――8月になりました。今年の秋物特集はどんな感じですか。
編集部に撮影用の衣装が揃い始めた
10月号(9月10日売り)はジャケットとパンツが中心です。色は黒とグレーが基本になります。
普段この時期はスーツを見せるんですが、不況の影響かスーツ市場があまり動かないんですよ。だから紹介しづらいんです。メーカーさんも新規トレンドを打ち出してこないで様子見モードなんですね。ですので、ひと月遅らせました。 スーツを楽しんで着る人が少なくなっていることに加え、この低価格競争ですから、みんなスーツ自体から目が離れているみたいなんです。本当はビジネスマンが素敵なスーツを着てカッコよく過ごす“幸せ”のようなものを前面に出したいんですが。
――来年が創刊20年ですが当時と比べて読者層は変わってきていますか。
「JJ FOR MEN」の文字が入った「ゲイナー」創刊号
今の読者は30歳前後、いわゆる“アラサー”が中心ですが、創刊時の読者はもっと若かったですね。
もともと「JJ FOR MEN」と表紙にもうたったように、あの「JJ」の男性版として世に出たわけです。JJ世代というと女子大生で、その彼氏が読む雑誌という位置付けでした。今より5、6歳は読者が若かったと思います。
読者の年代が少し上がったのは、現在では25歳くらいまでだとまだ社会人といっても経験が浅いし、お金もないしで、なかなかかつての同世代が経験していたようなことに手が届かないからだと思うんです。創刊のころは世の中がまだバブルで、学生でもかなりいろんなことができましたから。それと、今の25歳くらいって多様化していて一括りにしづらいんです。30歳くらいになってやっといろんな志向性がはっきりしてくるんじゃないかな。ですから、われわれもスタイルが見えてきた世代に向けて発信しないと焦点がぼけたものになってしまう気がしています。
――「ゲイナー」って英語のgainer、いわゆる勝ち組みたいなイケイケ男子を想像してしまいますが。
現在の市況では少しきついタイトルかも(笑)。
でも、若いうちにいろんなものを獲得しておかないと後で苦労しますよね。知識でも経験でも、センスを磨くことや人脈をつくることもそうですが、そこをしっかり貪欲にやろうよということがテーマなんですね。若いうちじゃないと手に入らないものって本当にたくさんあるんです。そんなメッセージは散りばめています。読者の中心は都会で働くビジネスマンですからね。ヤンエグという言葉はもはや死語ですが、少しアッパーな匂いはコアな部分にずっと流れていると思います。
――編集長から見た最近のゲイナー世代の人たちってどんな印象ですか。
全体的におとなしい印象です。ソフィスティケートされた大人になってきているとも言えますが、草食系とかって名づけられて、からかわれる側面もあります。アプローチがいろいろソフトになっているということでしょうね。 会社などでも同僚・同期から“浮かない”ことが大切で、でもその中からどうやって上に行こうかということはしっかり考えている。
では、彼らは遊んでないのか、というとそんなことはないですね。六本木でも恵比寿でも遊んでいる人はしっかり遊んでいる。本当に不況なの?と思うくらいお金も使ってる(笑)。 遊びの現場で昔と違っているのは、車がないということです。車というナンパツールがなくなった分、ダーツとかカラオケとかゴルフバーなんかでみんな集っているようですね。
ただ遊びの幅は広がっていないように思えます。ですから「ゲイナー」としては、アフター7の遊びを紹介するときでも、「あまり内向きにならないで、もっと前向きにいろいろやってみようよ」というメッセージは出していきたいです。
――確かに一部では不景気など関係のないようなシーンに出くわしたりもしますが、一般的に景気はやはり悪いし、それはまたさまざまなところに影響を与えていると思うのですが。
男性ファッション誌は特にあおりをくってます(笑)。ファッション・アイテムのセレクトにしても、値段が手ごろなもの中心になってきていますね。手が届く範囲で買いものをして、あとはいかにそれを組み合わせるか。
“セレクトと着回し”は結構重要なキーワードになっています。でも、手が届くものばかりをカタログのように取り上げるようなことはしたくありません。 時代を反映させる意味で、今度試しに「弁当特集」みたいなのもやってみようと思っているのですが、はたしてそれがいいのかどうかは正直よくわかりませんね。
――競合誌となると何になるのですか。
ファッション誌にはひととおり目を通す、と編集長
同じ発売日の「メンズクラブ」(アシェット婦人画報社)でしょうか。でもこの雑誌は35歳くらいがターゲットなので少し上の世代ですね。アンケートでは「ビギン」(世界文化社)も併読誌としてよく登場しますが、この雑誌はモノへのこだわりのほうに力点が置かれているので厳密には競合とは言えないような気がします。 「ゲイナー」のオリジナリティは、あくまでビジネスマンのためのファッション誌であるということでしょう。マイナスキャンペーンはやらないし、ハダカもやりません。モデルも外国人ではなく日本人が中心です。KENという日系3世のモデルがメインとして登場しますが、彼もバタ臭系な日本人顔。やはりモデルも身近で手が届く感じでないと現実感がないですからね。
