初めて善林ひろみさんの紡いだ木綿糸にさわったとき、「あたたかい」と思った。それは、手のひらの中でふんわりとやわらかく、それでいて弾力があり、軽く握った手をゆるめると、ふわっとしたふくらみを取り戻す。この瞬間、木綿糸がわたという繊維作物からできていることを実感する。またこの糸によって布ができる不思議さを思う。
今や世の中は機械による既製品であふれ、洋服も寝具も簡単に手に入れることができる。それは便利でスピーディーで、めまぐるしく変化する流行にも素早く対応できる。手頃な価格のものもあふれているから、数多く所有することだって可能。
でも、これっていいことなんだろうか?
善林さんの話を聞いて、手仕事を見ているうちに、早く、簡単に手に入ることのつまらなさを感じた。失っているものがあるように思った。それはたとえば、作り手の思い、受け手の思い、そこに刻み込まれていく日々の記憶のようなもの。簡単に捨てることのできない、ものをいとおしく思う気持ち。
丹波木綿の委嘱作家として二十年ほど創作を続けてきた善林さんは、六年ほど前から裂織を始めた。裂織とは簡単に言うと、使い古された布地をひも状に裂き、それをよこ糸にして織り上げられたもの。たとえば善林さんがセーターの上に着ている黒のベスト。これは元は母親の花嫁衣装で、黒の留袖のような着物に金色の鶴が刺繍されていたという。その衣装は親戚の間で、婚礼の時に何人もの花嫁が着たという思い出の品で、八十年ほどの時を経て、色もあせてシミができていた。善林さんはその衣装を裂いて織り、ベストに仕立てた。
「これは裂織を始めて最初の頃に作ったものです。やっぱり思い出があるから大切に着たいって思いますよね」
その手仕事を見ていると、時間をかけて、気持ちをこめて作る楽しさを感じる。ひとつひとつの動作に気持ちが刻み込まれていく。
思い出の詰まったベストを着ている善林さんはとてもあたたかに見えた。本当の豊かさはお金を存分にかけることじゃなく、ゆっくり手間隙かけて生活することなのかもしれない。
織物作家・善林ひろみの手仕事、そこに込められた思いを、すばらしい作品とともにお伝えできればと思う。
●企画・構成・取材・文/青木和子
●レイアウトデザイン/都竹富美枝
●写真/渡辺幸宏
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