冬キャンプという最高の贅沢│大人の火遊び旅│
「薪ストーブを使ってみたい!」。そんな好奇心から真冬キャンプを決行したタンスタ編集部。身を切るような寒さのなかで、ただただ贅沢な時間が過ぎていった
関野 温:写真
キャンプに行くたびに心に残る出来事がある
[思い返してみると、小さいころは空を見上げるような子どもじゃなかった。星がきれいに輝いていても、10秒くらい見たらあきる。プラネタリウム?ただ上を向いているくらいなら外で遊んでいるほうがいいや。認識できる星座は、自分の誕生月であるさそり座くらい。星がきれいに出ていることが、一体何だというのだろう。そんな子どもだったと思う。
いつから、こうして夜空を見上げるようになったのか。とはいっても、自宅のベランダから星空を観察するようなことはあまりしない。流星群が見えるというニュースを聞いても、家に帰ったら忘れてしまっていたりする。根はそこまで変わっていない。
でも、キャンプの夜はイスに座って空を眺めている。大人になってこんな夜の過ごし方をしているなんて、ひと昔前の僕からしたら信じられないことだろう。カッコつけている、なんて言われたりして。でもそうではなくて、キャンプに行ってみなよ、そうしたらわかるからって答えると思う。
自然の中で過ごすことの気持ちよさを、少し前の僕は知らなかった。温泉や景勝地を訪ねるような旅行で自然に癒されることはもちろんあったが、野外で食事をとり、テントの中で大地に寝そべり、鳥の鳴き声に起こされて朝を迎えるという体験はずっと新鮮だった。
だけど、はじめからすべてに心を動かされたわけじゃない。何回か重ねるうちに変化が起きた。焚き火の炎を見つめるうちに、信じられないような満天の星空に出会えたときに。ちょっとずつ新たな経験をして意識が変わっていった。今では、二日休みがあったらすぐにキャンプに行きたくなるくらい。頭上に広がる星空は幻想的で、出発前からの楽しみの一つだった。空気が乾燥している冬は大気中の水分量が少なく、星が明るく出る。やっぱり来てよかったとつくづく思う。
氷点下を下回る気温で吐く息は白く、凍えるような寒さだが、そばには焚き火台があり、薪ストーブがある。屋外で使用しているから、テントサイト全体が暖かいなんてことはない。寒い寒いと言いながら手を伸ばし、体を近付けて暖まる。今回の秘密兵器である薪ストーブも大活躍だ。バイクのキャンプツーリングでもこんな体験ができるなんて考えもしなかった。
どんな道具を持っていくか。キャンプではそれしだいで過ごし方のスタイルも、快適性もガラリと変わる。よって俗にいう”道具沼”にハマってしまうのだが、まさか薪ストーブとはね。冬の過ごし方がまたおもしろくなった。キャンプの世界はまだまだ奥が深い。
未知なる道具を持って一路、富士の麓へ
そもそもなぜ冬にキャンプをやることになったのか。その発端は、編集長であるやたぐわぁの煩悩にあった。「薪ストーブ欲しいなぁ…」
パソコンを見ながら、隣の席でそうつぶやいているのである。仕事の合間にネットで物色していたらしい。「すごいですね、それ。バイクで持って行けるんですか?」
あれやこれやと薪ストーブの話題で盛り上がっていく。キャンプ&アウトドア好きが集まったこのタンスタ編集部ではいつもの光景で、仕事中でありながら仕事とは関係なさそうなキャンプ用品をポチッとしたり、それが会社に届いては「今度は何買ったの?」と触ってみたり。やたぐわぁの口から飛び出した未知なるアイテムに、イトウくんこと僕が食いつかないはずがない。ましてや、そういった遊びを仕事にできてしまうのがオートバイ雑誌らしからぬタンスタである。やたぐわぁも個人的にどうしても試したかったらしく、極めて自然な流れで、冬キャンプ行きが決定したのだった。
ところが、職権発動とばかりに、気になる薪ストーブをメーカーさんから借りようとしたところ、まだ貸し出し用がないという返答が…。暗雲が立ち込めるなか、いつもの調子でネットショッピングサイトを開くと、その薪ストーブが5000円も安くなっているではないか!
