どんどん森の奥に進んでいく。そして彼女は躊躇せずに草木の生い茂る薮の中に入り、座り込んだ。そして空を見上げ、風に揺れる木の葉の音に耳を澄まし、葉にさわって、森の生気を味わう。そして前方にじっと目をこらすと、一気に画用紙に描きだした。
その動作の自然なこと。迷いもなく、なめらかにスケッチしていく。
これは阿良山早苗さんのスケッチに同行したときの様子である。
「私を描いてと、まるで花や木が言っているように感じるんです」と言う彼女の瞳には、その場にある生気や輝きが色濃く映し出されているのだろう。この一瞬の時が過ぎるのも惜しむように描いていく。今、描かないと、この景色が、この輝きが消えてしまうかのように…。
取材の際、阿良山さんが言った言葉が印象的だった。
「どんどん世界が均一化されていくような気がして。シェイクのようにミックスされて。古い慣習や文化もどんどん形骸化されて失っていく」
今では日本のどこへ行っても、外国へ行っても、同じような風景で、同じような服装をした人々が行き交う。失われていくもの、過ぎていくもの、変わっていくもの、そんな時の流れは誰にも止めることはできない。だからこそ、今、目の前にある景色を画面に写し取りたいのだろう。
だからなのか、阿良山さんの作品を見ていると、懐かしいような気持ちになる。いつかどこかで出会ったような風景や人。一瞬の輝きや歓び。郷愁のようなものが胸に打ち寄せてくる。
絵からあふれ出るそのあたたかな感情の奥底には何があるのか。日本画家・阿良山早苗の源流を探ってみたい。
●企画・構成・取材・文/青木 和子
●レイアウトデザイン/都竹 富美枝
●写真/渡辺 幸宏
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