目次
企画編集/桑原宏一郎
<特集にあたって>
糖尿病は動脈硬化性心血管病(ASCVD)および心不全の重要な危険因子であり,糖尿病管理のゴールは当然血糖マーカーであるHbA1cの低下のみでなく,ASCVDや心不全の発症を抑制し,健康な人と変わらないQOLの維持と寿命を全うすることにある.しかし比較的最近まで厳格な血糖管理による2型糖尿病患者での心血管イベント抑制,心不全発症抑制,死亡抑制を示す明確なエビデンスは得られておらず,具体的にどのような糖尿病治療がこれらのゴールを達成可能とするかは明らかでない点も多かった.加えて心不全に関しては,大血管障害,細小血管障害と比較して糖尿病合併症として強く認識されていたとは言いがたく,糖尿病における心不全の発症機序やその予防法,治療法に関する臨床データは十分であったとは言えない.まさに糖尿病において心不全は「the frequent, forgotten, and often fatal complication」であった.
このような状況下で,SGLT2阻害薬の登場は,まさにgame changerと呼ぶにふさわしく,その状況を一変させた.SGLT2阻害薬を用いてその糖尿病患者に対する心血管イベントへの効果を検討した大規模臨床研究であるEMPA-REG OUTCOME研究とそれに引き続くCANVAS Program研究,DECLARE-TIMI 58研究では,いずれもプラセボ群に対して実薬群が30 %前後心不全入院を減少させるという驚くべき結果を示した.これらSGLT2阻害薬の2型糖尿病患者における心血管イベント,心不全入院,心血管死の抑制効果を示した研究に加えて,GLP-1受容体作動薬においても心血管イベント,心血管死抑制効果を示す結果が近年報告されている.とくにSGLT2阻害薬の心不全発症抑制効果は,上記大規模臨床研究の結果から,心血管病の二次予防のみならず,一次予防に相当する2型糖尿病患者においても幅広く認められることが明らかとなっている.これら大規模臨床研究の結果は,各国の糖尿病治療ガイドラインにおける2型糖尿病治療推奨アルゴリズムを一変させつつあり,臨床現場での2型糖尿病治療もまた大きく変わりつつある.
このように臨床現場に大きなインパクトを与えているSGLT2阻害薬を用いた臨床研究の結果は,糖尿病患者における新たな心不全発症・進展抑制アプローチの存在を明らかにしたものであるにとどまらず,糖尿病合併症としての心不全の存在を改めてクローズアップすることにもなった.現在,SGLT2阻害薬の心不全抑制メカニズムについてさまざまな側面から検討が加えられており,また同時に糖尿病における心不全の発症機序の解明にも関心が寄せられている.これらは,糖尿病合併症としての心不全の予防,治療に対する新たな視点を導入することにつながり,糖尿病患者が増加しているとともに,心不全患者も「心不全パンデミック」といわれるように増加し続けている我が国において,重要な課題であることに間違いはない.本特集号ではこのように新たな時代に突入した「糖尿病と心不全」の関係について,そのトピックスも含め,主には循環器医からの視点を中心に基礎的,臨床的見地から現状での理解を深めることを目的としたい.
<目次>
I.病態
1. 糖尿病合併心不全の疫学/絹川弘一郎
2. 糖尿病細小血管障害と心不全/佐野元昭
3. 糖尿病大血管障害と心不全/岸 拓弥
4. 糖尿病心における構造,機能,および代謝的リモデリング/清水逸平,南野 徹
II.治療
1. 糖尿病合併心不全における抗心不全療法のエビデンス/元木博彦
2. 血糖降下薬と心不全①:メトホルミン,SU薬,グリニド,インスリン/三木隆幸,佐藤達也
3. 血糖降下薬と心不全②:DPP-4阻害薬,GLP-1受容体作動薬/坂東泰子
4. 血糖降下薬と心不全③:SGLT2阻害薬/田中敦史,野出孝一
III.予防
1. 糖尿病の心不全予防における血圧管理/大西勝也
2. 糖尿病の心不全予防における脂質管理/髙橋徳仁,宮内克己
3. 糖尿病の心不全予防における体重,肥満管理/細田公則
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