「おいおい、おれに買わせるってのか!?」
僕の悪魔のささやき「買っちゃいましょうよ」がやたぐわぁを苦しませる。数時間悩んだところで意思を固めたようで、やたぐわぁが自腹で買った薪ストーブを使えるという僕にとっては願ってもないおいしい展開に。「お前にも今度何か買わせるからな!」なんてやたぐわぁの恨み節を聞き流し、期待に胸が膨らむばかり。
とんだとばっちりを受けたのはサブローである。薪ストーブにはダッチオーブンが必要だろう!というやたぐわぁのこだわりのもと、食事担当に任命されたのだ。「あ、それいいですね!」という完全な他人事の僕とは対照的に、「ダッチオーブンって、使ったことないんですけど…、普通の鍋でいいじゃないですか?」とあまり乗り気じゃないサブロー。なんだか本当に僕一人のために用意されたキャンプじゃなかろうか。
そんないきさつがあって、静岡県は富士宮市にあるふもとっぱらキャンプ場にやってきた。冬なら富士山がくっきり出るであろうという期待のもとこの場所を選んで大正解。山の中腹に雲がかかっていたものの、雪化粧した頭をひょっこりと見せてくれていた。しかも冬は比較的に他のキャンパーが少ない。この開放感抜群のサイトがほぼ貸し切り状態って最高じゃない?
凍てつく世界で、火と食事の温かさが身にしみる!
高原に深い夜が訪れ気温は氷点下となる
冬は陽が傾くのが早い。とくにふもとっぱらキャンプ場の西側には毛無山がそびえ、16時ごろになるとしだいに陽を隠してしまう。キャンプツーリングというと、周辺の観光を満喫して夕方になってからキャンプ場に向かうというプランもあるが、そうなると薄暗い中でテントなどの設営を始めることになり、やっと済んだと思ったらすぐに調理の支度が待っている。そんな慌ただしいキャンプはあまり好きじゃない。
3時間ばかりをツーリングとして楽しみ、早い時間帯からキャンプ場入りした。旅をメインに、キャンプを宿泊の手段として考えるサブローには違和感があったようだけど、今回は担当の僕のプランを受け入れてもらった。
1泊2日という長い時間があるように見えて、設営と撤収、調理を自分たちで行なうキャンプでは、落ち着いていられる時間が意外と限られている。日常から離れてのんびり過ごしたいなら、冬はとくに早めに行くことをオススメしたい。夕方くらいに焚き火をはじめ、イスに座ってコーヒー片手にくつろいでいるときが、穏やかで、満足感を得られる時間でもあるからだ。
もっとも、調理の準備に大忙しのサブローにとってはのんびりもゆったりもないだろう(笑)。普段のキャンプでやるようなお手軽料理ならパパッと作ってしまうサブローだが、やたぐわぁから"豪華ディナー"リクエストされ、僕からは「じゃあパエリア食べたい!」と好き勝手に言われてしまったのだ。いや、サブローには本当に申し訳ないけど、キャンプでパエリア食べてみたかったんだよね…。しっかりと圧力がかかって熱がじっくり伝わるダッチオーブンで調理するわけだから、きっと絶品に違いない。
一方、やたぐわぁは薪ストーブの前に居座り続けている。すらりと伸びた煙突から煙がモクモクと上がっていく。キャンプでの初めての薪ストーブいじりに夢中のようだ。窓を開けては燃え盛る中の様子を眺め、満足感に浸っている。見たところ本体の上部にダッチオーブンや鍋を置いておけば保温ができそうだし、ケトルを常時置きっぱなしにしているから、いつでもあったかいお湯が飲めるのがありがたい。
夜の訪れとともにだいぶ冷え込んできた。朝霧高原にあるふもとっぱらキャンプ場の標高は860m。昼間はポカポカだったが、夜になると氷点下に。気が付くとバイクに霜が降りて真っ白になっていた。しかし結晶がキラキラと輝いて美しい。指でなぞるとシャリシャリと音を立てた。
