サイゾーの編集長インタビュー

編集長プロフィール

サイゾー
「サイゾー」編集長 揖斐憲さん

いびただし 1972年生まれ。専門学校在学時より、雑誌「ワイアード」(同朋舎出版)編集部でアシスタントとして従事。
98年より、同誌編集長が立ち上げた(株)インフォバーンにて、「サイゾー」の 編集に携わる。02年より、同誌編集長。07年に㈱インフォバーンより独立し、(株)サイゾーの代表取締役も兼務。「日刊サイゾー」など、ウェブメディアも展開中。

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第23回 サイゾー 編集長 揖斐憲さん

雑誌は嗜好品になっていく。ここでしか得られない価値を提供できれば存続します。

―「サイゾー」は創刊10周年なんですね。

はい、2009年6月で10年目を迎えました。創刊編集長の小林(現インフォバーン会長)が立ち上げたときから、ずっと僕は「サイゾー」の編集に関わってきました。07年12月に株式会社サイゾーとしてインフォバーンから独立しました。
ソリューション事業が大きくなったインフォバーンは、大手企業や芸能プロなどとの付き合いも増えたので、各ジャンルでタブーを極力排して報道や批評をするという「サイゾー」との共存が難しくなったんですね。

―独立しても、広告収入は厳しいでしょうし、売り上げだけの勝負になるでしょうから、大変ですよね。

アダルト業界は大切なクライアント
アダルト業界は大切なクライアント

バックアップしてくれるスポンサーもついたので独立を決めたのですが、かなりふらついた時期もありました。
でも独立系だからこそ自由にやれるところがわれわれの仕事の強み。読者もそこについてきてくれているわけですから、その固定ファンをうらぎらなければ、なんとかやっていけるだろうと(笑)。 でも、ここにきて不況の影響もあり、120パーセントの力を出し切ってようやく昔の合格ラインに達するかどうか、といったところです。
売れ始めたらセブンイレブンも取り扱いを始めてくれたんですが、ちょっと落ちるとまた入れてもらえなくなる。その代わり、セブンイレブン・タブーもなくなって、今は同社の問題もしっかり報じています(笑)。
広告はアダルト中心ですが、この業界の方々は「サイゾー」のシンパも多いようで、なんとかそんな人たちに支持してもらってるんですね。

―いい読者、スポンサーに恵まれているようですね。

辛酸なめ子さんの連載タイトルは・・・
辛酸なめ子さんの連載タイトルは・・・

はい。情報感度の高い人が読んでくれていますね。読者には業界の人も多いです。一方、地方に行くと知名度も低いので売れないんですよ。
それにやはり「マスメディアにはない情報」を報じるという役割は、ネットにどんどん奪われていくので、強い個性を出さないとなかなか読者を引っ張っていけないですね。
幸い「サイゾー」は月刊誌なので、1ヶ月というサイクルでできる限り深さを出すようにしています。最近でいえば、のりぴーや押尾問題をあえて扱わなかったのは、このサイクルに合わない気がしたからです。掘り下げられそうならやったでしょうね。
それと、雑誌ならではの「手にとって読む快感」をどう与えていくか。雑誌って、もはや嗜好品の領域だと思うんです。ワインや葉巻と同じですね。その傾向は、今後、どんどん強まっていくでしょう。
ユーザーの嗜好に合うような強い個性をどう出していくかが存続のカギだと思っています。
飛び出す表紙とかできたらやってみたいですよ(笑)。

