■月刊フーガ 2008年5月号
私たちは人生の最後を迎えた時、どんなことを思うだろう。これまでのことを振り返り、何かを成し遂げたり、まっとうした人生だったと思える人が、どれくらいいるだろうか。
人は日々、反省や後悔をくり返し、成長していく。そうでない人も中にはいるが、多くの人は、目に見えなくても毎日少しずつ変化している。そして、自分にしかできないもの、自分だけができることを見つけ、身につけていくのではないだろうか。
しかし残念なことに、それが何であるかという答えを探し出すことは、とても難しい。生涯をかけて探し続けても、見つからない場合が多い。だから、生きている間に何か一つでも、夢中になれるものを見つけることができたら、それは幸せなことなのかもしれない。ある一人の書家の生き方にふれて、そんなことを思った。
書に尽くし、書に生きた人。上松一條の生涯は、書に捧げるためのものだったといえるだろう。2005年に80歳でこの世を去るまで、書から離れることは、一時もなかった。若い頃は毎月半紙を2000枚、全紙を100枚使い切るほど臨書、研さんを重ねる日々を送り、晩年も毎日3時間は欠かさず筆を握ったという。
そんな上松一條の晩年を、一番近くで見守り続け、その生き方や想いを引き継いでいる女性がいる。名前は上松桂扇。彼女にとって師匠であり、養父でもある上松一條。その魂は、今も彼女の中で生き続け、小さな体と大きな筆から生み出される書の中に、存在している。桂扇さんもまた、書に尽くし、書に生きている。
「上松一條先生が亡くなったとき、とっても穏やかなお顔をしていたんです。何にも悔いのないような、安らかなお顔でした」
努力することを、忘れてはいけない。そう言い続け、ひたむきに、ただひたすらに、書に生きた上松一條。その心を受け継ぐ、上松桂扇。下ろされた筆から生み出される文字には、女性らしからぬ厳しさが漂う。まるで、人生を捧げることができる何かが、あなたにはあるか、と問われているみたいだ。襟を正して、胸に手を当てる。私にもあなたにも、そう言えるものがあるだろうか。
●企画・構成・取材・文・制作/岩本 美香
●写真/渡辺 幸宏
この雑誌の読者はこちらの雑誌も買っています!
Fujisan.co.jpとは?
株式会社富士山マガジンサービスが運営する、
日本最大級の雑誌オンライン書店です。
一般的な書店と異なり、
定期購読サービスに特化しています。
雑誌、新聞、シリーズ書籍、漫画や
本屋にも無い古い本も見つかる!
法人サービスはこちら >
-
タイトル1万以上
豊富なラインナップで
書店に並ばない本とも出会える -
試し読み
バックナンバー1冊まるごと試し読み
したり、最新号も試し読みできる -
タダ読み
5,000冊以上の雑誌が
無料で読み放題 -
500円OFF
普段読んでいる雑誌のレビュー投稿で
500円割ギフト券をプレゼント -
事前予約
気になる本は
発売日前から事前予約可能 -
割引や特典付き
定期購読なら
お得に本が読めて
送料無料の雑誌も!
デジタル雑誌をご利用なら
最新号〜バックナンバーまで7000冊以上の雑誌
(電子書籍)が無料で読み放題!
タダ読みサービスを楽しもう!