目次
企画編集/南学正臣
<特集にあたって>
糖尿病性腎症は,網膜症や神経障害とならぶ,糖尿病三大合併症の1つであり,1998年以降一貫して透析導入原疾患の第1位を占め,国民の健康を大きく脅かしている.従来,糖尿病性腎症は,糸球体過剰濾過に始まり,微量アルブミン尿,顕性蛋白尿を経てネフローゼに至り,進行性に腎機能が低下していく病態と考えられてきたが,最近では蛋白尿が目立たない症例も多く,臨床像はより多彩になっている.この変化を反映し,実地臨床の現場からこれまでの糖尿病性腎症diabetic nephropathyの概念で糖尿病患者の腎臓の障害を捉えることが必ずしも適切でなくなってきている,という声があがってきた.
このことを反映し,欧米ではこれまで使用されていた糖尿病性腎症の代わりに,糖尿病性腎臓病(diabetickidney disease;DKD)の用語が使用されるようになっている.シカゴで行われたアメリカ腎臓学会第50回記念年次集会では,セッションのタイトルではすべてDKDが使用され,メキシコで行われた糖尿病と肥満をメインテーマとした国際腎臓学会総会でもプログラム委員長のKai-Uwe Eckardt によりDKD 対応の重要性が強調された.臨床試験における国際データ標準である CDISC(ClinicalData Interchange Standards Consortium)も,DKDの用語を採用している.
このように糖尿病患者における腎障害の臨床像が多様化してきた原因は,血糖管理の向上に伴い患者予後が改善し,レニン・アンジオテンシン系阻害薬の使用により一定の腎保護が図られるようになり,逆に腎臓に対する加齢や動脈硬化の影響が強く出るようになったため,患者がDKDとして糖尿病,高血圧,加齢,脂質異常症などさまざまな因子が複雑に関与するheterogeneousな病態を呈するようになったためである.
糖尿病患者においては初期の血糖管理が合併症の長期予後に大きく影響することが知られており,metabolicmemory,legacy effectなどといわれ,その機序が注目されている.本邦で行われた画期的な臨床研究であるJ-DOIT3により集学的治療による腎臓に対する効果も明確に示された.また,最近使用されるようになったSGLT2阻害薬やDPP-4阻害薬などの血糖降下薬には腎保護効果が認められており,本邦で行われた画期的な臨床研究であるJ-DOIT3により集学的治療による腎臓に対する効果も明確に示された.さらに現在臨床試験が行われているprolyl hydroxylase阻害薬(hypoxia inducible factor刺激薬)やbardoxolone methyl(Nrf2刺激薬)にも注目が集まっており,今後糖尿病性腎臓病患者の治療が各段に向上することが期待される.
本特集では,急速に進歩しているDKDの臨床と研究に焦点を当て,DKDの概念を整理し,現況をまとめるとともに,今後の新たな治療の方向性について,当該分野のトップリーダーの先生方に概説をお願いした.
南学正臣(東京大学大学院医学系研究科 腎臓・内分泌内科 教授)
<目次>
1. 糖尿病性腎臓病の概念/岡田浩一
2. データベース研究による糖尿病性腎臓病の解明/柏原直樹・長洲 一・神田英一郎
3. 糖尿病性腎臓病の分子メカニズム/山原真子・山原康佑・久米真司
4. 糖尿病患者における腎臓の病理所見/中川詩織・清水美保・和田隆志
5. 糖尿病性腎臓病とゲノム/庄嶋伸浩・山内敏正・南学正臣・門脇 孝
6. Metabolic memory:AGEsとepigenetics/甲斐田裕介・深水 圭
7. 糖尿病性腎臓病患者における血圧管理/今井利美・長田太助
8.DPP-4阻害薬の腎保護効果/金崎啓造
9. SGLT2阻害薬の腎保護効果/宮本 聡・和田 淳
10. 糖尿病性腎臓病に対する集学的治療の効果/植木浩二郎
11. 低酸素をターゲットとした治療:HIF刺激薬/石井太祐・田中哲洋
12. 酸化ストレスをターゲットとした治療:バルドキソロンメチルへの期待/合田朋仁・鈴木祐介
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