――読者にとって興味あるテーマというのは何でしょう。
「どうすれば仲間内で半歩、一歩リードできるのか」が共通した興味なのではないかと思います。
それと関連しますが、やはり「モテる」ということ。どうすればモテるか、女性の興味をひけるか、これは重要ですね。あとは、仕事を含めた生活環境をどうするかといった類のものです。でも読者の声は参考にしますが、一部からだけのデータを信用しきって何かをつくるといったようなことはしません。必ずそこに一枚フィルターをかけるようにしています。
――創刊時といまとでは「モテる人」や「モテるテク」に違いはありますか。
いまは以前より、仲間内感がカギなのだと思います。飛びぬけたヒーローではなく身近なところの誰それ、グループ内でのちょっとカッコいいあの人みたいな、そんな人がモテる。だから集団内の全体のバランスに配慮しながらも、どこか一歩リードしてモテる人になろうとするのでは。
それと、女のコを笑わせたり喜ばせたりできる人。お笑い芸人がもてはやされているのを見ても何となくわかりますよね。身近な人で面白い人。
テクについては、いろいろ実践的に紹介しています。「ゲイナー」のスタンスは「女のコの意見はちゃんと聞いて取り入れるけど、それに全部従うのではなく上手にこなす」ということですね。女性って、こと男性ファッションに関してはやはりコンサバ好きですね。だから、女性好みのアイテムだけで男の服を構成していくと、あれ? やっぱりちょっと…、ってことになりがちなんです。だから、女性の意見を上手に受け入れながらも、男としての自分の主張もしっかり入れていくということでしょうか。 女性と並んで歩いてカッコいいファッションなどは積極的にやっていますけど、2人の共通の価値というかセンスを高めるような取り組みも「モテるテク」のひとつだと思っています。
――編集長は遊んでますか。
遊んでません(笑)。遊ばなきゃインプットがないんでダメなんですけどね。
僕は入社後は営業で働き、それから「JJ」の編集を9年半やりました。「JJ」時代は本当にいろんなことを学んだし、遊んでました。いや遊びも学びも一緒でした。「JJ」が激売れしていた最盛期のころでしたから本当に忙しかったですが、やったことがすぐに反響につながりエキサイティングな毎日でした。
それが11年前に「ゲイナー」編集部に来たら、妙に落ち着いていて(笑)。 女性誌と男性誌ってこうまで違うものかとびっくりしました。消費行動が女性と男性とでは全然違うんですよね。そしてその消費は広告に直結して雑誌の根幹部分を支えているわけですから、男性誌はキビシイんだなと実感しました。
――では、日々粛々と仕事をされていると。
進行のために2ヶ月単位で貼られるカレンダー
いえいえ、忙しいのには違いないんですよ。部員が僕を入れてたった6人ですから、 いわゆる会議は月1回です。なにせ6人だけですし、みんなすぐ周りにいますから。編集者にまかせる部分は多いです。彼らの裁量ですべてやってもらいます。もちろん途中でうるさくチェックは入れますが。
僕自身、朝はゆっくりめですが、昼間は展示会回りや取材、撮影で動き、夜は23時くらいまで会社にいるのが日常です。 趣味は競馬くらいでしょうか。競馬って、人間ではなく馬がレースをするので人知を超えた不思議な魅力があるんですね。推理小説を読み解く楽しみに似てるかな。
あ、10月号から公式サイトgainer.jp(http://gainer.jp)がオープンします。ようやくオリジナルサイトができてくるわけです。遅いかな(笑)。 僕はアナログ世代ですが、読者がweb世代、携帯世代なので、これからはこちらのほうにしっかり力を入れていかないといけないと思っています。われわれのメッセージというか企画の趣旨は基本的に変わらないと思いますが。
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1.芸術新潮(新潮社)
一見難しいアートの敷居を低くわかりやすく提示してくれるうえ、各号ごとの特集テーマが興味深い。
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2.少年マガジン(講談社)
子供のころから単なるマンガ好きなもので。就活時は集英社さんの「別マ」志望でしたが(笑)。
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3.コミックモーニング(講談社)
「バガボンド」の画力は本当に凄い。
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4.AERA(朝日新聞出版)
ヘアサロンにあると必ず読んでしまいます。
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5.Newsweek日本版(阪急コミュニケーションズ)
ニュースの論点をわかりやすく解説してくれていて、経済下手な私にはありがたい。
(2009年8月)