「無線でただ電波を聞くだけで楽しいのか?」といわれれると、これがすごく楽しいんですよ。たとえば、 警察無線が聞けた時代は警察の犯人逮捕までの白熱した攻防が聞けていたし、 今でも消防無線を受信すれば消防現場での救出のやりとりがそのまま聞けてしまったりするわけです。ディズニーランドで使えば、 スタッフのやりとりを聞くこともできるので、 どのアトラクションが「○ 分待ち」 というのもすぐに分かって、 お父さんが子供に見直されるなんてこともありますね」
こう語ってくれたのは『ラジオライフ』編集長の遠藤さん。編集担当になったのをきっかけに無線についてゼロから学んだが、もともとは生粋の文系だったという。
「入社前は書籍を作りたかったし、『ラジオライフ』はとくに敷居が高くて、正直ここだけはイヤだなって思ってましたよ(笑)。読者がすごく知識を持っている方々ばかりなので、そんな人々に毎月情報を提供して満足させなければいけないわけですから、相当なプレッシャーでしたね。まずは周波数を覚えることからスタートしました。普通のラジオではせいぜい90MHzくらいまでしか聞くことができませんが、無線機なら3000MHzくらいまで聞けるんです。一般家庭のコードレスから、航空、消防、鉄道などの無線まで、聞くことのできる電波はたくさんあって、それらの周波数すべて頭に入れましたよ(笑)」
そんな遠藤さんが無線を通じて聞いた記念すべき最初の電波とは
「住宅街のコードレス電話での会話です(笑)。ビックリしましたけど、おもしろかったですね。やっぱり、表に出ない他人の会話というのはみんな興味があるんじゃないですか。他人に聞かれていないと思って話しているからこそおもしろいんです」
ただし、アマチュア無線はあくまでも個人で楽しむためのもの。電波法を守って、これらで得た情報は第三者に漏らさないのが鉄則だ。
「オススメは武道館などのライブ会場周辺です。マイクからミキサーに届く前の声が全部聞こえてくるんです。しかもバックミュージックもないアカペラ状態なので、歌のうまい下手ははっきりと分かるし、ほとんど口パクのアーティストもいたりしてビックリすると思いますよ(笑)」

「オススメは武道館などのライブ会場周辺です。マイクからミキサーに届く前の声が全部聞こえてくるんです。しかもバックミュージックもないアカペラ状態なので、歌のうまい下手ははっきりと分かるし、ほとんど口パクのアーティストもいたりしてビックリすると思いますよ(笑)」
そんな『ラジオライフ』は今年で創刊30周年を迎える老舗雑誌でもある。「今でこそ無線以外の記事も載せていますが、もともとは「無線」から始まった雑誌ですから、毎月無線の記事は必ず載せるようにしています。無線専門の雑誌が少なくなっているので、読者の拠り所でありたいという気持ちは常にありますね」創刊当初(82年)より、読者同士の交流や情報交換の場として、編集部主催で開催されているのが、月に1度の゛ペディションである。このイベントは毎月全国各地で行われ、参加者は数十人から、多い時では百人以上。各自が秘蔵レアアイテムを披露したり、編集部主催のプレゼント争奪ジャンケン大会に参加したりすることができる、マニアにとっては貴重なイベントだ。「無線ってクラスに一人というより、学年に一人、多くて数人というくらいのマニアックな趣味になりつつあるで、身近な場ではなかなか仲間に出会えないんですよ(笑)。同じ趣味を持つ同志と親睦を深めて、読者が交流を図る場として活用してもらいたいと思っています」
現在『ラジオライフ』では、無線を中心に、通信全般、ラジオ、警察、セキュリティから各種裏技まで、マニアックな内容をはば広く扱っている。2009年11月号では、ドラクエIX(※いわずと知れた大ヒットゲーム『ドラゴンクエストIX』)のすれちがい通信機能をパワーアップさせるという、筆者個人的にもかなり気になる実験を行っている。
「すれちがい通信って本来はせいぜい半径10mくらいが限界なんですけど、もっと広範囲にできないかなと冗談半分で技術者の方に言ってみたんです。そしたらじゃあ作ってみようということになって」

ご存知でない方のために補足すると、このすれちがい通信は、本編クリア後もプレイヤー間が Wi-Fi通信によって宝の地図を交換し合い、より長くゲームを楽しむことができるというもの。東京・秋葉原のヨドバシカメラ前には「ルイーダの酒場」なる、すれちがい通信専用スペースまで登場し、ニュースで取り上げられるほど賑わいをみせた。本誌をご覧になった方はお分かりかと思うが、ニンテンドーDS本体に内蔵されているアンテナを外側に引き出して強化し送受信範囲を広げるのだが、写真にあったアンテナの大きさは、本体をはるかに上回り、どちらが本体か分からないほどだった。そして実験の結果、1km離れても見事通信可能に(!)。残念ながら、法律上、屋外で使うことはできないそうで、この実験も某有名研究所の電波暗室で行われたものだという。
「雑誌でゲームの特集といえば、ふつうは敵やダンジョンの攻略法を取り上げますが、『ラジオライフ』では一般誌的なアプローチではなく、機械いじりが好きな読者のために、技術面に目を向けるようにしています。『ラジオライフ』の読者は普通の人が考えつかないようなことを検証するのが好きな人が多いんですよね(笑)」
すれちがい通信の経験者として、これはかなり画期的な実験だといえる。なんとか改良版を市販して欲しいものだが、あくまでこの企画は「誰もやらないであろうと思われることを全力で検証する」ことこそが重要なのである。読者はそれを共有することより、一種のカタルシスを味わうことすらできる。というのは大袈裟かもしれないが、なんだかそんな憎めないあいつのような『ラジオライフ』がますます大好きになってしまうんじゃないだろうか。
「僕自身は知識ばかりで実際、改造や機械いじりはあまりやらないんですけど、技術を持った人との出会いには恵まれました。メーカーで技術部にいた人だったり、秋葉のショップ店長だったり、理工学部の学生だったり、実際に会ってコミュニケーションをとりながら協力していただいて雑誌を作ってきました。読者を含め、ここで出会った人脈が僕にとってのかけがえのない財産ですね」
遠藤さん曰く「無線は未知の人と未知の場所に繋がっている」のだという。自分が世界でひとりぼっちのような夜にも、どこかで誰かが電波を発信し、受け取っているのだ。
(2009年08月)