―表紙といえば、やはり女性が不可欠なのでしょうか。

インパクトのある表紙。左上が創刊号
インパクトのある表紙。左上が創刊号

ええ、そう思います。「サイゾー」の場合、裏の世界を表に出す、といったコンセプトがあるので、ともすればグロっぽくなってしまうのですが、読者には「おっ、いい女が載っているな」という動機でもいいから、気軽に手に取ってほしいんですよ。
それに、表紙でやさしい感じや、ちょっとエッチな感じで見せると、中身とのアンバランスな感じが際立って、いい具合の遊び感覚になるんです。メジャーとマイナーのバランス感にも気をつかっていますので、そういった意味も出せているかなと。
表紙はまた芸能事務所との付き合いにも役立っています。芸能ネタは人気コンテンツですが、それらの情報は事務所との付き合いがあるからこそ入手できるものも多い。そうした事務所とのつきあいを広げるためにも、表紙は役にやっています。
でも表紙に出てもらったからその人や事務所はタブーなのか、というとそんなことはありません。ヨイショするページはする、そうでないところではしっかり批判する。その裏表の使い分けもバランス感覚の問題ですよね。

―でもジャニーズとかバーニングのタレントは出ないでしょう。

そうですね、創刊以来ずっとちょっかいを出してますし(笑)。吉本興業が微妙なところですかね。フジテレビには完全に嫌われているし、今は研音もスターダストもダメかな(笑)。大きいところはネタにする機会も多いので嫌がられてますね。
でも大マスコミでは考えられないでしょうが、「サイゾー」のようなニッチな媒体だと、逆に嫌われることで存在価値が出るんです。
「サイゾー」は創刊からずっとそうなんですが、世の中の一辺倒な流れに対してアンチテーゼを出すということがスタンスなんです。「視点をリニューアルする情報誌」と表紙にも謳っています。ですから、立ち位置としては、それでいいんです。
視点をリニューアルするって大事なことで、人間関係もひいては国際関係も、みなそうあればいいと思うんです。つまり相手の視点に 立つ、自分とは異なる立場に立つ、というスタンスで、一度は物事を考えてみようってことですよね。
でも、それを説教臭くやっではダメなんですね。オピニオン雑誌じゃないですから。むしろオピニオンはいっぱいあるよ、ということを見せたいんですね。

―その意味でのニッチな立ち位置は、ネット社会との親和性が高いでしょうね。

奥が編集部、手前がwebチーム
奥が編集部、手前がwebチーム

そうですね。創刊当初からネット的な媒体だったのかもしれません。ただ現実のネットの世界の読者の嗜好は紙媒体の世界とかけ離れていて、ネットで「サイゾー」の定期購読キャンペーンを力を入れてやったりしてもあまり刺さらないんですよ。読者がもともと違うんですね。
「サイゾー」の読者はだいたい20代半ば~30代前半の男性中心なんですが、ネットとなるとMixiからサイトに入ってくる人が多くて、たいてい10代ですよね。紙と比べてひと世代若いって印象です。
「サイゾー」が展開するウェブメディアは「日刊サイゾー」(http://www.cyzo.com/)といって、当初は本誌でこぼれたネタを中心に展開していたのですが、これだけでビジネスになりそうということになって、いまはwebで3媒体(「雑誌サイゾー」「メンズサイゾー」「サイゾーウーマン」)、携帯で1媒体(「サイゾー裏チャンネル」)の運営をしています。
「日刊サイゾー」はいま月に1000万のPVがあります。先ほども言いましたが、この「日刊サイゾー」の読者を、雑誌である「サイゾー」の読者にすることは難しい。彼らは、ネットで完結したいのでしょう。そういう読者向けに、「サイゾー」に載せた記事を、有料化してウェブで提供し、実売が落ちていくであろう雑誌の穴埋めと考えています。Twitterもやってます。
今後は有料サイトでしかつぶやけないようなことも発信していきたいですね(笑)。

