■月刊フーガ 2008年3月号
自分の生まれた場所や、長く過ごしてきた場所、今いる場所に対して、私たちは何を思い、暮らしているだろう。
私たちはいつも、さまざまなところで生きている。今これを読んでいるあなたは、昨日とは違う場所にいるかもしれない。そこにいるということは、その場所となんらかの関係性が発生しているわけだが、普段意識してそれを考えることはあまりない。
写真家の森日出夫さんは、生まれてから六十年間ずっと横浜に住んでいる。仕事や個展などで離れることはあっても、生活の基本を横浜から移したことはない。東京で撮影がある時など、どんなに遅くなっても横浜に帰ってから食事をする。森さんは堂々と言う。
「ここが好き。この街が好き」
森さんのように、自分の故郷や暮らしている街をはっきりと好きと言える人が、どれくらいいるだろう。愛着はあっても、口にするのは恥ずかしいという人や、考えたこともなかったという人もいるかもしれない。
忙しい日々の中で、いつも目にしている風景のことを意識している人は少ないと思う。だから私たちは、毎日同じ表情を見せている街が、じつは少しずつ変わっているということに気がつかない。大きな変化というのは、急に起こるわけではない。小さな変化が重なって、そうなるのだ。それをただ見逃してい
るだけなのである。
自分の街を、もう一度よく見てみる。昨日まであった建物が、今日は取り壊されている。そして新しい建物が、また明日には建っている……なんていうこともあるくらい世の中の変化は早い。なくなったものが何だったのかすら、思い出せないくらいだ。
「ついこの前まであったものが、いつの間にかなくなっていて、それがどんな色やかたちをしていたのかわからない。自分が生活している街なのに、そこがどんな街なのか知らない人が多すぎる。悲しいよね」
失ってみて初めてその存在の大きさに気づかされる大切なもの。忘れ去られてしまう移りゆく街や人の風景も、じつはそうなんだと、森さんの写真は語りかける。
記憶を記録する──
変わり続ける横浜の景色を見つめてきた森さん。その写真には、私たちが見過ごしていた街の変貌の、一瞬一瞬が焼きついている。
●企画・構成・取材・文・制作/岩本 美香
●写真/渡辺 幸宏
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