BE-PAL(ビーパル)の編集長インタビュー

編集長プロフィール

小学館
「BE-PAL(ビーパル)」編集長 酒井直人さん

さかいなおと 1963年東京生まれ。青山学院大学卒業後、小学館入社。『BE-PAL』『DIME』『ラピタ』編集部を経て、2007年より『BE-PAL』編集長に。アウトドア遊びで好きなのは水遊び(カヌーなど)と火遊び(焚き火)。

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第66回 BE-PAL(ビーパル) 編集長 酒井直人さん

等身大で自然との愉しい共生を

―創刊30周年ですね。それに第2回雑誌大賞にもノミネートされました。

意外に小規模な編集部
意外に小規模な編集部

有難うございます。本当に皆様のお陰だと思っています。これだけ長く続けられたのも、雑誌大賞にノミネートしていただいたのも、嬉しい限りです。創刊30周年の記念として10月8~9日に、新潟の無印良品津南キャンプ場でキャンプイベントやるんです。キャンプしながら連載陣のトークショーを楽しんでもらったり、マイク眞木さんのライブやったりと、1泊2日ですが、読者の方々とのんびり交流しようと企画しました。
以前は3000人規模のイベントだったんですが、今回は2~300人規模です。コンテンツも少なめにして、とにかく、のんびり自然と触れ合おうという、まあこの雑誌の原点に帰るようなイベントになればと思っています。

―創刊時と比べて読者層は変わったのですか。

ええ、創刊時は20代が多かったですね。いまはだいたい45歳くらいが読者の中心層でしょうか。実際、読者層は10代~80代まで広いんですよ。でも創刊のころからずっと読んで下さっているような方々が多く、その方々がだいたい中心世代になっているのかなと思っています。
雑誌って「若い人にターゲットしてその層を取り込んでいかないとすぐに老ける」って言われますが、この雑誌に関してはあまりそういったことは意識していないですね。
女性は20代の方々が読んで下さってますし、学校の先生方の読者も多いんです。修学旅行や臨海学校のときのネタ本になるそうなんです(笑)。

―アウトドア・ライフの教則本ですものね。

完売した5月号と7月号(1)
完売した5月号と7月号(1)
完売した5月号と7月号(2)
完売した5月号と7月号(2)

そうですね。なかなかアウトドアの知恵って、やっぱり経験してみないと身に付かないじゃないですか。でも社会人になるとなかなか気軽にアウトドア生活をというわけにもいかないらしい。そんなとき役にたつようです。先生方も「BE-PAL」読んでネタを仕入れて、海や山でワザを披露するんですね(笑)。
ことしは3月に大震災があり防災ということが注目されて、5月号の特集「いざという時に役に立つアウトドア道具の選び方」は注目されました。急いで特集記事を差し替えてつくったんですが、皆さんのお役に立つことができてよかったかなと思っています。

―雑誌大賞にもノミネートされた30周年記念号はいかがですか。

7月号ですが、お蔭様で完売しました。付録にワークツールをつけてみたのですが、これが大人気でしたね。

―酒井さんは何代目の編集長になるのですか。

僕は6人目、7代目です。新人で入ったのが「BE-PAL」編集部でした。学生時代からキャンプをやったりして、自然は好きでしたが、専門的に登山をやったわけではありません。むしろ僕はずっとラグビーをやってきていまして、人と競って勝つことばかりを追求してきてたんですよ(笑)。それがこの編集部へきて、取材で自然の中に入っていくようになると、なんで僕は人と競って生きてきたんだろうって、ちょっと考えちゃいまして・・・。
それから「DIME」編集部に異動になったのですが、しばらくすると「BE-PAL」が懐かしくなって、編集部の先輩に「BE-PAL」のOBで「OB-PAL」という雑誌をつくりましょうと提案したら「俺もつくりたいことがある」ということになって、それが「ラピタ」という雑誌になったんですよ。

―へー。で、めでたく「BE-PAL」にもどれたんですか。

はい、まあ結局「ラピタ」には10年いましたけど(笑)。
ですから小学館では、ずっと基本ライフスタイル誌系ですね。むかしは取材に行っても変人扱いされましてね(笑)。だって昼間からアウトドアとかいって遊んでるようにしか見えないじゃないですか。だから、取材終わって居酒屋で打ち上げなんかやっても、あんたら学生でしょ、みたいに店の人に思われて「領収書お願いします」って言いにくい(笑)。

