――独特の版型ですね。表4からも読めますし、ボリューム感もあります。
棚にぎっしりつまっている書評のファイル
創刊時にいろいろ話し合って考えました。読み物をたくさん集めるようにしたいということと、写真を多用したいのでそれに耐えうる大きさでなければいけないということから、このサイズに落ち着きました。
書店では文芸誌や「ダ・ヴィンチ」などと並べて置かれることが多いですが、サイズはばらばらですね。皆それぞれでいいと思います。
――設立当初、雑誌はやらないといわれていた御社ですが、05年にこちらが創刊された背景には何があったのですか。
単行本を出し続けるにあたって原稿を集める媒体がないときついですからね。最初は書き下ろしだけでやっていたのですが、それだけでは数に限りがあるし、新しい人も入りづらいですから、会社としてはどうしても雑誌が必要だという事情がありました。
それと私自身が雑誌をやりたいという強い思いがあって、それらが同時に立ち上がってきたんです。
――さまざまな物語がつまっている雑誌ですが、現在を代表する物語には何か共通するものがあるのでしょうか。
いや、それはないと思います。むしろばらばらではないでしょうか。
みんな自分のストーリーを生きるだけで大変なのかもしれません。自分と似ている人のストーリーを見ることは現実にたくさんあっても、似てない、知らない人のストーリーを垣間見るチャンスには乏しい。
だから、こんな雑誌で知らない人のストーリーや知らない事柄に触れてもらえたらいいのかなと思うんです。
――読者の多様性といえば聞こえはいいですが、雑誌のつくり手としては大変ですね。
でも、みんな読書をしなくなったというわけではないんです。読まれるものと読まれないものとの差が大きくなっただけなんです。
ひと昔前までは、ある権威が保障してくれたら、だいたいその作品は注目され一定の読者がついたものです。けれど、いまはそういう保障が無くなりました。売れるムードみたいなものが出てこないと本は売れない。
でもムードを醸し出すような仕掛けもいままでの方法論ではつくれない。確かに大変ですね(笑)。
――かといって、単行本の連載記事を集めるための、いわゆる“ゲラ雑誌”というわけにもいきませんよね。
創刊以来表紙の顔ぶれは実に豪華だ
ゲラ雑誌の要素は当然ありますが、それにプラスアルファがないと1冊ずつ読者にお金を出して買ってもらう意味がないですものね。
単なるゲラ雑誌にはしないということは創刊時から決まっていました。単体で黒字にするのは難しいですが、それでも1部でも売れる形をあきらめないというスタンスでつくっています。
そのためにも人気のあるミュージシャンや俳優に登場してもらっていますし、1号1号しっかり楽しめるようにつくっています。ですから表紙によって売り上げに差が出ます。人選もまだ試行錯誤中です。
読者は20代半ばから30歳前半の都市生活者が多いです。
――創刊時、日野さんはどういう雑誌にしたいと思ったのですか。「月刊カドカワ」の進化系みたいなイメージですか。
私自身が「月刊カドカワ」というか、かつてその編集長だった見城(幻冬舎社長)に影響されていることは事実です。実は尾崎豊の大ファンで、この尾崎と親交の厚かった編集者ということで見城をテレビで見たりする機会が多かった。もうひとつは村上龍さんや山田詠美さんが大好きでしたので、彼らの著書にも見城の名前がよく登場し、これはどうしてもこの人に会ってみないと、ということで幻冬舎に面接してもらいに来たんです。
その時はバイトしかなかったんですが、それでも入れてもらったという経緯があります。
ですから、尾崎豊的な音楽的側面と、村上さんたちの文学的側面と、両方兼ね備えた雑誌ということになると、どうしてもかつての「月刊カドカワ」に近い雰囲気があるのは当然かなと思っています。
私としては、ここで次の尾崎豊、次の村上龍を探し出すということをやりたいですね。
それと、私にとって雑誌というのは人間関係をつくるためのツールでもあります。雑誌を通じていろんな人との出会いをつくれますからね。これは自分にとっても会社にとっても大きな財産です。
――パピルス新人賞について教えてください。「この時代に読まれる必然性を備えていること」がこの賞の応募条件に掲げられています。
「パピルス」から生まれた単行本も多くある
はい。必然性というのはややオーバーな言い方で(笑)、いま本当に自分がおもしろいと強く思っていることを書いてくれればということですね。
ですから傾向と対策みたいなものもありません。自分に書くべき理由と確信があれば。
いま300通くらいの応募があります。最初は選考委員制度をとっていましたが、いまは編集部選考にしています。古典的なやり方から脱却して、勝手にやってる感じでいいと思っているんです。
いまは文学賞自身が注目されていませんから、われわれとしてもこれは試行錯誤のまっただなかですね。次回募集(第4回目)は2010年2月末の締め切りです。
――文芸編集者は作家との付き合いが中心になるので横のつながりが強いですね。
はい。でも私はなるべくそのスタイルはとらないことにしているんです。芥川賞や直木賞のパーティにも行きません。
そりゃ顔見知りの編集者、記者に会って雑談するのは大事だと思いますし、作家の先生方とのお付き合いも欠かせません。でもホテルの立食パーティでワインを飲んでローストビーフを食べて(笑)・・・というあのシステムが私には馴染まないということなんですね。
若い作家はお酒もあまり飲みませんから、編集者との付き合い方も変わっています。よく言われるように銀座の店で先生と飲んで・・・みたいな世界は本当に少なくなっていると思います。
――編集者の質も変わらざるを得ませんね。
編集部はこじんまりとしながらも資料の山だ
ええ。私の場合はあまり過去の因習にこだわるのでなく、自分のやろうとしていることがいかに“尾崎豊的”であるかどうかが判断基準です(笑)。
編集部員は私を入れて5人おりまして、みな単行本の編集も兼務しています。だからそれなりに忙しい毎日です。
私は私で昼間はレコード会社か芸能事務所に顔を出し、夜は作家さんらと会食することが多いです。そんな合間を縫って入稿などの作業があります。
――競合誌は何になるのでしょう。
競合はないと思うんです。でも見た目は「スイッチ」(スイッチパブリッシング)、小説雑誌だと「野性時代」(角川書店)、ミュージシャンは「ロッキング・オン」(ロッキング・オン)……。
ある部分が似てるってだけで、先方には競合だとも思われていないと思います(笑)。
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1.TRANSIT
見てるだけで旅気分に浸れる。編集部の気概を感じる雑誌です。
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2.コヨーテ(スイッチパブリッシング)
編集長の博識ぶりに舌をまいてしまいます。うらやましい雑誌ですね。
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3.オリ★スタ-oricon style(オリコン・エンタテインメント)
アイドルのインタビューや最新情報をこれだけ丁寧に編集して読者に届けられるなんてスゴイ!
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4.天然生活 (地球丸)
疲れてるときなどに眺めていると、僕も刺繍なんかやってみようかな~などといった気分にさせてくれるなごみの一冊。
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5.PLANETS(第二次惑星開発委員会)
日本で唯一生きている思想の雑誌だと思います。
(2009年8月)