―特集のテーマは編集長が決めるのですが。

「サイゾー」から生まれた最新刊の著書
「サイゾー」から生まれた本も評判に

だいたいそうですね。僕や副編集長の提案をもとに各編集者がライターとともに下調べをしてから、企画を固めていきます。
編集は僕を含む5人しかいませんから、ひとりが扱う仕事の量は多いですが、みんなよくやってくれています。今は社長としての業務も多いので、実務面は副編集長が仕切ってくれていますね。
いやがらせが多いのでは、とよく心配されるのですが、そうでもないんですよ。このくらいの媒体だと相手にされてないというか(笑)。
ジャニーズなんかネットで変なこと書くと、ファンから電話でクレームが入ってきたりするのですが、雑誌の読者はもう少し大人しいですね。状況を理解した上で判断してくれる。企業や芸能プロから内容証明をもらうこともありますが、ほとんどが話し合えば解決します。宗教が一番やっかいですね。これまでも話し合いの余地なく、いきなり訴訟に出てくるというケースがいくつかありました。

―雑誌ジャーナリズムの凋落ぶりがよく語られますが、どう見ておられますか。

「サイゾー」社初代編集長の著書も机上に
「サイゾー」初代編集長の著書も机上に

僕は週刊誌に頑張ってもらいたい。あれだけ優秀な人材を抱え、取材力もある媒体って他にないと思うんです。適度にミーハーだし、遊び心もある。こんな人たちが「サイゾー」と同じコンセプトで雑誌をつくったら、すごいものができるし、われわれはすぐに吹っ飛んじゃいますよ。
でも大手がやる以上、やれ20万部切ったからもうダメだとか、言われるわけですよね。コスト構造を変えて、5万部でもオーケーなものにできれば、まだまだ存続するし、させるべきだと思うんですよ。
編集の人が営業的センスで動く部分も増やすとか、エロをもっとうまく取り込むとか。
自分は編集しかやらない、私は年収800万円以上じゃないと納得しない、といった贅沢な体制ではなく、裏も表も理解した上で、清濁合わせ呑むくらいの度量とバランス感覚が求められていきますよね。
「サイゾー」は部数が落ちても価格を上げて、それでも買ってもらえるような媒体にしなければと思っています。やはり雑誌は嗜好品になっていくと思うんですよ。読者のニーズに応じて、300円のものから、たとえば1万円のものがあってもいい。ワインや葉巻と同じ。ここでしか得られない価値を提供できれば、常にニーズはあるものだと思っています。

編集長の愛読誌

  • 1.創(創出版)

    テレビから、雑誌まで、メディア批評が徹底している。編集長が私財を投じて頑張っている。

  • 2.紙の爆弾(鹿砦社)

    逮捕も恐れぬイケイケぶりだった前経営者の後を若い編集長がしっかりと継いでいる。

  • 3.実話ナックルズ(大洋図書)

    裏社会から、芸能、政治まで、タブーに挑戦。編集著のチャレンジ精神に感服。

  • 4.ブブカ(コアマガジン)

    芸能スキャンダルの極み。お宝写真暴露路線は、突き抜けていて真似できない。

  • 5.ZAITEN (財界展望新社)

    絶妙な経済ジャーナリズムとスキャンダリズムのバランス。裏の日経か。

(2009年10月)

取材後記
「サイゾー」を創刊したコバヘンこと小林弘人さんは私の古い友人です。彼はいまや次世代メディアのトップランナーですが、ほとんど独学であらゆる編集術を獲得した人で、その才能には昔から一種の狂気が潜んでいました。それは、ニッチな立ち位置、誰もいないところに自分だけ平然と立ち尽くすパイオニア精神と言えるのかもしれません。
そのコバヘンをして「最終的には彼に引き受けてもらいたかった」と言わしめた「サイゾー」の揖斐さん。柔らかな語り口のなかに、師匠ゆずりの独特なジャーナリスト魂とエンタテイナーとしての才能が見え隠れします。
大きな流れには乗らない。人とは違った角度で物を見る。おもしろいことには忠実に。こんなノリでつくられる「サイゾー」。編集の原点のような素朴さゆえか、どこも同じものしか流さないマスコミの報道に飽き飽きしたときなど、ちょっとしたオアシスになってくれるのです。

インタビュアー:小西克博

大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。

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