部員にバカにされながらも、船に乗る時は酔い止め薬を飲んでがんばっているんです。船酔いはしても編集長にはなれますから(笑)」
大学時代からフリーライターとして活動していた樋口さんは、10年前、趣味が釣りということで『つり丸』の創刊メンバーとして迎えられる。他の編集部員も釣り好きが集まった。
「『つり丸』の特徴は釣り雑誌なのに作家の連載(※)があったり、釣った魚をいかにおいしく食べるかというところに力を注いでいたりする点です。今は海釣りの人口は増えていると思いますよ。川は環境に左右されやすいし、もともと海のほうが食べられる魚も多いですからね」
※椎名誠の釣りキャンプルポ「わしらは怪しい雑魚釣り隊」※嵐山光三郎の釣行記「つり道楽」ともに連載5年を経過。10年間、釣り人の最後の楽園ともいわれる海を見守ってきた。海に出ると毎回「この海に支えられて生きている」と感じるという。
「『つり丸』がカバーするフィールドは、西は静岡県御前崎から東は青森まで、北陸は金沢~新潟までをほぼ網羅しています。釣れる魚は季節ごとに変わるので、僕らの仕事はそれを追いかけていく感じ。自然相手なので、台風がきたら船は出せないわけですが、天候などは事前に念入りに調べているので、取材ができなくなったということは今までないですね。取 材で大変なのは、とにかく朝が早いことです。朝4時くらいに出港することが多いので、すると深夜1、2時に家を出なきゃいけない。いつも仕事を終えるよう な時間ですよ(笑)。車の運転もあるから夜に酒は飲めないし、真逆な生活リズムなので、編集作業をしながらだとキツいです(笑)」
釣りをやる人間なら誰でも知っているライトタックル(LT)。実はこの手法は『つり丸』編集部が考案したものだ。
「それまで大きい魚を釣るには竿もリールもでかくて、かなりの重装備が必要だったんです。なんとかもっと気軽に釣りを楽しめないかと、道糸にPEという強 くて細い新素材の糸が普及してきて、この細いラインを使用するライトタックルを考案しました。これにより、従来の半分以下のオモリで、釣りができるように なったんです。オモリが軽くて糸が細いということは、より繊細にアタリを感じることができるので、釣りがぐんとおもしろくなるんですよ。この方法は、今で は一般的な釣り用語になっています」
釣りをより多くの人により深く楽しんでもらいたいという思いから生まれたアイディアは、釣り人たちに受け入れられ、新たなジャンルとして定着した。樋口さんは、これからも海の1ウォッチャーでいたいという。
「釣りの楽しみ方は人それぞれ。僕は1度にたくさん釣りたいとはあまり思わなくて、1匹1匹釣る過程を楽しむのが好きなんです。読者のみなさんには、雑誌を読むことで釣りの楽しみの幅を広げて、奥深さを感じてもらえたら嬉しいですね」
釣り人の世界では、寝ているときに魚を釣る夢を見たら一人前といわれるらしい。釣りを愛する男たちは今宵はどんな魚を釣り上げる夢をみているのだろうか。
(2009年08月)