―いや、うらやましがられる仕事です。でも、「BE-PAL」のお陰で、日本のアウトドアの世界は成熟したと思います。

そういって頂けると有難いです。いわゆるハードなアウトドア雑誌ではないので、むかしは専門家からは軽く見られたりしてましたけど、それが狙いでもあったんです。アメリカ式のバーベキューを楽しむ野外活動とかが僕らは気持ちよかったんです。そんな僕らの気持ちいい自然生活を読者の皆さんに伝えたかったし、ぼくらはまずそうあるべきだと思ってきました。
「専門家に後ろ指をさされろ!」そう僕は先輩から言われました。あくまでわれわれの雑誌は一般のアウトドア好きな人たちに、快適なライフスタイルを提案するということなんですね。

―でも、古い読者と新しい若い読者が混在していると中味がぶれませんか。

古い読者の方々はだいたいベーシックなことは理解されているので、その上で新しいものに出会いたいと考える。あとはもう少し字を大きくしろとか(笑)。若い方々はやはりファッションとしていろいろ捉えますね。女性はもう完璧にファッションです。
でも正直、全部に対応するなんて無理なんです。ですから、僕は雑誌を若返らそうともあえて思わないし、やはり自分たちが面白いと感じるものしか紹介できない。だから編集部の等身大の雑誌ということでいいんだと思っています。

―「BE-PAL」はカヌーイストの野田知佑さんをはじめ、多くの筆者が文化を生み出してきたと思います。いまの若い執筆陣たちはその点ではいかがですか。

そうですね。野田さんはまさに象徴的な人だと思います。野田さんの登場まであの水辺からの視点というのはなかったし、「BE-PAL」のヒーローであることは間違いありません。その他にも、マウンテンバイク、シーカヤックというのも早くから取り上げ、ブームをつくってきたといえます。いまも新しい遊びを紹介してそこそこブームになったりもしますが、以前ほどマスにはひろがりませんね。書き手も優秀な人は多くいますが、まだまだ野田さんのような深みだったり、野性味だったり・・・そんな表現者はいないと思います。

―競合誌って昔たくさんあったような気がしますが。

アメリカ「バックパッカー」誌とコラボした被災地支援バンダナ
アメリカ「バックパッカー」誌とコラボした被災地支援バンダナ


そうですね。アウトドアライフやオートキャンプがブームでしたから。でもいま競合ってないような気がします。長くやってると好き嫌いがはっきりしてきて、好きな人は本当にずーっと読んで下さるけど、そうじゃない人には見向きもされない、そんなタイプの雑誌なんでしょうね。
でも嬉しかったのは、この前アメリカでアウトドアのイベントがあって、「バックパッカー」誌の編集長から声をかけていただいて、何か一緒にできることはないかって誘われたんです。それまでもうちの雑誌をよく読んでいただいてて、声はかけてくださってたんですが、なかなかチャンスがなかった。今回は震災復興のためにアウトドアメーカーと手を組んでつくったバンダナをアメリカで売ってくれるということになりました。この売上で少しでも被災地のお役にたてたらという思いがわれわれの共通の思いです。長くやってるとこういうことができるようになるんですね。
高名なナチュラリスト作家のジョン・ミューアは「自然と楽しんだ人だけが自然を大事にできる」と言いました。われわれもこうありたいと思います。

―それに女子のための増刊も出ましたね。

「BE-PAL」から生まれた女性誌「falo」
「BE-PAL」から生まれた女性誌「falo」

はい、女子力はあなどれません(笑)。絶対的な購買力は女子にありです。「falo(ファーロ)」という雑誌をつくりました。まさに「BE-PAL」からうまれたファッショナブルな山ガールたちの女子力を上げる雑誌です。お蔭様で好評です。

―編集部に女性はいらっしゃるのですか。

1人だけですけどいます(笑)。女子ネタは彼女が仕切ります。でも編集部って僕入れて5人しかいないんですよ。

―けっこう少ないですね。

少ないですね。もちろん外部のライターさんとかの力を借りるんですが、それにしても大変です。とくに昼間遊んで、あ、いや仕事で取材して(笑)からってことになると、どうしても夜にデスクワークということになりますから、キツイですね。
まだまだやりたいこともたくさんあるので、もうふたりくらいほしいところですね。

