――「カーサ ブルータス」はアジアでも人気と聞きましたが、なにか特別な展開をされているのでしょうか?
台湾でよく売れているようです。
この前も台湾から書店関係の人たちがいらして、取材を受けました。日本のライフスタイルへの関心が高いのでしょうね。
安藤忠雄さんや伊東豊雄さんの作品にも注目が集まっていますし、この前来られた台湾の方々も非常に知識欲が旺盛で、どんどんいいところを吸収しようとされています。そういった方々に「カーサ ブルータス」が評価されているのは有難いですね。
――建築とデザインの雑誌と思ってる人も多いようですが。

記念に作ったボードが編集部の真ん中に

編集会議の一コマ
われわれとしては、専門誌ではなくライフスタイル全般を扱う雑誌と考えてつくっています。
「カーサ=家」を中心にした、そのまわりのライフスタイルの提案。これはマガジンハウスという会社の伝統的なスタイルでもあります。
もともと「ブルータス」の編集部から生まれたアイディアで、ファッションや食関係で世界中を旅していた編集者たちの「衣食足りて次は住だ」という流れから出てきたものです。 まずはムック形式で発行し、98年に季刊でスタートしました。昨年創刊10周年記念を行ったのですが、月刊化したのは実際は2002年の11月号からです。
――たしか、バウハウス特集でした。
はい。「バウハウスなんかこわくない」というタイトルでした。
ただ、基本はミーハー路線というか、あまり専門的にならないで、われわれ編集も一から学びながら企画を練り上げていくようにしています。
――読者層はどんな感じですか?
30代前半の人が中心です。おおまかに上は50代、下は学生さん。男女の比でいうと、6:4で男性がやや多いくらいです。
知的行動力のある人たち、自分たちの暮らしを向上させたいと思う人たちに支持されているようです。 ですから、われわれも、あくまで読者目線というか、小難しくならないように、初心者でもわくわくしながら入り込んでいけるようにと心がけて編集しています。 そういえば編集部もわたしを入れて8人、うち女性が3人なので、読者に近い構成になっていますね。
――人気の特集ってありますか?
実は8月号で安藤忠雄さんの特集をするのですが、安藤さんの記事はいつも人気がありますね。
これは彼の人間力の為せる技かなと思います。講演などを聴きましても非常に明快ですし、作品も影響力が強い。おまけに魅力的な人柄で、本当にファンの多い方です。台湾でも講演に1万人が集まったといいます。 不況だからこそ、彼の何か突き抜けるような力にみなさん期待されていることが多いのではないでしょうか。 彼がヴェネチアで歴史的建築物を美術館に再生するプロジェクトがあって、この美術館のオープニングに編集者が同行しています。8月号で紹介します。行動している安藤さん、というのもインパクトがあるので、DVDを付けることも考えています。

建築物の取材にはヘルメットで
また、日本の伝統建築を特集したものもよく売れます。灯台下暗しで、なかなか日本を知っているようでみな知らなかったりする。そこをわかりやすく編集してみせると意外といい評価をもらえるんです。「日本の建築、デザインの基礎知識」(2006年9月号、2007年9月号)などは好評でした。
――そういえば美術館はよく取りあげられていますね。
美術館って、ひと昔前までは中にあるアート作品を観に行く場所でした。でも、建築家の実験の場として最近とくに美術館建築が注目されています。
われわれも100号記念で美術館建築を特集してみました(2008年7月号「日本の美術館・世界の美術館」)。中の作品を見るだけではなく、外の作品をみるということを提案しました。 美術館はいまやその建物、建築自体を見る、という視点も重要です。それにそこに入っているレストランも星つきの有名店があったりして、かなりハイレベルな場所になっています。建物をみて、中のアートをみて、おいしいものを食べる。美術館ってお洒落で素敵な場所に生まれ変わっています。
――近ごろ雑誌は「売れない」「広告が入らない」と出版社のお荷物のようにいわれ続けていますが、「カーサ」はいかがですか?

「カーサ ブルータス」から生まれた別冊の数々
確かに広告は厳しいですが、もともと大部数雑誌ではないので販売面は堅調で、なんとかやりくりしています。 読者の方々には一定の評価をいただいているので、読んでくださる人たちの視点を忘れずにつくっていきます。
広告も、「カーサ」に出したからすぐ商品が売れる、といった類のものではないかもしれません。でもこの雑誌がいいから応援する、いい読者がついている、と言って下さる広告主の方も多くいらしゃいます。デザイナーとか海外のクリエーターとかが面白がってくれるのも、大きな特徴だと思います。欲を言えば、もっと宣伝費が欲しい(笑)。
――webや携帯への対応はどのようにされてますか?
たとえばカーサを見て“こんな家を建てたい”と思った人に具体的なデータなどを紹介したりするような、現実的な部分をネットで処理できればと思っています。雑誌では書ききれない詳細などを入れるとか、雑誌を補足する部分をネットや携帯に期待しています。新たなビジネスモデルも検討しています。
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1.民藝(日本民藝協会)
日本民藝協会の機関誌。柳宗悦が1931年に創刊した「工藝」の流れをくみ1957年から現在の形に。協会員以外でも購読可能です。
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2.芸術新潮(新潮社
かなりマニアックなテーマもありますが、奇をてらわない誌面構成で、さらっと読めるワンテーママガジン。ガチガチなアート誌でないのがいい。
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3.NALU(エイ出版社)
のんびり南の島でサーフィング三昧…。自分 は果たせないであろうライフスタイルを夢想するのに必要なのは、 やはり動画ではなく雑誌なのです。
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4.週刊モーニング(講談社)
漫画誌はあまり読みませんが「へうげもの」にハマり、カーサの企画でもご一緒させていただきました。浦沢直樹の新連載「BILLY BAT」も注目です。
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5.新建築(新建築社)
数ある新しい建築から何を選んで載せるのか、建築家がここでなにを伝えるのか。建築界最大の関心事といっても過言ではない。そんな存在感も興味深いですね。
(2009年6月)