このような環境下では家庭用のカセットガスが使用できない。イワタニの公式ホームページによると5℃を下回ると気化しにくくなり、0℃以下だと使用不可とのこと。ドーム状の形状をしたアウトドア用のガスカートリッジが寒冷地に強いため、冬キャンプでは使用するガスに注意したいところだ。 さてさて、料理の準備が整ったよう。まずはビールで乾杯! 冬キャンプはここからが本番だ。
語らいたくなる焚き火の不思議 ─
自然に身を置くと心が満たされる
人間やはり、お腹が満たされていくと充足感に包まれる。野外で寒さを感じながら食べているとなおさらだ。温かい食事をいただける幸せを実感する。旅館やホテルの夕食もおいしいけれど、自然という特別なスパイスが加わった料理に勝るものはない、といつも思う。野外という環境が食を何倍もおいしくする。
サブローのダッチオーブン料理は絶品だった。ローストビーフはちょっと脂身が多めだったけど"肉っ!"という歯ごたえで、粒マスタードとの組み合わせがバツグン。楽しみにしていたパエリアは海鮮の旨みがご飯にしっかり染み込んでいた。エビ、ムール貝、イカ、ホタテ、アサリがいい仕事をしている。少しサブローが自信なさげだったので心配したが、めちゃくちゃうまいじゃん! サブローも少しほっとした笑顔をみせていた。
いつか自分のキャンプでもマネしてみたいな。食事を終えて、星を見たり、焚き火にあたっていると次への構想が動き出す。薪ストーブもダッチオーブンも欲しいものリストの仲間入りだ。「ダッチオーブン使うの好きになりました?」
焚き火を囲みながらサブローに聞いてみる。「なかなか大変やね。でも思った以上においしかったかも」
そんな会話がぽつりぽつりと続いていく。酒が回っているやたぐわぁは「薪ストーブがよかったなぁ」としみじみ納得している。買わせてしまったような形になった僕はひと安心である。
会話が途切れても、焚き火を見つめているとそれも気にならない。寒いから3人ともそこを離れずにいる。虫の声もない静まり返ったキャンプ場で、パチパチと薪が爆ぜる音だけが聞こえる。そういえば、3年前に初めて行った冬キャンプもそうだった。シンとしているのである。ときおりパチパチと聞こえる音が心地よかった。
これも冬だからこそ。なんで寒いのにわざわざキャンプするの?なんて疑問に思う人は多いと思う。寒いからこそいい。その厳しさを感じながら火をおこして温まり、星空のもとで静寂な夜を過ごす。これは熱源となるものがそばにないと決して実現できない。焚き火台や薪ストーブの力を借りることで、自然の中に身を置くことができる。こんな贅沢な過ごし方を僕は他に知らない。
夜が更けてきた。明日の朝食づくりも任されているサブローはテントの中へ。僕とやたぐわぁはまだ思い思いの時間を過ごした。この時間がまだ名残り惜しくて。
このときの気温はマイナス4℃。無事に朝を迎えられるために、シュラフ(寝袋)の性能には注意してほしい。いくら服装に気をつかっても、地面からの底冷えでかなり冷える。暖かい時期にしか対応していないシュラフだと命の危険さえある。いかに暖かく寝るかが冬キャンプで大事なことだ。
翌朝、テントの中から全員が姿を現した。誰かが焚き火台の火を起こし、まだ起動し切らない体を目覚めさせる。朝食が終わってしばらくしたら、撤収の準備を始めなければ。そんなめんどうなことを考えつつ、サブローの手料理をいただく。昨日観光できなかった分、今日は富士五湖をめぐるツーリングをして帰ろう。サブローもきっと喜ぶはずだ。
余談だが、このツーリングの数日後、僕はまたふもとっぱらキャンプ場を訪れた。
12月31日。大晦日の年越しキャンプである。しかしキャンプ場に近付いて驚いた。この前の光景がウソのように人であふれかえっていた。この日が特別だったのかもしれないが、気温や場所によって冬でもそれなりにキャンパーは多いのかもしれない。場内を見回すと薪ストーブや焚き火台がそこかしこにある。冬キャンプの楽しさをみな知っているのだ。