―webサイトも情報満載でよくできていると思いますが。

これは別の部署でつくっているのですが、編集部から記事や写真を出しています。もう少し人がいれば、確かにwebサイトにももう少し力を入れていけるのですが。
30年間蓄積されたコンテンツがすでにいっぱいあるわけですから、デジタルにも力を入れていきたいです。
デジタル化された情報はとにかく早いですから、読者の会員組織をつくって、そこで「BE-PAL」独自の情報サイトを構築したいと思っているんです。
ありがたいことにmixiにファンサイトがあるんですが、やはり編集部が主導しないと・・・という気もします。

―「「BE-PAL」読者はモノにこだわる人も多そうだから、サイトもeコマースを積極的にからめてやっていければいいですね。雑誌はすでにしっかりしたブランドになっているわけですし。

編集長のカバンはもちろん「BE-PAL」ブランド
編集長のカバンはもちろん「BE-PAL」ブランド

少しずつでもそうやっていきたいです。あ、僕が提案してつくった富士山を象ったマグカップがあるんですが、これは売れました(笑)。オリジナル・グッズは売れますね。「BE-PAL」は文字通り「友だちになろう」なわけで、自然の中で気持ちのいい時間を仲間と過ごす、がまさにコンセプトです。
この自然と人間との関係が根底にあるものには、もっと「BE-PAL」として応援していきたいし、そんな関係を政治や経済の根底に流したいと思っているんです。ドイツの緑の党みたいな政党が日本にあってもいいと思ってるくらいなんですよ。

―日本は自然が豊かすぎるんでしょうかね。ついそこを疎かにしてしまいがち。ところでお子さんはいらっしゃいますか。

高校1年、中学2年、小学5年と3人います。全部男です。我が家はやかましいですよ(笑)。
でも、小さい頃からフィールドで過ごしてますから、みんな自然が大好きです。僕が取材で焚き火なんてやって帰ってきたら、すぐにかぎつけ、うらやましがること。もう大変、匂いが服についてますからね(笑)。
僕は、勉強のことはともかく、子供たちには人間としてのたくましさや、自分を助け、他人を助けることの大切さを教えたいと思っています。まだ子供らが幼かったころ、帰宅して家に誰もいなかったので近くのおじいちゃんの家まで行った。でもそこも閉まってたから庭で火を熾し、焚き火でマシュマロを焼いて食べながら帰宅を待ったという話をきいて、子供だけで火を扱うのは危ないよ~、と注意しながらも、けっこうサバイバルできてんじゃんと、ちょっと嬉しかったことがあったんですよ(笑)。

編集長の愛読誌

  • 1.Backpacker(Cruz Bay Publishing)

    アメリカのアウトドア最前線がわかります。ユーモアもあり、見ていて楽しい。

  • 2.Outside(Mariah media)

    これもアメリカのアウトドア誌。テーマの守備範囲の広さはBE-PALに通じるものがある。

  • 3.ラグビーマガジン(ベースボールマガジン社)

    フ心はいまだにラグビー少年。2019年は日本でワールドカップ開催ですぞ。

  • 4.ザ・フナイ(船井メディア

    ここに書いてあることは誰にもいわないでね、といわれているような記事が満載。ミステリアスで面白い。

  • 5.チルチンびと(風土社)

    自然を取り入れながら無理なく生活するスタイルがたくさん見られ、憧れます。

(2011年8月)

取材後記
酒井さんが「BE-PAL」が生んだヒーローと言われた野田知佑さんに、私はカヌーを教わったことがありました。もう何年も前ですが、彼の暮らす四国にお邪魔して川で遊びながら焚き火をし、大先輩と酒を飲んで語り合うという、なんとも贅沢な時間を過ごしました。野田さんには森羅万象を知り尽くした仙人のような趣すらありました。
野田さんは酒が入って気分がよくなってくるとハモニカを取り出し、何曲もいろんな歌を吹いてくれました。横たわって仰ぎ見る夜空は、天の川から本当に星が降り注いでくるような、ちょっと怖いほどの満天の星空です。
私はボーイスカウトの出身だし、小学生のときから冬山キャンプなども経験していましたから、アウトドア・ライフには馴染みがありました。でもそれは、結構泥臭い世界でもありました。自然と人間との共感といった世界が、泥臭さから気持ちのよいスタイリッシュな「文学」にまで高められたのは、やはり野田さんのような方がいてくれたからだと思うのです。
「BE-PAL」は軟弱雑誌といわれながらも、そんなしっかりとした深みのある世界観を内包していました。スタイリッシュな宇宙を秘めていました。雑誌の底流に流れるそんな豊かな世界。新しい女性誌「falo」を見せてもらってまず思ったのは、そんなことでした。

インタビュアー:小西克博

大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。

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