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家電批評の編集長インタビュー

編集長プロフィール

晋遊社
「家電批評」編集長 沢井竜太さん

さわいりゅうた 1975年秋田生まれ。早稲田大学法学部卒業後、立風書房に入社、数社の出版社を経て、2009年より晋遊舎へ。2010年に副編集長、2011年から現職。

編集長写真

第65回 家電批評 編集長 沢井竜太さん

広告に縛られないホンモノの価値を公平に紹介したい

―晋遊舎さんはいろんな種類の雑誌を出しておられますが、いつごろ創業された出版社なのですか。

創業は平成7年です。出版社に勤務していた現社長が独立して立ち上げた、まだ若い出版社です。私も2年前に入社したばかりですので、創業当時の詳しい事情は知りませんが、最初はPC系の雑誌中心だったのがだんだん拡張していって、出版社としても相当の点数が出せるほどの規模になってきたというところです。

―「家電批評」もそんななかから生まれてきたんですね。

「モノクロ」のほうがワンサイズ大きい版型だ
「モノクロ」のほうがワンサイズ大きい版型だ

ええ。いまの「MONOQLO」編集長の西尾がそもそも立ち上げた「家電批評 monoqlo」という雑誌が大もとになります。その後、2つの雑誌に分かれ、「家電批評」が家電の、そして「MONOQLO」が生活全般ものの批評を行う雑誌になりました。
私は2年前に入社してこの雑誌に携わったのですが、当初は隔月でした。それが月刊になって、私は昨年の10月に副編集長になり、ことしの4月から編集長をしています。

―入社される前も同じような編集者をされていたのですか。

立風書房、学研、KKベストセラーズ、ぶんか社と、いろんな出版社を経験してきました。ここはやはり若いだけあって、勢いがありますね。

―儲かってるんですね。

儲かってるというほどではありませんが、黒字は出してます。やはり社員が若い分、人件費等の固定費が低く抑えられますし、なにより機動力があります。私は36歳ですが、社内では高年齢(笑)。
企画も通しやすいですし、社長自身がチャレンジ精神の固まりですから、どんどん新しいことにトライして形にしていきます。ですから新創刊もやりやすく、それで点数も増えていってるのだと思います。

―「ホンモノがわかる家電情報誌」と表紙にありますが、「ホンモノ」とはどういうものを指すのでしょう。

批評する商品は購入するものも多い
批評する商品は購入するものも多い

簡単に言うと「良いもの」ということになるんだと思います。「家電批評」には広告をほとんど入れてません。その分本音で記事が書けるわけです。とにかくフェアな情報を読者に届けることを使命としています。それが「ホンモノがわかる」ことにつながるのだと思います。

―「カカクコム」的ですよね。

確かに似ている部分はあります。ただ大きな違いはクオリティです。ネットっていろんな意見が出てきますよね。だから情報の質も玉石混交です。その中から正しい情報を見極めるのは、よほどリテラシーが高くないと難しい。
一方でわれわれは、テストや識者への取材を通じて「家電批評ではこの情報に責任を持ちます」ということで読者に情報のクオリティを担保するわけです。

―情報の目利き的立場ですね。

ええ、膨大な情報はそれを絞り込むだけでも大変ですからね。それをしかるべき基準で編集してわれわれが思う「良いもの=ホンモノ」を提供する。それを読者の皆さんが見て、われわれの編集基準、この雑誌の価値を評価して下さる。そういう立ち位置だと思っています。

―「型落ち家電」とか表紙に打って、取材先は嫌がりませんか。

やはりメーカーは嫌がりますね(笑)。商品を借りようとしても、もう型が変わって在庫がありませんとか言われる。メーカーにしてみれば、新商品が出たら、そりゃ新製品を扱ってもらわないと困りますものね。ですから、こういう企画は広告に重きを置く雑誌だとやれない企画なんだと思います。
でも、われわれは読者が望む情報を提供するのが務めだと思っていますので、「型落ち家電」の特集を組むわけです。やっぱり型落ち家電って、新製品に比べると圧倒的にお得ですからね。

―しかし販売だけで勝負する雑誌となるとなかなか大変でしょう。

「家電批評」単体ではまだペイしません。ムックなどの派生商品つくってようやくやりくりしているといったところです。15万部くらいコンスタントに出せないと正直厳しいでしょうね。

―何人でつくっておられるのですか。

細かいラフレイアウトを描きながらデザインを決めていく
細かいラフレイアウトを描きながらデザインを決めていく

編集部は7人です。モノ雑誌にしては少ないですね(笑)。外部のスタッフの協力も得ていますが、それでも大変です。

―でも、やりがいがある。

はい。忙しいですが、おもしろいし、やりがいのある仕事です。いま多くのメディアが抱えている問題の多くは広告ですね。つまり広告が入らないとペイしないので、存続が難しくなるわけですが、これは本来の姿ではありませんよね。広告に頼らなくても、内容で読者に評価していただき、販売収入でしっかり成り立つというのがやはり理想です。
その意味で、「家電批評」は広告の縛りもなく自由に企画できるし、編集者としては力を発揮できる媒体だと思っています。

―何が売れる企画ですか。

やはり夏と冬のボーナス商戦狙いのものですね。「家電批評」では「べストバイ」「ワーストバイ」を行うのですが、人気が高いです。
あとは検証記事でしょうか。とりあえずユーザーの視点に立って使ってみる。そして識者の意見も入れながら、自分たちがこれだと思うものを紹介する。しっかりとした裏付けがある記事は人気を集めますね。

―雑誌のデジタル化についてはいかがですか。意外とまだ手をつけておられないような感じです。

そうですね。本来ならもっとデジタル対応ができていてもおかしくないのかもしれませんが、正直まだ手探り状態です。アプリで出せばいいのかどうかといったことも含めて、まだ時間がかかりそうです。
昨年12月号でバックナンバーをPDFで読めるという付録をつけてみました。少しずつそんなふうにして様子をみていますが、まずは紙の雑誌の完成形を目指したいですね。

―雑誌編集の現場では、まだそういう意見は多いですね。いまどのくらい働いていますか。

編集長デスクから見た編集部風景
編集長デスクから見た編集部風景

校了時などをのぞけば通常は10時に来て8時くらいには帰ります。勤務時間のリズムをつくっていかないと部員の勤務時間もばらばらになりがちなので、比較的きっちりした勤務体系を自分でつくるように努力しています。
普通の編集長だったら展示会にいったり、スポンサー周りをやったりするのでしょうが、あまり義理をつくらないという意味でも、外回りは控えめにして、内部での制作に時間をかけています。仲良くなりすぎると批評できなくなっちゃいますからね(笑)。
土日は休めますが、子供が小さいのでいっしょに遊んだり散歩したり、まあ地味な生活ですよ(笑)。

編集長の愛読誌

(2011年8月)

取材後記
近ごろ元気のいい雑誌ということで、この「家電批評」の名前を聞くことが多くなりました。そこで、どういう方が編集されているのかと編集部を訪ねてみました。編集部は出版の街、神田・神保町の駅からほど近い新しいビルの中にありました。
確かに社員の方々も若々しく、出版の新しい動きを感じさせる雰囲気がありました。編集長の沢井さんが「36歳でもはや高齢者扱い(笑)」というだけでも、これからの会社なんだというメッセージが伝わってきます。
「広告に頼らず、読者目線で見た本物を目指す」というスタンスは、出版の原点でもあるはずです。いま一度そんな原点に戻って新しい試みをやるということに、出版のひとつの未来像、可能性をみたような気がしました。

インタビュアー:小西克博

大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。

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